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  • 公開日:2020.09.01

薬剤師による妊婦・授乳婦の服薬指導のコツ

薬剤師による妊婦・授乳婦の服薬指導のコツ

妊娠中や授乳中の女性であっても、薬物による治療を必要とすることがあります。しかし、胎児や乳児のことを考え、これらの時期の薬剤服用は慎重にしたいもの。薬剤師は、患者さまの状況に配慮し、専門的な知識による判断と適切なアドバイスを行う必要があります。

この記事では、【妊婦・授乳婦に服薬指導を行う際に気をつけなければいけないこと/どのような説明をするのがベストなのか】など、妊婦・授乳婦の服薬指導のコツを解説します。

妊婦・授乳婦への薬物治療の基本的な考え方

妊婦や授乳婦に対する薬物治療は、薬物が胎盤や乳汁を介して胎児や乳児に影響を及ぼす可能性があります。そのため、薬物治療の際にはより一層の注意が必要とされているのです。しかし、胎児や乳児の安全のみを優先し、妊婦や授乳婦の健康を犠牲にするのは、結果として胎児や乳児の健康をも害する危険性があるでしょう

催奇形性や胎児毒性の認められる薬剤があることも知られていますが、問題なく服用できる薬剤も少ないわけではありません。薬剤師は、医薬品の専門家として正しい知識をもち、必要な薬はきちんと服用するよう指導することが大切です

妊婦・授乳婦への薬物治療や服薬指導には、月経、排卵、妊娠周期などの妊娠に対する知識を有する必要があるとされています。加えて、薬物の胎盤通過性や催奇形性の絶対感受期、薬物投与経路による血中濃度の違い、薬剤ごとの母乳への移行性などの知識も重要です。

また、妊婦や授乳婦とひとくくりに言っても、患者さまごとに状況は異なります。正常妊娠か、正常分娩か、既往歴はどうか、妊娠がきっかけで別の疾患にかかっていないか......など。患者さまの状況に配慮した対応が求められています。

▼参考記事はコチラ
I.妊婦・授乳婦への薬物療法の基本的考え方
「妊娠・授乳と薬」対応基本手引き(改訂2版)2012年12月改訂

妊婦・授乳婦への薬物治療が及ぼす影響

薬剤師のイメージ

妊婦や授乳婦が服用することで、胎児や乳児に対して影響を及ぼす薬剤の存在が知られています。ここでは、「妊娠中の女性への薬物治療が胎児へ及ぼす影響」と「授乳中の女性への薬物治療が乳児へ及ぼす影響」の2つに分けて解説していきます。

妊娠中の女性への薬物治療が胎児へ及ぼす影響

胎児に対する薬剤の影響は、妊娠のどの時期に薬剤を服用したかにより異なるため、妊娠周期について知ることが重要です。

とくに、妊娠から2ヵ月前後は胎芽から様々な器官がつくられるため、最も影響を受けやすい時期であり、「絶対過敏期」と呼ばれています。妊娠3ヵ月から4ヵ月前後になると、絶対過敏期よりは危険性は低くなることから「相対過敏期」と呼ばれます。器官は完成してきますが、外性器の分化や口蓋が完成する時期であり、まだまだ薬剤の影響を受けるタイミング。妊娠5ヵ月から分娩までは、器官の形成が終了していることから奇形の形成は起こりにくくなりますが、ワーファリン(ワルファリン)カリウムやACE阻害剤、プロスタグランジン製剤などで形態的異常や胎児毒性が起こる可能性もあります。また、抗精神病薬や抗てんかん薬により、新生児に離脱症候群がみられることも報告されています。

授乳中の女性への薬物治療が乳児へ及ぼす影響

乳児にとって母乳は、生きた細胞をはじめとして、脂肪酸や消化酵素、生体活性物質などの人工乳には含まれないものを含んだ代わりの効かないものです。母乳育児の効果として、免疫学的効果や神経学的効果、メタボリックシンドロームの予防効果などが知られていますが、これらは成人になっても続くことが最近の研究でわかっています。

しかし、授乳婦が薬剤を内服した場合、薬剤は消化管から吸収されて血流に移行し、母乳中にも分泌されてしまいます。母乳を介して薬剤の効果が乳児にもあらわれてしまい、重篤な副作用を引き起こす恐れも......。急性毒性や慢性毒性の報告がある薬剤もあるため、授乳婦への薬物治療についても注意が必要です

▼参考記事はコチラ
「妊娠・授乳と薬」対応基本手引き(改訂2版)2012年12月改訂

妊婦・授乳婦の服薬指導について

妊婦や授乳婦への服薬指導では、投薬時に患者さまと一緒に薬剤や数量を確認する、薬歴やお薬手帳を用いるなど一般的な服薬指導に加えて、どのような点に気をつければよいのでしょうか。よく聞かれる質問についても、いくつか例を挙げて解説していきます。

服薬指導の際に気をつけるポイント

服薬指導の際には、まず「主治医が妊婦や授乳婦であることを理解したうえで処方をしているかどうか」を確認しなくてはなりません。産婦人科医からの処方であれば、医師が妊娠や授乳を把握していることがほとんどですが、そのほかの診療科の処方箋には注意が必要です。次に、妊娠周期や出産予定日を確認し、それぞれの時期に応じたアセスメントを行い、既往歴や併用薬、使用しているサプリメントなどについても聞き取る必要があります。

