服薬指導に活かす医薬品情報

エンレスト錠

Q

何のお薬?処方目的は?

A

適応症は、慢性心不全高血圧症(2021.9に効能追加、100mg・200mg錠のみ)です。慢心心不全には、標準的な治療を受けている患者に限り、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)から切り替えて投与します。高血圧症には、過度な血圧低下のおそれ等があり、原則として第一選択薬としません。

心不全の治療
心不全の経過の多くは慢性・進行性であり、急性増悪を反復し徐々に重症化します。心不全患者の多くを占めるステージC(心不全ステージ)における治療には、慢性心不全と急性増悪時の急性心不全治療の両方が含まれ、慢性期治療は病態に関与する左室駆出率(LVEF)に応じて選択します。LVEFの低下した心不全(HFrEF)では、ACE阻害薬/ARBとβ遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)による薬物療法を基本治療としますが、効果が不十分な場合ACE阻害薬/ARBからARNIへの切り替えが推奨されるようになりました(2021年JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療)。

Q

用法・用量

A

慢性心不全には、通常、開始用量1回50mgを1日2回経口投与します。忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量します。1回投与量は50mg、100mg又は200mgとし、いずれの場合も1日2回投与します。増量時は、腎機能、肝機能、血圧、血清カリウム値等に注意します。なお、忍容性に応じて適宜減量します。 高血圧症には、通常1日1回200mgを経口投与します。なお、年齢、症状により適宜増減しますが、最大1日1回400mgとします。

Q

作用機序は?

A

サクビトリルバルサルタンに解離し、ナトリウム利尿ペプチド分解酵素であるネプリライシン(NEP)阻害作用アンジオテンシンⅡタイプ1(AT1)受容体拮抗作用の2つの薬理作用を発揮します。NEP阻害によりナトリウム利尿ペプチドの作用が亢進し、ナトリウム排泄作用、利尿作用、心肥大抑制作用、抗線維化作用、血管拡張作用等を示します。AT1受容体拮抗作用は、血管収縮、腎ナトリウム・体液貯留、心筋肥大、及び心血管リモデリング異常に対する抑制作用を示します。

ARNI
心不全の発症と進展には、交感神経系、RAA系、ナトリウム利尿ペプチド系の3つの神経体液性因子の活性化が関与しています。従来の慢性心不全治療薬では、β遮断薬は交感神経系を、ACE阻害薬、ARB、MRAはRAA系をターゲットとしていますが、本剤は、ナトリウム利尿ペプチド系を亢進し、RAA系を阻害する新しいタイプの慢性心不全治療薬です。NEP阻害によりRAA系が活性化してしまいますが、もう一方のRAA系阻害作用により抑制できると考えられます。

Q

禁忌は?

A

ACE阻害薬糖尿病患者に投与する場合はアリスキレンフマル酸(ラジレス)と併用禁忌です。血管浮腫の危険があり、ACE阻害薬から切り替えの際は少なくとも36時間前に中止します。血管浮腫の既往歴のある患者、重度の肝機能障害のある患者、妊婦又は妊娠している可能性のある女性は禁忌です。

掲載日: 2022/12/08
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