業界動向
  • 公開日:2021.12.20

新型コロナウイルス感染症の新薬開発!現状と今後の動向は?

新型コロナウイルス感染症の新薬開発!現状と今後の動向は?

2019年末から、世界中に感染が拡大した新型コロナウイルス。未知のウイルスによる感染症ということもあり、当初は有効性が確かめられた治療薬がありませんでした。

世界各国の製薬会社は、新型コロナウイルス感染症に対する治療薬やワクチンの開発を急ピッチで進めています。ほかの感染症に用いられてきた治療薬に関して、新型コロナウイルスにも効果が期待できるのかを検証したほか、いくつかの点滴薬が開発されます。

もちろん、点滴をしなくても良い飲み薬(経口薬)についても同時に開発が進められてきました。さらに、感染予防のためのワクチンも実用化に至ります。

ここではワクチンを含めた新型コロナウイルス感染症の治療薬ついてご紹介し、新しく開発された経口薬の状況やその効果についてまとめていきます。

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新型コロナウイルスの予防・治療薬の種類

新型コロナウイルスの予防・治療薬の種類

新型コロナウイルス感染症の治療薬は、大きく分けて3つの種類があります。1つはウイルスが細胞に侵入するのを防ぐ薬、あと2つはウイルスの増殖や過剰な免疫反応を抑える薬です。それぞれの特徴を見ていきましょう。

1.ウイルスの侵入を防ぐ薬(mRNAワクチン・抗体カクテル療法など)

治療薬というよりは予防手段といった方が適切ですが、ウイルスの侵入を防ぐ薬として、mRNAワクチンが世界中で接種されています。

mRNAワクチンは、新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質の設計図を人工的に作ったものです。ワクチンの接種により設計図が細胞内に取り込まれると、設計図の情報をもとに、人の体内でスパイクタンパク質が作られます。

このスパイクタンパク質に対して免疫機能が働きかけることで、新型コロナウイルスに対する中和抗体が大量に生産され、新型コロナウイルスの侵入を防いだり、感染しても重症化を防いだりすることができると考えられています。

抗体カクテル療法は軽症の患者さまの、重症化を防ぐことを目的として行われる治療方法です。カシリビマブとイムデビマブといったウイルスに対する中和抗体を体内に注入すると、この抗体が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に結合して、細胞への侵入を防ぎます。

2.細胞に侵入したウイルスの増殖を抑える薬(モルヌピラビル)

新型コロナウイルスが細胞に侵入したあとに増殖を抑える薬として、モルヌピラビルがあります。当初はインフルエンザの薬として開発されていましたが、後に新型コロナウイルス感染症に対する有効性が確認されます。2021年11月4日、同薬は世界に先駆けてイギリスで承認されました

また、モルヌピラビルは承認された新型コロナウイルスの治療薬としては初の経口薬(飲み薬)で、ウイルスの増殖に必要なRNAポリメラーゼという酵素を阻害することで治療効果を表します。

過剰な免疫の働き抑える薬(デキサメタゾン、バリシチニブなど)

過剰な免疫反応を抑える薬として承認されたのがデキサメタゾンやバリシチニブなどです。ウイルスに感染すると免疫反応が起こりますが、時に過剰な免疫反応が引き起こされ、全身に炎症反応が広がることもあります。デキサメタゾンやバリシチニブは全身の炎症反応(サイトカインストーム)を抑え、体にダメージを与えてしまうのを防ぎます

初の経口薬、モルヌピラビルの効果

新型コロナウイルスの治療薬は、過去に例を見ないほどのスピードで開発が進められています。なかでも世界初の経口薬として注目を集めているのが、前述したモルヌピラビルです。

モルヌピラビルはメルク・アンド・カンパニー社(アメリカ)が開発した抗ウイルス薬です。現在、新型コロナウイルス感染症の患者さまを対象に、モルヌピラビルの投与とプラセボ(偽薬)の投与を比較した臨床試験が進行しています。

同社が公開した暫定的な解析では、モルヌピラビルを服用すると、プラセボ服用に比べて、入院または死亡するリスクが50%低下すると報告されています。この解析において、モルヌピラビルを服用した患者さまのうち入院または死亡したのは7.3%でしたが、プラセボを服用した患者さまでは14.1%でした。

また、モルヌピラビルを使用したグループでは死亡例が報告されなかったことから安全性も高いと考えらえれ、新型コロナウイルス感染症の治療薬として大きな期待が寄せられています。

イギリスでは世界に先駆けてモルヌピラビルの使用が承認されました。軽症から中等度程度の患者さまのうち、肥満や心臓病などの重症化リスクがある方が対象です。最も高い効果が得られるのは感染が判明してすぐの投与だと考えられており、発症後5日以内の服用が推奨されています。

▼参考サイトはコチラ
メルク・アンド・カンパニー COVID-19抗ウイルスの取り組みに関する最新情報

メルク・アンド・カンパニー社以外の経口薬開発の現状

 メルク社以外の経口薬開発の現状

新型コロナウイルス感染症の経口薬は、国内外を問わず実用化に向けて開発が進められています。

ファイザー社(アメリカ)

