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  • 公開日:2022.03.29

うつ病の患者さまへの服薬指導ポイントや注意点を解説

うつ病の患者さまへの服薬指導ポイントや注意点を解説

新型コロナウイルス感染拡大の2020年、日本国内でうつ病・うつ状態にある人の割合が2013年と比べて2倍以上に増加したことが明らかになりました。(※経済協力開発機構[OECD]による国際調査)うつ病治療を必要とする患者さまも増加傾向にあることから、今後、薬剤師が服薬指導にあたる機会も増えていくことが予想されます。

この記事では、うつ病の概要や服薬指導のポイント、注意点、治療薬、役立つ資格などについて解説していきます。

うつ病とは

うつ病は「心の風邪」ともいわれ、もっとも発症頻度が高い精神疾患です。再発率も約5割と高く、慢性化しやすいのが特徴。気分(感情)の落ち込みが毎日、少なくとも2週間以上続いて、精神的な症状以外にも、不眠、疲れ、だるさといった身体的症状が現れることのある病気です。

症状が深刻なときには、仕事や家庭に支障をきたしてしまい、日常生活そのもののサポートが必要になる場合もあります

うつ病の原因や症状、治療方法は?

うつ病の原因や症状、治療方法は?

この章では、うつ病の原因や症状、治療方法について解説していきます。

原因

うつ病の原因ははっきりとわかっていませんが、気分や意欲を調節している脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどの働きが悪くなっていることや、自身の性格、生活環境の変化、薬の副作用など様々な要因が重なって発症すると考えられています。

うつ病が発症する要因
【性格】
・几帳面 完璧主義 真面目 正義感が強い 心配性 自尊心が低いなど
【生活環境】
・人間関係のトラブル 失業 離別 就職や進学 災害 結婚 転勤や引っ越しなど
【その他】
・薬の副作用 慢性的な疲労 脳血管障害 ホルモンバランスの変化など

症状や発症のサイン

発症のサインとして、気分の落ち込みや、イライラする、焦る、憂うつになる、悲しくなる、不安になるなどの「抑うつ気分」と呼ばれる自覚症状が表れます。意欲もなくなり、これまで楽しめていたこと(趣味、テレビなど)が楽しく感じられなくなり、記憶力や決断力の低下を感じることも。

一方、心ばかりでなく、体の症状もしばしばみられます。とくに多いのは、不眠、過剰な睡眠、食欲不振、疲れやすい、体重の増減ですが、体の痛み、肩こり、手足のしびれ、便秘、口喝などが発症する場合もあります

以下にうつ病の症状や発症サインの代表的例を示します。

自覚症状

  • 一日中気分が落ち込んでいる
  • イライラする
  • 焦る気持ちになる
  • 何をしても楽しめない
  • 物事のとらえ方が否定的になる
  • 死んでしまいたいほどの辛い気持ちになる

身体にあらわれるサイン

  • 眠れない、過度に寝てしまう
  • 食欲がない
  • 性欲がない
  • 体がだるい、疲れやすい
  • 頭痛や肩こり
  • 動悸
  • 胃の不快感、便秘や下痢
  • めまい
  • 口が渇く

周囲にもわかるうつ病のサイン

  • 表情が暗い
  • 自分を責めてばかりいる
  • 涙もろくなった
  • 反応が遅い
  • 落ち着かない
  • 飲酒量が増える

最も注意すべき点は、このような精神症状のため「病気は治らない」「周囲の人に迷惑をかけている」など極端に悲観して自分を責めてしまい、絶望感で自ら命を絶ってしまう恐れがあることです。

このように、うつ病は誰もがなる可能性のある病気ですが、こじれてしまうと命に関わる恐れがあるので、早期に発見・治療し、再発を予防することが大切です。

治療方針

治療としては、休養、薬物療法、精神療法などが行われます。まずは職場や学校などから離れしっかりと休養を取り、精神的ストレスや身体的ストレスの原因を取り除くようにします。

抗うつ薬による薬物療法では、第1選択薬として「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」や「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)」などを投与し、効果不十分の場合に「三環系抗うつ薬」「四環系抗うつ薬」などを使用することが多いでしょう。

