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  • 公開日:2019.02.01

薬剤師として海外で就職するために。資格や日本との違いを解説

薬剤師として海外で就職するために。資格や日本との違いを解説

薬剤師として働く中で、時に「海外で働いてみたい」と考える方もいらっしゃることでしょう。ただ、海外で薬剤師として勤務する際、ほとんどの場合は資格の取り直しが必要となり、日本の薬剤師免許は通用しません。

この記事では、【海外で薬剤師として働くための方法・最低限必要なこと・注意点】などを解説していきます。

薬剤師として海外で就職する方法とは?

海外で活躍する薬剤師のイメージ

多くの先進諸国では、医薬品の専門家として薬剤師やそれに類似した資格が設けられています。しかし、日本の免許を持つ薬剤師が海外で働くためには、その国ごとの薬剤師免許が必要です。薬剤師として海外で働くためには、以下のような方法があります。

1. その国の薬科大学に通う

1つ目は、その国の薬科大学に入りなおす方法です。こちらは時間と費用を要しますが、現地での薬学教育を体験し、臨床薬剤師としての基礎を築くことができるので、メリットも大きいでしょう。日本の学士課程とは仕組みが異なる場合も多いので、しっかりとした情報収集が必要になります。

例として、アメリカ(州によって異なる場合もあります)においては、臨床教育をおこなう専門職大学院(professional school:Pharm.D 課程)教育が取り入れられています。こちらは、4年間の博士号コースの中に、1年間の実務実習が含まれています。外国人薬剤師に対する、単位免除などの優遇措置がある大学も。

2. 決められた試験に合格する(トランスファー)

2つ目の方法は、外国人薬剤師を対象とした試験に合格した上で、現地の薬剤師国家試験を受ける方法です。

こちらもアメリカの例では、FPGEE(Foreign Pharmacy Graduate Equivalency Examination)とよばれる試験に合格して、TOEFUL iBT ®テストで基準スコアを満たす必要があります。そのうえで規定のインターンシップを満たして、薬剤師国家試験(NAPLEX)に合格することで薬剤師免許を取得することができます。

3. ボランティアへの参加

上記の2つの方法はいずれにせよ難易度が非常に高く、莫大な費用と時間を要します。薬剤師としてのキャリアのために海外での経験を取り入れることは重要ですが、現地の資格を取得することはハードルが高いといえます。そんなときに試せる方法の一つに、ボランティアとして海外の活動に参加する方法があります。ボランティアであれば現地の薬剤師資格を必要としない場合もあり、たとえば「国境なき医師団」においては海外派遣スタッフとして薬剤師を募集しています。

海外派遣スタッフの業務内容は、団体が運営・支援する病院や診療所において、医薬品や医療資材の発注・供給、薬局の管理、スタッフの指導などをおこなうこと。派遣の期間は6か月~1年間で、2年以上の臨床経験や総合病院での勤務経験など一定の条件を満たせば、現地の資格無しに働くことができます(2019年1月現在の募集内容)。

もちろん仕事内容に制約はありますが、短期間で海外の知見を得たいという方にはおすすめの方法でしょう。

4. 日系企業の海外研修を利用

日系企業に転職して海外研修を利用する方法もあります。世界規模で事業を展開している企業では、社員を育成するカリキュラムの中で、海外研修を取り入れていることも珍しくありません。

企業によって研修の期間や仕組みは異なりますが、会社側が費用を負担してくれることも多く、無理なく海外で働くことができます。ただし、薬剤師の資格を必要としないかわりに、日本の病院薬剤師や薬局薬剤師のような臨床薬剤師として働くことは難しいので、注意が必要です。

薬剤師として海外で働く上で必要なもの

英語でコミュニケーションをとる薬剤師のイメージ

薬剤師として海外で働く上で必要不可欠なものは、主に3つあります。

・資格取得

日本国内で薬剤師の免許を取得していても、海外で薬剤師として働くためには、その国の薬剤師免許を取得しなくてはならない場合がほとんどです。大学に通いなおす必要があるかどうかは国によってさまざまですが、定められた試験も難易度は高く、課せられるハードルは高いといえます。

・語学力

海外で臨床薬剤師として働くためには、実務レベルの語学力を身に着けていなくてはなりません。業務をこなす上で必要であるだけでなく、資格取得の際のOSCE(オスキー)によって、患者対応や疑義照会などが円滑に行えるかどうかも面接官によって評価されます。

・就労ビザの取得

ビザ(査証)とは、それぞれの国が、入国したいと考える外国人に対して審査を行い、事前に与える許可のようなものです。国の制度にもよりますが、多くの場合は滞在目的によって観光用、留学用、就労用などさまざまな種類があります。

