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  • 公開日:2020.12.22
  • 更新日:2023-11-08

ハイリスク薬の服薬指導、どうすればいい?先輩薬剤師に聞くポイントと指導例

ハイリスク薬の服薬指導、どうすればいい?先輩薬剤師に聞くポイントと指導例

「ハイリスク薬」は、使い方を誤ると患者さまに大きな被害をもたらす場合のある医薬品のこと。薬剤師として働いていると、これらのハイリスク薬の管理や、患者さまへの服薬指導は避けて通れませんが、苦手意識をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

この記事では、ハイリスク薬の服薬指導に不安のある若手薬剤師に向けて、服薬指導のポイントやQ&A、対応例について解説していきます。

ハイリスク薬とは?

ハイリスク薬とは?

ハイリスク薬とは、特に安全管理が必要な医薬品のことで、患者さま個々の生活環境や療養状況に応じて、適切な服薬管理や服薬支援を行うよう求められている薬剤のことです。施設によって定義が異なる場合もありますが、抗悪性腫瘍剤や免疫抑制剤、抗HIV薬のような特殊な医薬品だけでなく、不整脈用剤や血液凝固阻止剤、糖尿病用剤などの一般的に内科で処方される医薬品もハイリスク薬に分類されています。

また、ハイリスク薬(別に厚生労働大臣が定めるものに限る)が処方された患者さまに対して、調剤時に関連副作用の有無等を確認し、特に注意を要する事項について指導を行うことで、「特定薬剤管理指導加算1(いわゆる、ハイリスク薬加算)」を算定することも認められています。診療報酬上の評価も行われていることから、薬剤師に求められる重要な役割のひとつと考えられています。

▼ハイリスク薬についての参考記事はこちら
ハイリスク薬とは?基礎知識と薬歴の書き方

特定薬剤管理指導加算1(ハイリスク薬加算)算定について

特定薬剤管理指導加算1は、処方箋の受付の際に、特に安全管理が必要な医薬品について、服薬状況や副作用の有無等について患者さまに確認し、必要な薬学的管理及び指導を行った場合に算定します。

特に安全管理が必要な医薬品(ハイリスク薬)

① 抗悪性腫瘍剤

② 免疫抑制剤*

③ 不整脈用剤*

④ 抗てんかん剤*

⑤ 血液凝固阻止剤

⑥ ジギタリス製剤*

⑦ テオフィリン製剤*

⑧ 精神神経用剤(SSRI、SNRI、抗パーキンソン薬を含む)*

⑨ 糖尿病用剤

⑩ 膵臓ホルモン剤

⑪ 抗HIV剤

*:特定薬剤治療管理料対象薬剤(TDM対象薬剤)を含む

ハイリスク薬における服薬指導のポイント

ハイリスク薬における服薬指導のポイント

ハイリスク薬の服薬指導を行う際は、まず患者さまが医師から受けた説明や指導内容を積極的に聴き取ることが重要です。次に、薬剤師の視点から、患者さまの基本情報や心理状態、生活環境などの情報を収集します。これらの情報をもとに、薬学的知見を交えながら総合的に判断して、副作用回避や有効性確認、医薬品適正使用などの薬学的管理に活かします。

服薬指導で特に注意すべき項目は?

特に安全管理が必要な医薬品であるハイリスク薬の服薬指導では、通常の服薬指導における薬学的管理に加えて、毎回の効果の確認や注意すべき副作用の有無、副作用発現時の対処方法、治療に対するアドヒアランスなど、様々な角度から評価を行う必要があります。「薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)」によると、ハイリスク薬の服薬指導においては、以下5つの注意すべきポイントに加えて、薬効群に対応した項目を確認することが求められています。

1) 患者に対する処方内容(薬剤名、用法・用量等)の確認
2) 服用患者のアドヒアランスの確認(飲み忘れ時の対応を含む)
3) 副作用モニタリング及び重篤な副作用発生時の対処方法の教育
4) 効果の確認(適正な用量、可能な場合の検査値のモニター)
5) 一般用医薬品やサプリメント等を含め、併用薬及び食事との相互作用の確認