そのほか、専門家との対話を行う精神療法、有酸素運動を取り入れた運動療法などを急性期、導入期、回復期、維持期といった段階に応じて行うこともあります。

うつ病・うつ状態の患者さまへの服薬指導で確認すべきポイント

うつ病・うつ状態の患者さまへの服薬指導で確認すべきポイント

自覚症状の確認

患者さまの自覚症状について聞き取りを行います。気分(感情)が落ち込んでいる、不安、憂うつな気持ちなどの精神症状だけでなく、睡眠障害、食欲不振、全身倦怠感、体重の増減などの身体症状についても確認しましょう。

服薬状況の確認

一般に抗うつ薬の効果発現には数週間を要し、服用期間は半年から1年です。また、必要な場合は長期間にわたり投与されることがあります。

また再発や再燃(回復せずに症状が悪化)があるため、症状が改善しても少なくとも数か月間は薬を継続します。つまり、医師の指示に従い、用法用量を守って服用しているか、飲み忘れはあるかなどの確認が重要です。

患者さまのなかには自己判断で服用を中止したり、変更したりするケースがあるため注意が必要です。また、患者さまのみならず、家族全員が治療の必要性を理解し、服用が守れているかをしっかり確認することが大切です。

服用に対して疑問や不安があるようであれば丁寧に聞き取りを行います。飲み忘れがある場合、その原因(服薬回数が多い、お薬の形が大きくて飲みづらい、副作用など)についてしっかり把握しましょう。とくに、薬剤の副作用が原因で服薬中止につながることも少なくないので注意が必要です。

リスク因子の確認

患者さまの性格(生真面目、几帳面、融通が利かない、責任感が強いなど)は把握しておくとよいでしょう。

うつ病の症状やサインがみられる患者さまには、可能であればうつ病の原因になるような出来事が身の回りに起きていないか確認してみましょう。身近な人の死亡や病気、離婚など辛く悲しい出来事だけでなく、昇進や結婚などの喜ばしい出来事も要因になります

なお、うつ病の患者さまへの激励は禁句であり、服薬指導時に「頑張って」などの励ましは避けたほうがよいでしょう。「ゆっくり」「気長に」など安心させる声掛けが大切です。

ほかに治療中の疾患がないか確認

患者さまの服用している薬剤、既往歴や、現在治療中の疾患について確認します。うつ症状を引き起こす可能性のある薬剤(ステロイド剤、インターフェロンなど)には注意が必要です。また、「三環系抗うつ薬」「四環系の抗うつ薬」が影響をおよぼす可能性のある緑内障や排尿困難、心疾患の有無については、定期的な確認が重要です。

併用薬(市販薬やサプリメントなど含む)の確認

抗うつ薬のなかには併用に注意が必要な薬剤も多いため、併用薬について詳細に確認しましょう。たとえばレセルピンやバレニクリンはうつ病の患者さまには禁忌とされています。また、フルボキサミンとチザニジンとの併用、抗うつ薬とMAO阻害薬(セレギリン)との併用も禁忌です。常に医薬品添付文書で相互作用を確認する習慣を身につけましょう

生活習慣の確認

食事は問題なくとれているか(拒食、過食がないか)、十分な休養がとれているか、眠れているか、急激な体重の変化がないか、アルコールの摂取有無などについて確認します。また、本人のみならず、家族や周囲の人に患者さまの様子を尋ねることも重要です。

副作用の確認

抗うつ薬のなかには重篤な副作用を引き起こす薬剤もあるため、症状が出ていないか確認します。代表的な副作用としてSSRI、SNRIなどのセロトニン作動により消化器症状(吐き気、下痢など)、自殺企図、自傷行為(後述参照)、長期投与の場合には性欲、性感減退などの性機能障害などがあらわれることがあります。

消化器症状は服用開始の1~2週間だけで続けて服用すると自然におさまるケースが少なくないと事前に説明することも重要です。

「三環系抗うつ薬」「四環系抗うつ薬」では、抗コリン作用による副作用(口喝、便秘、認知機能の低下など)が出現しやすいため、生活に支障が出ていないかを含めてチェックしましょう。