また、糖尿病やてんかんなどの一部の病気では、病気のコントロールをしなければ胎児に大きな影響を及ぼすことが知られています。治療薬のなかには胎児に影響するものもありますが、むやみに禁忌であることを伝えたり、患者さまを不安にさせたりすることは避けなくてはなりません

【Q&A】よく聞かれる質問について

妊婦や授乳婦であっても、かぜや便秘などで一時的に薬剤の服用が必要となる場合もあります。ここでは、よく聞かれる質問について回答例をご紹介します。
※服用できる薬剤は患者さまごとに異なります。あくまで一例として参考にしてください


Q.熱が出てしまって。妊娠しているのですが、市販の風邪薬を服用してもよいですか?

A.妊娠されている方にとって、NSAIDsという種類のお薬は避けなくてはなりません。もし市販薬を使用するのであれば、アセトアミノフェンという成分が配合されているお薬を選択するようにしてください。市販の総合感冒薬にはさまざまな症状を抑える成分が配合されているため、可能であれば医療機関を受診して、症状に応じた薬剤を服薬することがおすすめです。また、インフルエンザの場合、妊娠中は免疫力が落ちているため、重症化しやすいことが知られています。熱が下がらなければ、早めに医師の診察を受けるようにしてください。

Q.花粉症で鼻水と涙が出ます。妊娠しているのですが、どういった薬を選べばよいですか?

A.花粉症の治療薬のなかには、妊娠中や授乳中の安全性が確認されているものも数多くあります。ロラタジンやセチリジン塩酸塩、フェキソフェナジン塩酸塩は、疫学調査の結果などから安全に使用できることがわかっています。また、点鼻薬や点眼薬などの外用薬はリスクが低いことも知られているため、内服薬の前にこれらを試してみることがおすすめです。まずは、クロモグリク酸ナトリウムや抗ヒスタミン薬が配合された医薬品を選んでみてください。ただし、点鼻薬の中でもナファゾリン塩酸塩やテトラヒドロゾリン塩酸塩という成分には、子宮を収縮させる作用もあるため、避けるようにしてください

Q.妊娠中に、ステロイドの塗り薬は使っても大丈夫ですか?ステロイドはよくないと聞いたのですが......。

A.ステロイドであっても、外用薬であれば問題にならない場合がほとんどです。一般的な使用量や使用方法であれば、外用したステロイドが皮膚から吸収される量はきわめて少ないため、妊娠中でも問題がないことがわかっています。心配であれば次回の受診時に、主治医に使用しているお薬を確認してもらうとよいでしょう。

妊婦・授乳婦の服薬指導においてできる配慮とは?

薬剤師のイメージ

薬剤師が妊婦や授乳婦に対して服薬指導をする際は、通常の患者さま以上に配慮しなくてはなりません。患者さまが自己判断で服薬をやめてしまうこともあるので、薬剤の安全性や服薬しないことのリスクなど、薬物治療の意義を伝えることが重要。ほとんどの患者さまは胎児や乳児への影響を気にしているため、これらの不安を取り除くことを目指しましょう

『Medications and Mothers' Milk』におけるDr. Hale's Lactation Risk Categoryや『薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳(南山堂)』などを参考にして、医学的・薬学的根拠のある服薬指導を行うことをおすすめします。

Medications and Mothers' Milk

著書タイトル
  • 著者:T.W.Hale
  • 出版社:SPRINGER PUBLISHING COMPANY
  • 発行年:2019年

薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳 改定2版

著書タイトル
  • 編:伊藤真也,村島温子
  • 出版社:SPRINGER PUBLISHING COMPANY
  • 発行年:2014年11月

症例によっては、授乳を中止する選択をしなければならないことや、授乳禁忌の薬剤を使わざるを得ない場合もあります。そうしたときには、患者さまのつらい気持ちに寄り添い、胎児への影響について適切な情報提供を行いましょう。また、突然の授乳中止は乳腺炎を引き起こすことも多く、激しい痛みや高熱を伴う可能性や、なかには急なホルモンの変化により、うつ状態が出現した例も報告されています。産婦人科医や地域の助産師などと連携し、乳房に対する体のケアだけではなく、授乳を中止する際の心のケアも重要です

▼参考記事はコチラ
「妊娠・授乳と薬」対応基本手引き(改訂 2 版)2012 年 12 月改訂

患者さまの安心安全を第一に考えよう

この記事では、妊婦・授乳婦に服薬指導を行う際に気をつけなければいけないことや、患者さまへの説明の仕方など、妊婦・授乳婦の服薬指導について解説しました。

妊婦や授乳婦の方は、不必要な薬剤の服用は避けなければなりませんが、問題なく服用できる薬剤もあります。患者さまが安心安全に薬物治療をおこなえるよう、医薬品の専門家である薬剤師が患者さまに寄り添いアドバイスをしていく必要があるでしょう

ファルマラボ編集部

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記事掲載日: 2020/09/01

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