「パクスロビド」は、抗エイズウイルス薬として開発されたリトナビルと、ファイザー社が新規に開発した「PF-07321332」の合剤です。「PF-07321332」はウイルスの増殖に必要な3CLプロテアーゼという酵素を阻害する薬で、新型コロナウイルス感染症の患者さまを対象とした臨床試験が進行中です。

ファイザー社が公開した臨床試験の暫定的な解析では、プラセボの投与に比べて、パクスロビドの投与は、入院または死亡のリスクを89%減少させたと報告しています。この解析において、プラセボの投与を受けた385人のうち27人が入院し、7人が死亡したのに対し、パクスロビドの投与をうけた389人では、入院した人が3人、死亡した人はゼロでした

本剤は2021年中に緊急使用許可を得る可能性があり、今後の動向に注目が集まっています。

ロシュ社/アテア・ファーマシューティカルズ社

スイスの大手製薬会社ロシュ社は、アテア・ファーマシューティカルズ社(アメリカ)と共同で経口薬の「AT-527」の開発を進めてきました。実験的な研究では、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス作用が確認されていましたが、人での有効性や安全性を評価するために新型コロナウイルス感染症の患者さまを対象とした臨床試験が開始されることになったのです。

その結果、重症化リスクが高い患者さまには一定の効果があったものの、残念ながら軽症から中等症の患者さまではウイルスを明らかに減少させることはできませんでした

これらの結果を受け、2021年11月16日に、ロシュ社とアテア・ファーマシューティカルズ社は提携を解消。今後はアテア・ファーマシューティカルズ社単独で開発を進めます。

国内での経口薬処方は2021年内に?

日本国内でも、経口薬の処方ができるよう体制が整えられています。早ければ2021年内に、遅くとも2022年のはじめには処方が開始される見込みです。

2021年9月の段階でファイザー社(アメリカ)や塩野義製薬社(大阪市)は第2/3相、メルク・アンド・カンパニー社とアテア・ファーマシューティカルズ社は第3相試験に突入しました。ファイザー社の臨床試験は2021年3月から開始しており、早くて同年10月に第2/3相試験が終わる見込みです。

一般的に臨床試験は第1相試験、第2相試験、第3相試験と進みます。臨床試験の解析が終了するまでには3~7年を要し、基礎研究や非臨床試験、承認申請や審査なども含めると、薬を開発するのに9~17年が必要です。いかに新型コロナウイルスの治療薬が急ピッチで進められているのかがわかるでしょう。

国内で使用されている治療薬一覧

国内で使用されている治療薬一覧

2021年11月現在、新型コロナウイルス感染症の治療のために使用されている医薬品をご紹介します。

※SARS-CoV-2:新型コロナウイルス

一般名 商品名 製造販売元 薬効 日本で承認されている疾患
レムデシビル ベクルリー ギリアド・サイエンシズ 抗ウイルス薬 SARS-CoV-2による感染症
デキサメタゾン デカドロン 日医工など ステロイド 重症感染症など
バリシチニブ オルミエント イーライリリー・アンド・カンパニー JAK阻害薬 関節リウマチ
アトピー性皮膚炎
SARS-CoV-2 による肺炎
カシリビマブ/イムデビマブ ロナプリーブ 中外製薬 抗体カクテル SARS-CoV-2による感染症及びその発症抑制
ソトロビマブ ゼビュディ グラクソ・スミスクライン 中和抗体 SARS-CoV-2による感染症
参考:厚生労働省「 新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第6.0版

レムデシビル

エボラ出血熱の治療薬として開発された抗ウイルス薬です。現在はECMO(人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療)や人工呼吸器を装着している方などに投与されることが多い薬です。

デキサメタゾン

抗炎症薬として広く用いられている薬ですが、重症感染症や間質性肺炎などの治療にも用いられます。重症肺炎患者さまの死亡率を下げる効果があるとされています。

バリシチニブ

感染症が重症化した際に起こる全身の炎症反応(サイトカインストーム)を抑えることで、臓器障害などを抑制する効果が期待できます

カシリビマブ/イムデビマブ

いわゆる抗体カクテル療法で用いられる薬(中和抗体)です。2種類の中和抗体が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に結合し、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぎます

ソトロビマブ

新型コロナウイルスに対する中和抗体で、重症化リスクの高い軽症から中等症の患者さまが投与の対象となります。

経口薬の開発、今後の動向にも注目

瞬く間に世界中へ広まった新型コロナウイルス感染症。有効性が確かめられた治療薬がない未知のウイルスでしたが、世界各国の製薬会社が続々と開発を進めています。

なかでも初の経口薬として注目を集めているのがモルヌピラビルです。入院や死亡リスクを半減させる効果があるとされ、イギリスでは世界に先駆けて使用が認められています

早ければ2021年内に日本国内でも経口薬の処方ができるようになる見込みです。今後の開発動向に注目し、最新情報をキャッチアップできるようにしましょう。

青島 周一さんの写真

監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

2004 年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012 年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

主な著書に『OTC医薬品 どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医療情報を見る、医療情報から見る エビデンスと向き合うための10のスキル(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』

記事掲載日: 2021/12/20

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