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  • 公開日:2022.01.18

【2021年最新】アトピー性皮膚炎の新薬と開発状況を解説!

【2021年最新】アトピー性皮膚炎の新薬と開発状況を解説!

アトピー性皮膚炎とは、皮膚の様々な場所に湿疹があらわれ、慢性的なかゆみを引き起こす病気です。重症化すると皮膚を傷つけてしまったり十分な睡眠がとれなくなってしまったりと、QOLの低下につながる場合もあります。

近年では新規作用機序の外用剤や生物学的製剤が登場するようになったことから薬剤の選択肢も増え、今までの治療で十分な効果が得られなかった症例においても高い改善効果が期待できるようになりました。

この記事では、アトピー性皮膚炎の症状や要因、おもな治療薬、新薬の開発状況について、詳しく解説していきます

アトピー性皮膚炎の症状や要因

アトピー性皮膚炎の症状や要因

まずは、アトピー性皮膚炎の概要や症状、要因について確認していきましょう。

アトピー性皮膚炎とは?

アトピー性皮膚炎とは、皮膚の様々な場所に湿疹があらわれ、慢性的なかゆみを引き起こす病気です。正常な皮膚には表面にバリア機能があり、抗原や微生物などの刺激が外部から入ってくるのを防いでいます。しかし、アトピー性皮膚炎による、バリア機能の低下で刺激が体内に侵入すると、炎症などの症状があらわれるのです。

どのような症状が出る?

アトピー性皮膚炎の症状には個人差がありますが、一般的には皮膚が炎症によって赤くなり、小さくブツブツとした湿疹があらわれるのが特徴です。

湿疹があらわれやすい場所は年齢によって異なり、乳児期には頭や顔にできたあと、体や手足に広がっていく傾向があり、幼児期には汗をかきやすい手足の関節の内側に症状が出やすいといわれています。思春期~成人期には頭や首、胸、背中などの上半身に皮疹が強くあらわれる傾向があります

強いかゆみを伴うことも多いものの、皮膚をかき崩してしまうとさらに症状が悪化してしまうため注意が必要です

発症する要因は?

正確にわかっていない部分もありますが、アトピー性皮膚炎の発症には遺伝的要因、皮膚のバリア機能の障害、免疫の異常、そして環境的要因が関与していると考えられています。

とくに、家族にアレルギー性鼻炎や喘息、アトピー性皮膚炎などをもつ方がいる場合や、IgE抗体を産生しやすい体質などの「アトピー素因」がある場合には、アトピー性皮膚炎を発症しやすいと考えられています。

また、おもな環境的要因としては、食べ物(牛乳や卵、ピーナッツなど)、アレルゲン(ダニ、カビ、ふけなど)、皮膚に定着した黄色ブドウ球菌、化粧品の使用、発汗、衣類(荒い繊維のもの)、ストレスなどがあげられます。

患者数は30年で倍増

2017年に厚生労働省が発表した『患者調査』によると、アトピー性皮膚炎の患者さまは1984年の20.3万人から、右肩上がりで増加傾向です。ライフスタイルの変化やアトピー性皮膚炎の病態がより認知されるようになったことなどを背景に、今後も増加傾向は続くと考えられています。

アトピー性皮膚炎の治療はステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などを用いることが一般的です。しかし、2018年には10年ぶりの新薬として「ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体・デュピクセント皮下注(サノフィ)(デュピクセント/デュピルマブ)」が登場するなど、新薬の上市も相次いでおり、治療の選択肢は広がっています。

アトピー性皮膚炎のおもな治療薬は?

アトピー性皮膚炎のおもな治療薬は?