なお、うつ病の治療に用いられる抗うつ薬の多くはハイリスク薬に該当するため、「薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)」についてもしっかりと確認しましょう。

薬物療法の注意点

薬物療法の注意点

この章では、うつ病・うつ状態における薬物療法において、注意すべき点について解説していきます。

自殺念慮、自殺企図

うつ症状がある場合、自殺念慮、自殺企図のおそれがあるため、治療開始初期(1~9日までが最も多い)や投与量が変更になるときは症状の変化に注意が必要です。とくに24歳以下の患者さまにおいて、抗うつ薬の服用で自殺念慮や自殺企図のリスクが高まることが報告されています。

自殺を目的とした大量服薬などを防ぐため、最小限の処方になっているかなどを確認しましょう。家族に「行動の変化」や「症状の悪化」のリスクについて説明し、自殺をほのめかす言動があれば直ちに主治医に連絡するなど、協力を得ることも重要です。

アクティベーション・シンドローム(賦活症候群)

抗うつ薬の多くは、服用を始めてから2週間以内の初期や用量を増やしたあとに不安や焦燥、イライラ、パニック発作などの症状を伴うアクティベーション・シンドロームがあらわれることがあります

これらの症状は一過性であることが知られていますが、衝動性などの症状から自傷行為・自殺行為に至る恐れがあるため、注意が必要です。

中止後症候群

1か月以上継続して服用していた抗うつ薬を急に中止した際に、吐き気や下痢、めまい、頭痛、倦怠感、不眠などの症状があらわれる場合があります。自分勝手に服用を中止しないように指導することが重要です。

うつ病の薬物療法に役立つ資格「精神科専門薬剤師」「精神科薬物療法認定薬剤師」

うつ病の薬物療法に役立つ資格「精神科専門薬剤師」「精神科薬物療法認定薬剤師」

うつ病の薬物療法に活かせる資格として、一般社団法人日本病院薬剤師会が認定する「精神科専門薬剤師」や「精神科薬物療法認定薬剤師」があります。精神科専門薬剤師は、精神科薬物療法認定薬剤師の上位資格に位置付けられており、学会発表や学術論文などの活動を積み重ねることで取得が可能です。

これらの資格の理念と目的は以下の通り示されています。

精神科専門薬剤師は、精神科薬物療法に関する高度な知識と技術により、精神疾患患者の治療と社会復帰に貢献することを理念とし、精神疾患に対する薬物療法を安全且つ適切に行うことを目的とする。

今後、調剤薬局においても役立つ資格として期待されています。

うつ病について正しい知識をもち、適切な服薬指導を

この記事では、うつ病の概要や服薬指導のポイント、注意点、治療薬、役立つ資格などについて解説していきました。

近年では、うつ病・うつ状態などの精神疾患に罹患する患者さまは増え続けており、コロナ禍ではさらに助長していると考えられます。精神科の門前などの専門的な薬局以外においても、うつ病に対する服薬指導を行う機会が増えていくことでしょう。

治療では、主治医との連携や家族、周囲の方々の協力のもと、十分な休養や生活習慣の改善に加えて薬の服用を厳守することが重要です。薬剤師として、うつ病の病態や特徴、その治療についての知識を深めておくことが求められています。

前原 雅樹さんの写真

監修者:前原 雅樹(まえはら・まさき)さん

有限会社杉山薬局小郡店(福岡県小郡市)勤務。主に精神科医療に従事し、服薬ノンアドヒアランス、有害事象、多剤併用(ポリファーマシー)などの問題に積極的に介入している。

2019年、英国グラスゴー大学大学院臨床薬理学コースに留学(翌年、同コース卒業)。日本病院薬剤師会精神科専門薬剤師、日本精神薬学会認定薬剤師。

そのほか、大学非常勤講師の兼任、書籍(服薬指導のツボ 虎の巻、薬の相互作用としくみ[日経BP社])や連載雑誌(日経DIプレミアム)の共同執筆に加え、調剤薬局における臨床研究、学会発表、学術論文の発表など幅広く活動している。

記事掲載日: 2022/03/29

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