海外で働くメリットと、その後のキャリアへの影響とは

海外の薬局で商品説明をする薬剤師のイメージ

薬剤師が海外で働くことには、さまざまなメリットがあることが知られています。ここでは、3つの例をご紹介します。

・語学力が身につく

今後の日本では、訪日外国人や移民による外国人労働者が、これまで以上に増えていくと予想されています。

薬剤師が外国語で服薬指導を行わなくてはならない場面も想定されますが、実務レベルの英語力を身に着けている薬剤師人材は多くありません。実際の臨床経験を通じて得た語学力は、今後のキャリアにおいて大いに役立つと考えられます。

・コミュニケーション能力が身につく

海外で人間関係を一から築き、異なる言語と習慣の中で生活していくことは、決して容易ではありません。海外で働くためには、多様な人種や文化がある中で、良好な関係性を築いていくことが求められます。

仕事や私生活を通じてさまざまな人と関わることによって得られるコミュニケーション能力は、日本で働く際にもきっと役に立つことでしょう。

・国際的な医療の知見が身につく

医療の仕組みや薬剤師の役割は、国ごとに大きく異なることが知られています。また、文化や制度、宗教、生活スタイルも異なるので、医療サービスを提供する上でも、これらの違いを理解していなくてはなりません。

日本国内でも、留学生や外国人労働者によって外国人の患者さんが増えつつある中で、多種多様な人種が医療を受けるようになってきています。薬剤師としてグローバルな知見を身に着けることができれば、今後のキャリアにも役立ちますね。

日本と海外で薬剤師の働き方の違いは?アメリカ、カナダ、オーストラリアの例

アメリカ、カナダ、オーストラリアの薬剤師

日本と海外では、薬剤師の働き方も大きく異なります。ここでは、3つの国を例に挙げてご紹介します。

【アメリカの例】セルフメディケーションが主体となり薬剤師の地位が高い

アメリカでは、薬剤師の国民からの信頼度は非常に高く、ハイレベルな知識と技術を持っていることが知られています。アメリカの医療制度は先進国では珍しく、医療保険制度改革は進められているものの未だに民間保険が主体となっています。

医療機関にかからずに、薬局やドラッグストアで購入した薬で治療をしたいと考える人が多く、医薬品の専門家である薬剤師の地位も高いのです。また、「依存型処方権」を持っていることも特徴で、医師から委任を受ければ処方をおこなうことも認められています。

【カナダの例】リフィル処方せんが活躍中

カナダでは、「医療と教育はすべて平等」という理念のもと、日本同様に国民皆保険制度が取り入れられています。しかし、日本のように医師の処方せんのとおりに調剤するだけでなく、リフィル処方せんなどの仕組みも取り入れられています

リフィル処方せんとは、慢性疾患を有する患者さんに対して、医師が指定した範囲内でリピート調剤をおこなえる仕組みです。薬剤師が患者さんの状態をモニタリングして、アドバイスや医師への報告をおこなうことも珍しくありません。

また、薬剤師が行うことのできる業務の範囲は、調剤や服薬指導にとどまらず、薬剤師による予防接種が認められている州などもあります。

【オーストラリアの例】

オーストラリアでも国民皆保険制度を基本としており、多くの患者さんが医療機関を利用しています。中でも薬局薬剤師の役割は大きく、日本よりも少ない薬局数や薬剤師数で、効率的に業務をおこなっていることが特徴です。

その背景には、包装単位ごとに調剤をおこなう仕組みや、薬剤師の監視下で働く医療従事者を雇う「ファーマシーテクニシャン」制度が導入されていることなどが挙げられます。また、患者さんとのやり取りの中で薬学的介入があった場合を除いては、薬歴の記載も義務ではないため、このことも業務時間の短縮につながっています。

また、薬局外でのサービス提供を専門とする薬剤師である「コンサルタントファーマシスト」制度なども導入されています。

薬剤師の海外勤務は、情報収集が鍵を握る

海外で働くことは、自身の今後のキャリアにおいて良い影響をもたらします。将来的に薬剤師の供給が過剰となったとしても、海外の渡航経験があることでまわりの薬剤師との差別化を図ることもできます。

しかし、海外で働くためには莫大な費用と時間がかかってしまうので、容易なことではありません。資格やビザ申請など基本的なことはもちろん、今後のキャリアをしっかり考え、行き先の国の薬剤師の働き方について、事前に情報収集するようにしましょう。

ファルマラボ編集部

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記事掲載日: 2019/02/01

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