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  • 公開日:2023.05.23

トリプルワーミーとは?AKI(急性腎障害)発症リスク回避のために薬剤師ができること

トリプルワーミーとは?AKI(急性腎障害)発症リスク回避のために薬剤師ができること

「トリプルワーミー(Triple Whammy)」という言葉を聞いたことはありますか?トリプルワーミーとは、腎機能に悪影響をおよぼす薬の組み合わせであり、「三段攻撃」とも呼ばれています。

この記事ではこのトリプルワーミーによるAKI(急性腎障害)発症の機序や、とくに注意が必要な方について解説し、薬剤師としてリスクを避けるためにどのようなことができるのかについて解説していきます。

トリプルワーミーとは

トリプルワーミーとは

トリプルワーミーとは、レニン・アンギオテンシン(RA)系阻害薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬[ACEI]/アンギオテンシン受容体阻害薬[ARB])、利尿薬、NSAIDsの3剤を併用することです。

この3剤を併用することでAKI(急性腎障害)のリスクが高まることが知られています。AKI(急性腎障害)は薬剤投与後の数日から数週間で腎機能が急激に低下して体液貯留、電解質バランスの異常、老廃物の貯蓄などが生じる症候群であり、症状としては尿量の減少あるいは無尿、全身倦怠感、食欲不振、吐き気、筋力低下などが現れます。

3剤併用時、必要であれば医師への情報提供を行い、やむをえず併用する場合には適切な服薬指導を行う必要があります。しかし、他科でNSAIDsが処方されているケースやARBと利尿剤の合剤を服用しているケースなどでは3剤併用していることに薬剤師が気がつかないことも少なくありません。

トリプルワーミーでAKI(急性腎障害)が起こる機序

トリプルワーミーでAKI(急性腎障害)が起こる機序

RA系阻害薬、利尿薬、NSAIDsの併用によってAKI(急性腎障害)が起こる機序は、以下に示すように、腎血流量(糸球体内圧、糸球体濾過量[GFR])の減少が関与していると考えられています。

<AKI(急性腎障害)が引き起こされる機序>

RA系阻害薬:腎臓の輸出細動脈の収縮を抑制させる結果、糸球体内圧が減少する

利尿薬:利尿作用により循環血流量が減少し、その結果として腎血流量が低下する

NSAIDs:輸入細動脈を収縮させる結果、糸球体血流量が減少する

上記の3剤を併用すると協力作用によって腎臓への血流量が大幅に低下して腎虚血になるため、AKI(急性腎障害)の発症リスクが高まります(腎前性AKI)。

実際に、2013年の研究では、RA系阻害薬と利尿薬の2剤のみ併用している方と比較して、NSAIDsを加えた3剤併用している方ではAKI(急性腎障害)の発症リスクが1.31倍増加することが報告されています。さらに同研究において3剤併用開始後30日以内ではAKI(急性腎障害)発症リスクが1.82倍増加するとされており、3剤併用開始後の早期はとくに注意が必要です。

トリプルワーミーによるAKI(急性腎障害)が起こりやすい人とは

高齢者や慢性腎不全(CKD)、心不全の患者さまは、トリプルワーミーによるAKI(急性腎障害)が起こりやすいといわれています。

日本腎臓学会の『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018』において、高齢者やCKDステージG3b以降の患者さまに対する3剤併用は、腎機能をさらに悪化させる可能性があるため、できるだけ避けるべきであると提唱されています。CKDステージG3bとはGFRが30~44(正常値:≧90)で、腎機能が中等度~高度に低下した状態を表します。

また、高齢者は動脈硬化や脱水などによっても腎虚血に陥りやすく、AKI(急性腎障害)リスクが上昇します。

トリプルワーミーの対策方法

トリプルワーミーの対策方法

トリプルワーミーの対策方法には、おくすり手帳の活用やかかりつけ機能の活用、疑義照会などがあげられます。ここでは、それぞれの対策について詳しくみていきましょう。

おくすり手帳、かかりつけ機能の活用

高血圧、心不全の方にはRA系阻害薬や利尿薬が頻繁に処方されます。RA系阻害薬、利尿薬を併用している方では、他院でNSAIDsが処方されていないかをお薬手帳で必ず確認してください。