引用:薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)社団法人 日本薬剤師会

また、経験の浅い薬剤師でも必要な確認と説明が実施できるように、ハイリスク薬に関して特に注意すべき事項をチェックシートにまとめて、服薬指導の際に活用することもおすすめです。なかでも注意すべき項目は薬剤ごとに異なるため、チェックシートは薬効群ごとに整理して、業務手順書などに反映させたうえで実際の業務に取り組む必要があるでしょう。

▼参考記事はコチラ
「ハイリスク薬」の薬学的管理指導において特に注意すべき事項

ハイリスク薬の服薬指導を教えて!先輩薬剤師に聞くQ&A

ハイリスク薬の服薬指導を教えて!先輩薬剤師に聞くQ&A

ここでは、ハイリスク薬の対応が不慣れな若手薬剤師に向けて、先輩薬剤師である筆者の立場からハイリスク薬服薬指導に関するポイントや注意点を、Q&A形式で解説していきます。

一度に複数のハイリスク薬が処方されている場合には、どうしたらよいですか?

症状が重篤である場合や、複数の疾患を併発している場合では、一度に複数のハイリスク薬が処方されているケースも珍しくありません。その場合は、毎回処方されているすべてのハイリスク薬について服薬指導を行い、その内容を薬歴に記載する必要があります。このとき、ハイリスク薬としてまとめるのではなく薬剤ごとに分けて記載するのがポイントです。

また、ハイリスク薬が単独で処方されている場合に比べて副作用のリスクが高まることや、薬物相互作用が起こる可能性もあるので注意が必要です。疑わしい点がある場合には、処方医に連絡・確認を行い、内容の要点や変更内容について薬歴に記載するようにしましょう。

ハイリスク薬の薬歴の書き方で、注意すべきポイントはありますか?

ハイリスク薬の薬歴記載の原則は通常の薬歴と変わりありませんが、特に注意を要する薬剤であることから、ハイリスク薬の特性に応じた内容であることが求められています。確認した情報や指導した事柄についても、そのすべての内容を記載するようにしましょう。その日のプロブレムに対する通常の薬歴とは別にして、箇条書きで書くのがおすすめです。

また、特定薬剤管理指導加算1の要件として、「従来と同一の処方内容にもかかわらず当該加算を継続して算定する場合には、特に指導が必要な内容を重点的に行い、その内容を薬剤服用歴の記録に記載すること」が明示されています。処方に変更がない場合でも特に指導が必要な内容をしっかりと見極めて、薬学的知見から薬歴を記載することが求められます。

ハイリスク薬の服薬指導を行う際に、「毎回同じことを聞かれる」と患者さまから怒られることがあります。何かコツはあるのでしょうか?

ハイリスク薬の服薬指導では、前述の「5つの共通の注意すべきポイント」に加えて、薬効群に対応した項目を確認しなければなりません。用法・用量の確認や副作用の有無についても、毎回確認することが求められています。これらは一度確認すればよいというものではなく、同じ質問をくり返すことになるため、患者さまが負担に感じることもあるでしょう。

こちらは大切なお薬なので、毎度繰り返しになってしまいますが、いくつか確認させてください」など事前に断りを入れて、服薬指導の意義を伝えることが重要です。日ごろから良好なコミュニケーションをはかり、"薬物治療の専門家"として信頼される薬剤師を目指しましょう。

現在の勤務先では、ハイリスク薬を調剤した場合でも、特定薬剤管理指導加算1を算定していません。加算を算定していなければ、特別な管理をする必要はないのでしょうか?

ハイリスク薬を調剤する際に、適切な服薬指導や薬歴記載が行われていなければ、特定薬剤管理指導加算1の算定が認められないケースもあります。しかし、薬剤師に求められる指導内容に変わりはないため、同加算の算定の有無にかかわらず、薬剤の特性に応じた服薬指導を行わなくてはなりません。

特定薬剤管理指導加算1を算定できるような充実した服薬指導を心がけ、要件を満たした場合にはきちんと算定することが、加算の評価が行われている趣旨といえます。算定していないからといって服薬指導の質が低下してしまえば、それは本末転倒です。

ハイリスク薬の服薬指導<対応例>

ハイリスク薬の服薬指導<対応例>

ここでは、ハイリスク薬の服薬指導について、糖尿病用薬が処方されているケースを例にあげてご紹介します。糖尿病用薬では、前述の「5つの共通の注意すべきポイント」に加えて、以下の項目について確認することが求められています。