アトピー性皮膚炎の治療のために使われている薬剤について、代表的なものをみていきましょう。

ステロイド薬

ステロイド薬は、抗炎症作用などを有する薬剤で、外用薬と内服薬が用いられています。とくにステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎の治療の中心を担っており、軽症~重症まで多くの症例に使用されています

外用薬で抑えられないほど重症化した場合には、ステロイド内服薬を一定期間使うこともあります。ただ、漫然と内服し続けると予期せぬ副作用につながる恐れもあるため、医師の指示通りに使用することが重要です。

免疫抑制薬

免疫抑制薬は、名前の通り免疫反応を抑える働きがある薬剤で、アトピー性皮膚炎の治療では外用薬のタクロリムスや、内服薬のシクロスポリンが用いられます

タクロリムスはステロイド外用薬で治療効果が十分でないか、もしくは副作用によって、ステロイドが使用できないときに用いられる外用薬です。炎症を抑える強さはミディアム~ストロングクラスのステロイド外用薬と同程度と考えられています。

また、外用薬による治療で十分な効果が得られない場合には、シクロスポリンの内服薬が用いられることもあります。

JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤

JAK阻害薬は、炎症性サイトカインの刺激が細胞に伝達されるときに必要な酵素であるJAKを阻害する働きのある薬剤です。

現在、外用薬(軟膏)と内服薬が承認されています。

ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体

2018年に登場した注射薬で、アトピー性皮膚炎の治療薬としては初めての生物学的製剤(抗体医薬品)です。IL-4/13のシグナル伝達を阻み、病態に深く関与するTh2型炎症反応を抑える働きがあります。

今までのステロイド外用薬による治療で十分な効果が得られなかった中等症以上のアトピー性皮膚炎に対して、高い改善効果と安全性が認められています。

抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬

アトピー性皮膚炎では、症状の一つとしてかゆみがあらわれます。かくことにより皮膚が傷ついて症状が悪化する場合も珍しくありません。抗炎症外用治療の補助療法として、内服薬では抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬が用いられます。

続々とアトピー性皮膚炎の新薬が承認されている

続々とアトピー性皮膚炎の新薬が承認されている

近年ではアトピー性皮膚炎の新薬が続々と承認されており、治療の選択肢も広がっています。ここでは、新薬の承認や開発の状況について解説していきます。

JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤【内服薬】

2020年からアトピー性皮膚炎の治療薬として、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬が登場しました。近年になって、新たに承認された薬について見ていきましょう。

■オルミエント(バリシチニブ)

オルミエント(一般名:バリシチニブ)は、日本ではもともと関節リウマチでの適応を取得していたJAK1/JAK2阻害剤です。

2020年12月、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎の適応が追加されました。アトピー性皮膚炎の内服薬としては12年ぶりの新薬となります。

服用時間に制限のない薬剤で、成人では毎回4mg(状態に応じて2mgに減量)を1日1回、経口投与します。

■リンヴォック(ウパダシチニブ)

リンヴォック(一般名:ウパダシチニブ)は、もともとの関節リウマチなどに追加して、2021年8月に既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎の適応を取得しました

選択的かつ可逆的にJAK1およびJAK2を阻害することから、安全性や高い効果が期待できると考えられています。さらに12歳から使用可能であるため、小児のアトピー性皮膚炎の治療薬としても注目されています

服用時間に制限はなく、成人では毎回15mg(状態に応じて30mgに増量)を1日1回、経口投与します。また、12歳以上かつ体重30kg以上の小児には、15mgを1日1回、経口投与します。

■サイバインコ(アブロシチニブ)

サイバインコ(一般名:アブロシチニブ)は、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎を適応としたJAK阻害剤で、2021年9月27日に国内における製造販売承認を取得し、同年12月13日に国内販売が開始されました

リンヴォックと同様に、JAK1を選択的に阻害します。また、12歳以上への投与も可能で、毎回100mg(状態に応じて200mgに増量)を1日1回、経口投与します。

JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤【外用薬】

JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤の外用薬としては、コレクチム軟膏が製造販売承認を取得しています。

■コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)

コレクチム軟膏(一般名:デルゴシチニブ)は、アトピー性皮膚炎を適応とした世界初の外用JAK阻害剤です。

成人用のコレクチム軟膏0.5%が2020年1月に、小児用のコレクチム軟膏0.25%が2020年3月に製造販売承認を取得し、どちらも2021年6月に国内販売が開始されました。成人用も小児用も、1日2回、適量(1回あたりの塗布量は最大5g)を患部に塗布します。