また、かかりつけ薬局として患者さまの服用薬をOTCを含めて一元管理することによりトリプルワーミーによるAKI(急性腎障害)の予防、早期発見がより容易となるでしょう。

疑義照会

トリプルワーミーを確認し、AKI(急性腎障害)のリスクが高いと判断した場合には担当医にAKI(急性腎障害)発症のリスクを伝えたうえで疑義照会を行います。疑義照会をしたうえで、やむをえず3剤を併用する場合には、以下のポイントを踏まえて服薬指導を行いましょう。

AKI(急性腎障害)は脱水や血圧低下により引き起こされることが多いため、とくにAKI(急性腎障害)を見極める「体重測定」、「血圧測定」を毎日行い、1日で2kg以上減少した場合や、最高血圧が100mmHg以下に下がっている場合にはすぐに受診するよう指導します。

尿量減少(1日500ml以下)、無尿、集中力低下、食欲不振、吐き気、全身の痒み、倦怠感が現れた場合にはAKI(急性腎障害)の可能性があるためすぐに受診するよう説明します。

なお、高齢者では脱水が起こりやすいため、こまめに水分を摂取するように伝えることも重要です。とくに夏季には要注意です。また、アセトアミノフェンはCOX-2阻害作用を有さないために腎血流量に影響を及ぼしにくいとされており、NSAIDsをアセトアミノフェンに変更できないか提案するのも良いでしょう。

▼参考資料はコチラ
NSAIDs による腎障害|一般社団法人 日本腎臓学会
薬の副作用としくみ|杉山正康 偏著

トリプルワーミーに関するQ&A

トリプルワーミーに関するQ&A

ここでは、トリプルワーミーに関する以下の質問に回答します。

Q:NSAIDsの貼付薬でもトリプルワーミーの危険性はある?

Q:トリプルワーミーによるAKI(急性腎障害)の発生までの期間は?

それでは、それぞれ詳しく見ていきましょう。

Q:NSAIDsの貼付薬でもトリプルワーミーの危険性はある?

A:一般的にNSAIDsの外用薬は内服薬よりもAKI(急性腎障害)のリスクは低く、比較的安全に使用できますが、ロコアテープ(エスフルルビプロフェン)では2枚貼付した際の全身曝露量は経口薬に匹敵するため経口薬と同等の注意が必要です。

Q:トリプルワーミーによるAKI(急性腎障害)の好発期間は?

A:上述した通り、トリプルワーミーによるAKI(急性腎障害)は、投与開始から早期に発現する可能性が高いとされています。さらに2022年に日本で発表された研究では3剤併用した場合のAKI(急性腎障害)発症時期の中央値は併用8日後との報告があります。そのため3剤併用する場合は少なくとも2週間はモニタリングを行い、患者さまの状態をチェックすることが重要です。

トリプルワーミーに注意して、患者さまのAKI(急性腎障害)を防ごう

この記事では、トリプルワーミーの定義や機序、とくに注意が必要な方や対処法などについて解説してきました。

AKI(急性腎障害)は早期発見、被疑薬の中止によって多くの場合は進行を止め改善させることが可能であるため、早期対応が非常に重要となります。お薬手帳、かかりつけ機能を活用し、適切な服薬指導を心がけAKI(急性腎障害)を未然に防ぐように努めましょう。

松田宏則さんの写真

監修者:松田 宏則(まつだ・ひろのり)さん

有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)勤務。主に薬物相互作用を専門とするが、服薬指導、健康運動指導などにも精通した新進気鋭の薬剤師である。書籍「薬の相互作用としくみ」「服薬指導のツボ 虎の巻」、また薬学雑誌「日経DI誌(プレミアム)」「調剤と報酬」などの執筆も行う。

記事掲載日: 2023/05/23

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