・ 血糖値の測定等による治療経過の確認
・ 低血糖症状出現(他の糖尿病薬との併用や高齢者、服用量や服用時間の誤り、食事摂取をしなかった場合)等に注意し、ブドウ糖携帯の指導
・ 低血糖および低血糖症状出現時の対処法の指導
・ 服用時間の確認、服用忘れ時の対処法についての指導

引用:ハイリスク薬に関する業務ガイドライン(Ver.2.1)一般社団法人日本病院薬剤師会

<処方内容>

38歳女性、身長158cm、体重69kg、BMI27.6 健康診断で2型糖尿病を指摘され、近医にて経口薬による治療中。血液検査で血糖値およびHbA1cが上昇しており、ブドウ糖負荷試験の結果(75gOGTT2時間値)が高値であったため、食後高血糖の是正を目的に処方追加。

空腹時血糖:130mg/dL(基準値70~109)、HbA1c(NGSP):7.3%(基準値4.6~6.2)、ブドウ糖負荷試験:240mg/dL(基準値~140)

Rp.1 エクメット配合錠LD 2錠 (分2 朝夕食後) (追加)Rp.2 【般】ボグリボース錠0.2mg 3錠 (分3 毎食直前)

<服薬指導内容>

薬歴

S:前回の検査で結果が悪かったので、お薬追加って言われたの。食事制限や運動も頑張っているんだけど...。今までの薬は、飲み忘れや飲み残しもなく、飲んでるわ。新しい薬も、しっかり飲めるように頑張ります。

O:空腹時血糖:130mg/dL、HbA1c(NGSP):7.3%、ブドウ糖負荷試験:240mg/dL。併用薬、サプリメントなし。低血糖症状なし。Dr.からは、「薬を増やして様子を見ましょう」と言われた。

A:コンプライアンス、アドヒアランスは問題なし。ブドウ糖負荷試験の結果から、食後高血糖の可能性が高い。是正のため、α-GI追加で様子見か。

P:飲み忘れや飲み残しもなく、これまでの服用について問題はないと思います。食事制限や運動も、引き続き継続するようにしてください。検査の結果から、食後に血糖が上がりやすいタイプの糖尿病である可能性があります。食事による糖の吸収をおさえるお薬が追加になっています。必ず食事の直前に服用するようにしてください。服用するのを忘れた場合には、食事開始から15分くらいまでであれば、効果が期待できます。

ハイリスク薬について

・エクメット配合錠LD:
空腹時血糖:130mg/dL、HbA1c(NGSP):7.3%
肝障害なし。めまい・倦怠感なし。低血糖症状なし。低血糖時の対応について確認済み。ブドウ糖を携帯してください。妊娠希望の場合には、薬が変更になる可能性があるため、医師または薬剤師に伝えてください。

・【般】ボグリボース錠0.2mg:
ブドウ糖負荷試験:240mg/dL
今回から服用開始。アドヒアランス良好。腹部手術・腸閉塞の既往なし。必ず食事の直前に服用してください。服用初期は特に、腹部膨満感の副作用が出やすいため注意が必要です。

▼参考記事はコチラ>SOAP薬歴の記入事例

ハイリスク薬への対応を学び、薬物治療を前進させよう

この記事では、ハイリスク薬の服薬指導に不安のある若手薬剤師に向けて、服薬指導のポイントやQ&A、対応例について解説していきました。

特定薬剤管理指導加算1の算定の有無など、ハイリスク薬の取り扱いについては、薬局ごとに違いがあるのが現状です。ハイリスク薬に対する意識を高め、服薬指導を充実させることによって、薬物治療をよりよいものしていく意識を持つことが重要です。

また、令和2年度の診療報酬改定によって、「特定薬剤管理指導加算2」という新しいハイリスク薬加算が新設されたことも話題を呼びました。現状では、抗悪性腫瘍剤を注射された悪性腫瘍の患者さまに対して、特定の要件を満たした際に算定することが認められていますが、今後の動向にも注目していきましょう。

ファルマラボ編集部

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記事掲載日: 2020/12/22

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