同薬は4種類あるJAKファミリー(JAK1・JAK2・JAK3・Tyk2)を阻害して過剰な免疫の活性化を抑え、皮膚の炎症を抑制する効果が期待されています。ステロイド外用剤や免疫抑制外用剤とは異なる作用機序をもつことから、治療選択肢の拡大に注目が集まっています。

ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体

ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体としては、デュピクセントが製造販売承認を取得しています

■デュピクセント(デュピルマブ)

デュピクセント(一般名:デュピルマブ)は、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎を適応とした世界初のヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体(生物学的製剤)です。

IL-4/13によるシグナルの伝達を阻害し、アトピー性皮膚炎に深く関与するTh2型炎症反応を抑えます。成人では初回に600mg、その後は1回300mgを2週間隔で皮下投与します。

なお、ペン製剤の発売により、自己注射も可能となりました。ただし、治療対象は15歳以上の患者さまに限られます。

PDE4(ホスホジエステラ―ゼIV)阻害剤

PDE4(ホスホジエステラ―ゼIV)阻害剤としては、モイゼルト軟膏が製造販売承認を取得しています

■モイゼルト軟膏(ジミファミラスト)

モイゼルト軟膏(一般名:ジミファミラスト)は、成人と小児(2歳以上)を対象とした国内初のアトピー性皮膚炎の適応をもつPDE4阻害剤で、2021年9月に製造販売承認を取得しています

炎症性サイトカインをはじめとする化学伝達物質の産生を抑制することで、抗炎症作用を発揮してアトピー性皮膚炎の症状を改善すると考えられています。

ただし、2021年11月に製造過程において確認を必要とする事項が見つかったことから、薬価基準収載および発売は現在のところ見合わせられています。

抗IL-31レセプターAヒト化モノクローナル抗体

抗IL-31レセプターAヒト化モノクローナル抗体としては、ネモリズマブが現在開発中です。

■ネモリズマブ

ネモリズマブは、神経細胞に結合することでかゆみを起こすと考えられているタンパク質の一種である、インターロイキン31(IL31)を標的にした抗体製剤で、IL31と神経細胞との結合を防ぐ働きがあります。

また、IL-31にはアトピー性皮膚炎で起こりうる炎症惹起や皮膚バリア機能の破綻への関与についても示唆されています。軟膏などの外用剤を用いても十分な治療効果を得られていない13歳以上のアトピー性皮膚炎の患者さま計215人を対象とした臨床試験により、かゆみに対する有効性が確認されました。

ヒト型抗OX40モノクローナル抗体製剤

ヒト型抗OX40モノクローナル抗体製剤としては、KHK4083が現在開発中です。

■KHK4083

KHK4083(開発コード)は、アトピー性皮膚炎を対象疾患に関発中のヒト型抗OX40モノクローナル抗体製剤で、協和キリン株式会社およびアメリカのアムジェン株式会社によって共同開発が行われています。

KHK4083では、協和キリン社が保有している「完全ヒト抗体作製技術」と抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)を高める「POTELLIGENT®技術」が使用されており、選択的に活性化T細胞を減少させることが確認されています

新薬の動向を知り適切な薬学的管理を

この記事では、アトピー性皮膚炎の症状や要因、おもな治療薬、新薬の開発状況について、詳しく解説しました。

従来のアトピー性皮膚炎の治療では、ステロイド剤や免疫抑制剤により、免疫そのものを抑える方法が一般的でしたが、近年ではバイオテクノロジーの進歩により、アトピー性皮膚炎の要因に直接アプローチすることが可能になりつつあります。

これらの薬剤のなかには使用方法が複雑な薬剤も多く、高度な薬学的管理が必要となる場合もあります。薬剤師に求められる役割を認識し、必要な知識を身につけておくようにしましょう。

青島 周一さんの写真

監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

2004 年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012 年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

おもな著書に『OTC医薬品 どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医療情報を見る、医療情報から見る エビデンスと向き合うための10のスキル(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』

記事掲載日: 2022/01/18

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