業界動向
  • 公開日:2023.01.05

DMATにおける薬剤師の役割は?災害派遣医療チームで活躍する

DMATにおける薬剤師の役割は?災害派遣医療チームで活躍する

皆さんはDMATについてどの程度ご存じでしょうか?近年発生したさまざまな災害現場での活躍により、災害医療において欠かせない存在となったDMATですが、病院で勤務していないとその活動を詳しく知る機会は少ないかもしれません。

今回はDMATの活動や目的について紹介するとともに、薬剤師がDMATに所属する意義について紹介します。

最新の医療動向や対処方法などを学べる環境で働いてみませんか? 教育制度充実の求人特集

DMATとは?

DMATとは?

DMATとは「Disaster Medical Assistance Team」の略で「災害時医療支援チーム」を意味し、平成13年度厚生科学特別研究「日本における災害時派遣医療チーム(DMAT)の標準化に関する研究」報告書によると「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義されています。

1つのチームは医師、看護師、業務調整員を含む4~5名で構成され、薬剤師は業務調整員という立場でDMATに参加します。災害急性期とは発生後48時間以内を指しており、極めて短期間で活動を開始することで、避けられる災害死を防ぐことが目的です。

日本でDMATが発足したきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災でした。当時、日本国内の災害派遣を想定した医療チームは存在していなかったため(海外派遣を目的としたJDRのみが存在)、被災地での初期医療体制の整備が遅れてしまいました。もし仮に、通常の救急医療レベルが提供できていれば、避けられた災害死が少なくとも500名存在したという検証結果が報告されています。これをきっかけに医師が被災地で医療を行う必要性が認識され、2004年に東京DMAT、2005年に日本DMATが発足しました。

DMATの活動内容

DMATの活動内容

DMATの活動範囲は大地震、台風、大雨、土砂災害のような自然災害に限らず、航空・列車事故などの大規模な集団災害すべてが対象です。たとえば2020年に起きたダイヤモンド・プリンセス号での新型コロナウイルス集団感染に対してもDMATが派遣されています。災害が発生した場合、DMATが所属するDMAT指定医療機関に対して各都道府県や厚生労働省から出動要請がかかります。隊員は要請後、迅速に現地に向かうことができるよう日常的に準備を行っているのです。

現場活動

災害現場で行う医療活動を指します。緊急治療や「がれきの下の医療」、トリアージなどが含まれます。「がれきの下の医療」は、倒壊した家屋や岩などに挟まれた人を救出する医療を指し、実際、2005年に起きたJR福知山線脱線事故ではDMATが大破した電車のなかで治療を行い、多くの命を救いました。また、トリアージとは傷病の重症度・緊急度から治療優先度を決定することを言い、現場でほかのチームや医療従事者などと判断情報を共有するために優先度を色で認識するトリアージタッグを利用します。

病院支援

被災地の医療機関を支援・強化することも重要な役割です。病院内でのトリアージや診療、病院からの情報発信、ほかの病院への搬送などの支援を行います。

後方支援

後方支援(ロジスティック)とは、DMATの活動に関わる通信、移動手段、医薬品、生活手段などを確保することを指します。

域内搬送

災害時、被災地域内外の広域医療搬送拠点には臨時医療施設(SCU:Staging Care Unit)が設置され、治療を行うと共に搬送のためのトリアージが行われます。域内搬送はヘリコプター、救急車などを使用した搬送で、都道府県や市町村が実施するものです。傷病の状況によって、災害現場からSCUへの搬送だけでなく、SCUから被災地内外の医療機関、医療機関からSCUの搬送が行われます。

広域医療搬送

被災地域では対応が困難な重症患者は被災地域外に搬送する必要があります。広域医療搬送は国が政府の各機関の協力の下で行う活動です。活動には自衛隊機などによる航空搬送時の診療やSCUでの診療・運営を含みます。

DMATにおける薬剤師の役割

DMATにおける薬剤師の役割

薬剤師を含む医師、看護師以外の医療専門職・非医療専門職は業務調整員としてDMATに参加します。業務調整員は医療支援環境の構築(ロジティクス)を役割としており、機材や資材の管理活動や休息を含めた時間管理本部やほかのチームとの情報管理活動資金や食事宿泊を含めたチームの安全管理などを行います。薬品の管理も重要な役割で、薬剤師が参加する意義は大きいと言えるでしょう。

また、災害医療の現場でより職能を発揮するために、医薬品の納入監査、避難所周りを行う際の医薬品準備など、救急救命における薬物療法に特化した「救急認定薬剤師」や災害医療に関する専門知識や技能を有する「災害医療認定薬剤師」などの資格取得も重要です。

【事例】DMATにおける薬剤師の活動

【事例】DMATにおける薬剤師の活動

東日本大震災を例にDMATにおける薬剤師の活動を紹介します。

事例1「薬剤師の視点を被災地での薬品管理に活かす」

三重大学医学部付属病院薬剤部の村木優一先生は、DMATの一員として被災地での薬品管理に関わりました。被災医では限られた医薬品しか使用できないため、医師は使い慣れていない医薬品を使用することになります。村木先生はリスクを軽減するためにチーム内での情報共有やルール作りに努めました

