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  • 公開日:2023.01.10

【薬剤師向け】抗体医薬品とは?特徴やデメリット、薬局での取り扱いの注意点など解説

【薬剤師向け】抗体医薬品とは?特徴やデメリット、薬局での取り扱いの注意点など解説

抗体医薬品とは、抗原抗体反応の仕組みを利用した医薬品のことです。がん細胞などの目印となる抗原だけを攻撃するため、治療効果の高さや副作用の軽減が期待されています。近年では、片頭痛治療薬「エムガルディ」や花粉症などの治療薬「ゾレア」といった身近な疾患に対しても抗体医薬品が用いられるようになりました。

この記事では、抗体医薬品の概要や安全性と副作用、メリットとデメリット、薬局で取り扱う場合の注意点について解説していきます。

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抗体医薬品とは?

抗体医薬品とは?

抗体医薬品とは、人の免疫機能を担っている抗体(免疫グロブリン)を、遺伝子組換え技術などを応用して人工的に生成し、医薬品として開発したものです。これまで用いられてきた一般的な医薬品に比べて分子量が大きく、インスリンなどのタンパク質医薬品や核酸医薬品と並んで、高分子医薬品に分類されます。

抗体医薬品は、人間に備わっている免疫機能である「抗原抗体反応」の仕組みを利用することで薬理作用を発揮します。そのため、一般的な低分子医薬品と比べて、病気の原因となっている物質をピンポイントで攻撃する精度が高く、正常な細胞を傷つける危険性が低いと考えられています。

高い治療効果と副作用の軽減が期待されている抗体医薬品は、重い副作用が出やすかった従来の抗がん薬に変わる新しい治療選択肢として、あるいはリウマチなどの自己免疫疾患やアルツハイマー病など、現在までに有効な治療方法が確立していなかった病気に対する治療薬として、臨床応用が進められてきました。

抗体医薬品の安全性と副作用について

抗体医薬品の安全性と副作用について

抗体医薬品の特徴として、治療効果が高く副作用が少ないことがあげられます。臨床での使用実績も蓄積されつつあることから、総じて安全性は高いといえるでしょう。

一方で、抗体医薬品においても、通常の低分子医薬品と同様に副作用がないわけではありません。抗体医薬品の副作用の多くは、標的となる分子がさまざまな生理作用を保つ場合や、目的としていない細胞にあらわれている場合に起きることがあります。たとえば抗TNFα抗体は関節リウマチの治療に用いられますが、TNFαは結核の発症を防御する働きもあり、結果的に結核の再発リスクが高まることもあります。

また、抗体医薬品に特徴的な副作用の一つである、「インフュージョンリアクション」にも注意が必要です。インフュージョンリアクションは、投与中もしくは投与後、24時間以内にあらわれることの多い副作用の総称で、詳しい発症機序はわかっていません。発熱や悪心、疼痛、掻痒、血管浮腫などが主な症状ですが、重篤な場合にはアナフィラキシー様症状や呼吸器症状などがあらわれ、死亡例も報告されています。

抗体医薬品のメリットとデメリット

抗体医薬品のメリットとデメリット

ここでは、抗体医薬品のメリットとデメリットについて、具体的に解説していきます。

抗体医薬品のメリット

抗体医薬品のメリットには、以下のものがあげられます。

・治療効果が高く副作用が少ない

抗体医薬品は、標的である抗原にだけ結合し、それ以外には結合しないため、目的とする薬効が得られやすいことが特徴です。また、一般的に副作用のリスクは低いと考えられ、重篤な副作用があらわれやすいがん治療などにおいても、高い有用性と安全性が期待されています。

・有効な治療法がない疾患の治療効果が期待できる

抗体医薬品は、これまでに有効な治療法がなかった疾患に対しても、高い治療効果が期待されています。たとえば、「トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)」は、乳がんのなかでも治療が難しいとされていたHER-2過剰発現が確認されたものに対して、生存期間の延長が報告されています。

・生体内安定性が高い

抗体は血液中に安定して存在しており、抗体医薬品の投与後も長時間、安定して血中に存在することが可能です。血中半減期も数日あるため、週に1回から数週に1回の投与で済むことが多く、患者さまの負担軽減も期待できます。

抗体医薬品のデメリット

抗体医薬品にはデメリットもあり、以下の点について注意が必要です。

・投与方法が限定的

抗体医薬品は、タンパク質からできており消化酵素で分解されてしまうため経口投与が難しく、注射や点滴によって投与されます。オートインジェクターの開発により、自己注射が可能な製剤も増えていますが、投与方法が限定的であることが課題と言えるでしょう。

・従来の低分子医薬品より高価

低分子医薬品の多くは原材料が比較的安価で、製造プロセスも複雑でないため、コストを低く抑えることが可能です。一方で、抗体医薬品は製造や開発に多大なコストがかかるため、薬価も高額になりやすく、患者さまの経済的負担や医療保険への負担が課題となっています。

・製造設備の不足

抗体医薬品を製造するためには、専門性の高い技術や設備を専用化する必要があります。現在、日本では高分子医薬品の多くを輸入に頼っており、国内の製造技術基盤や生産拠点の整備の遅れも課題の一つです。

薬局で取り扱う場合の注意点

薬局で取り扱う場合の注意点

抗体医薬品の多くは、医療機関において注射や点滴として用いられていますが、近年ではオートインジェクターを用いた製剤も開発されており、薬局で薬剤師が調剤する機会も増えつつあります。ここでは、抗体医薬品を薬局で取り扱う場合の注意点について解説していきます。

患者さまに寄り添った服薬指導を行う

抗体医薬品の多くは、従来の低分子医薬品に比べて、使用方法や管理方法が煩雑になりがちです。一人ひとりの理解度に合わせて、患者さまに寄り添った服薬指導を行うことが求められています。注射の手技や保管時の注意点など、抗体医薬品ならではの指導方法を頭に入れておきましょう。

副作用についての知識を身につける

抗体医薬品は、病気の原因となっている物質にピンポイントで作用するため、副作用のリスクは低いといえます。一方で、インフュージョンリアクションをはじめ、重大な副作用があらわれる可能性もあり、発生頻度の高い副作用について、適切な知識を身につけることが必要です。

定められた方法で管理する

タンパク質を主成分とする抗体医薬品は、とくに温度や光に注意して管理しなくてはなりません。多くの抗体医薬品では、凍結を避け2~8℃の光の当たらない暗所で保存することとされています。

なお、注射器を硬い床や地面に落としてしまった場合は、内部が破損している可能性もあります。注入器の一部にガラスが使われている製品も多いため、激しく落下させた注射器は使用せず、新しい注射器の使用が推奨されます。

抗体医薬品の普及で治療の選択肢を広げることが可能に

近年では医学の発達により、高血圧や高脂血症などの生活習慣病においては、きめ細かな健康リスクの管理が可能となりました。一方で、がんやアルツハイマー病、自己免疫疾患などにおいては、既存の薬物療法では十分な治療成績が得られておらず、これらのアンメットメディカルニーズを満たすため、抗体医薬品に注目が集まっています

抗体は標的である抗原にだけ結合し、それ以外には結合しないため、目的とする薬効が得られやすく、副作用のリスクが低いといえます。今後も多数の疾患領域において臨床応用されることが予想されるため、最新の知識を身につけましょう

青島 周一さんの写真

    監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

2004 年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012 年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

主な著書に『OTC医薬品 どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学: 存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』

記事掲載日: 2023/01/10

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