たとえば、被災地では医薬品の調製を行う環境が限定されていることを考慮して、小児用散剤については体重別に用量を決めて予製剤を作成しています。薬剤師としてDMATに参加することで、人的・物的資源に応じた医療事故対策を行った事例です。

事例2「災害医療の過酷さとDMATに対する期待」

新潟大学医歯学総合病院薬剤部の塚口真穂登先生は、2011年3月11日14時46分に東日本大震災が発生してから2時間後の16時40分に福島県立医大病院に出発しました。新潟県が県の養成を待たずに出勤できる態勢を取っているとはいえ、DMAT隊員が常時出動の準備を行っていることがわかります

塚口先生は、現地で外来支援や域内・域外搬送、事務作業に従事していますが、夜通し休憩を取れずに活動したこともあったようです。また、3月11日16時40分に出動し、3月13日18時30分に新潟大学医歯学総合病院へ帰還するまで、福島県・宮城県内で活動を行ったあと、3月14日19時30分に再出動、3月17日15時30分の帰還まで岩手県内で活動を行っています。

このようにDMATの活動は過酷な場面も多いものの、それだけ災害医療の現場で必要とされており、十分な役割を果たすためには日頃からの準備が重要であることがわかる事例です。

DMAT隊員になるための要件

DMAT隊員になるための要件

基本的にDMATに所属できるのは、DMAT指定医療機関に所属している薬剤師のみとなります。該当施設以外で働く薬剤師の場合、DMATの活動に興味を持ち、その意義に賛同したとしても、活動への参加は難しいでしょう。

DMATの隊員になるためには「DMAT隊員養成研修」を受講・修了する必要があります。この研修を受講するには、DMAT指定医療機関に所属していることが基本です。「DMAT隊員養成研修」は4日間にわたって実施されますが、都道府県DMATの研修を修了している場合は2.5日間に短縮されます。研修では災害医療の基礎知識の習得に加え、消防との連携実動訓練や自衛隊との広域医療搬送訓練も行われます。

また、DMATに求められる知識や技能は変化し続けるため、DMAT登録者は5年ごとに資格の更新を受ける必要があり、その要件には5年間に「DMAT技能維持研修」に2回以上参加することが含まれています。

災害現場で活躍できる薬剤師を目指して

薬剤師が災害医療に関わるのは、DMATに限った話ではありません。たとえば、一部の都道府県に配備されているモバイルファーマシーもその一つで、東日本大震災ではDMATと連携して初期の災害医療で活躍しています。

DMATの活動において、薬剤師の資格は必ずしも必須というわけではありません。しかし、被災地の医療においても医薬品は不可欠で、医薬品の専門家である薬剤師の視点や経験はDMATの活動のなかで大きな役割を担っています

DMATはもちろんですが、それだけに限らず、災害医療で活躍する薬剤師となる選択肢も検討してみてはいかがでしょうか。

ぺんぎん薬剤師

執筆者:ぺんぎん薬剤師さん

4年制薬学部を卒業後、大学院の研究で特許を取得。その経験を患者さんの身近な場所で活かしたいと考え薬局に就職。薬局では通常の薬局業務に加え、学会発表、研修講師、市民講座など、様々な形で「伝えること」を経験。自分の得た知識を文章にし、伝えていくことの難しさと楽しさを学ぶ。 薬局での仕事が忙しくなる中、後輩に教える時間がなくなり、伝える場としてブログ「薬剤師の脳みそ」の運営を開始。その後はX(旧Twitter)、Facebook、Instagramなどの各種SNSも開始し、現在では複数のメディアで連載を行っています。

記事掲載日: 2023/01/05

あわせて読まれている記事

認知症の新薬「レカネマブ」承認!効果効能、副作用についても解説

認知症の新薬「レカネマブ」承認!効果効能、副作用についても解説

業界研究
2023.12.20

日本のエーザイ株式会社と、米国のバイオジェン社が共同で開発した認知症の新薬である「レカネマブ」。以前から認知症の治療に有効性が期待できる薬として注目を浴びていました。2023年9月25日に厚生労働省に承認されました。「レカネマブ」は、認知症の中でも最も患者さまが多い、アルツハイマー病の原因物質に直接作用する効果に関心が集まる一方、薬価の面では社会保険料の負担が増える点も危惧されています。今回は「レカネマブ」について効果効能や副作用、また導入に向けた取り扱いのポイントも合わせて解説していきます。

認知症の新薬「レカネマブ」承認!効果効能、副作用についても解説

認知症の新薬「レカネマブ」承認!効果効能、副作用についても解説

業界研究
2023.12.20

日本のエーザイ株式会社と、米国のバイオジェン社が共同で開発した認知症の新薬である「レカネマブ」。以前から認知症の治療に有効性が期待できる薬として注目を浴びていました。2023年9月25日に厚生労働省に承認されました。「レカネマブ」は、認知症の中でも最も患者さまが多い、アルツハイマー病の原因物質に直接作用する効果に関心が集まる一方、薬価の面では社会保険料の負担が増える点も危惧されています。今回は「レカネマブ」について効果効能や副作用、また導入に向けた取り扱いのポイントも合わせて解説していきます。