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  • 公開日:2024.01.25

オーバードーズとは?薬剤師が知っておくべき対応方法

オーバードーズとは?薬剤師が知っておくべき対応方法

近年、睡眠薬や抗不安薬のみならず、市販薬を過剰摂取する行為が問題視されています。オーバードーズと呼ばれる医薬品の過剰摂取は、しばしばメディアでも報道され、社会問題としても関心が高まっています。

悩みや本音を周りに言えず、辛い気持ちを紛らわせたい一心で、オーバードーズをしてしまう人は、若い世代を中心に広がっています。

この記事では、近年のオーバードーズの傾向から、薬剤師としてできることについて解説します。

薬のオーバードーズについて

薬を使用する際の1回あたりの服薬量(dose)が過剰である(over)ことや、過剰摂取におよぶ行為を「オーバードーズ」といいます。

ここでは、オーバードーズの目的や症状、危険な理由についてお伝えします。

医薬品を過剰摂取してしまう理由

従来、薬物の依存や乱用といえば、違法薬物を興味本位や快楽を得るための目的で使用することが主流でした。

しかし近年では、若者を中心として学校や仕事でストレスを抱えた方が、現実逃避で辛い気持ちを紛らわすために、医薬品を過剰摂取してしまうケースが多いようです。

これはスマートフォンの普及により、インターネット通販で手軽に市販薬を購入できるようになったことや、SNSでオーバードーズに関する情報を簡単に見つけられるようになったことが背景にあると考えられます。

医薬品を大量・頻回に服用することで、強い幸福感を得たり、眠気や疲労感の軽減を実感できたりすることもあります。しかし、その効果は一時的であるために、医薬品の過量摂取を繰り返してしまうのです。

オーバードーズによる危険な症状

違法薬物とは違い、市販薬や処方薬は所持することで罪にはならないことから、乱用が発見されにくいという現状があります。しかし、これらの医薬品のオーバードーズによる健康被害は、違法薬物よりも深刻になる場合もあります。

オーバードーズによる中毒症状には以下のようなものがあげられます。

  • 幻覚や精神の興奮状態
  • 思考力低下
  • 知覚過敏
  • 呼吸困難や発作
  • めまいや立ちくらみなど
  • さらに、体内から薬の成分が代謝される過程において、以下のような離脱症状が起こる場合があります。

  • 強い不安感
  • けいれん
  • 動悸
  • 吐き気
  • 脱力感など
  • とくに、市販薬の場合は1つの薬に複数の成分が配合されているため、上記の症状がより強く出ることも考えられます。ひどい場合は臓器不全により死に至るケースもあるため、注意が必要です。

    近年オーバードーズされる薬の傾向

    近年オーバードーズされる薬の傾向

    上記でも述べたとおり、近年は市販薬や処方薬といった「違法ではない」薬物の乱用が増加していることがわかっています。

    ここでは、オーバードーズされる薬の傾向について、詳しく解説します。

    市販薬では総合感冒薬、解熱鎮痛薬、睡眠鎮静薬に多い

    日本医師会の報告では、2011~2019年に藤田医科大学病院・救命救急センター(愛知県)に搬送された市販薬による急性薬物中毒患者のうち、以下のような薬の摂取が多かったとしています。

  • 総合感冒薬
  • 解熱鎮痛薬
  • 睡眠鎮静薬、眠気防止薬
  • 鎮咳薬
  • このようにさまざまな市販薬でオーバードーズが報告されていますが、厚生労働省はとくに以下の6成分を使用する医薬品を「濫用等のおそれのある医薬品」として指定し、販売規制を行っています。

  • エフェドリン、コデイン:鎮咳成分
  • ジヒドロコデイン:鎮咳成分
  • ブロムワレリル尿素:鎮静催眠成分
  • プソイドエフェドリン:鼻閉緩和成分
  • メチルエフェドリン:鎮咳成分
  • さらに、厚生労働省が2023年3月に行った医薬品の販売制度に関する検討会では、「デキストロメトルファン(鎮咳成分)」「ジフェンヒドラミン(抗ヒスタミン成分)」の成分についても注意喚起がなされています。

    とくにデキストロメトルファンは2021年にメジコンがOTC化された後に乱用する若年層が急速に増えていることが問題視されています。

    処方薬では睡眠薬・抗不安薬に多い

    2022年の「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」において、薬物関連精神疾患2468例のうち、1年以内に薬剤の使用障害を認めた患者さまは1036例(42.0%)でした。

    このうち、最も多かった薬剤は睡眠薬・抗不安薬で28.7%、ついで覚せい剤が28.2%でした。前回の調査から睡眠薬・抗不安薬が逆転して最多となり、違法薬物である覚せい剤をわずかながら上回る結果となりました。これは近年覚せい剤の取締りが強化され、「捕まらない薬物」への移行が増えていることを示しています。

    睡眠薬・抗不安薬の中で報告が多い薬としては、以下の薬があげられています。

  • エチゾラム
  • ゾルピデム
  • フルニトラゼパム
  • トリアゾラム
  • とくにゾルピデムの乱用に関する報告が年々増加傾向にあり、これは「非ベンゾジアゼピン系」であるゾルピデムが安易に処方されている状況が懸念されています。

    オーバードーズについて薬剤師ができること

    オーバードーズについて薬剤師ができること

    では私たち薬剤師は、このようなオーバードーズの問題に対してどのような介入ができるのでしょうか。

    薬剤師がオーバードーズの防止に貢献できる場面としては、主に患者さまへの服薬指導、市販薬の販売、学校での啓発活動の3つがあげられます。

    服薬指導で薬の重複や併用薬について確認する

    処方薬でオーバードーズが起こる理由として、患者さまが複数の医療機関を受診し、睡眠薬や抗不安薬の重複投与を受けていることがあげられます。

    そのため、患者さまにかかりつけ薬局をもつことや、お薬手帳を利用するように促すことはオーバードーズを防ぐ効果的な対策の一つになります。

    また、処方薬と市販薬との併用にも、注意する必要があります。

    たとえば、市販の鎮咳薬にも含有されている「デキストロメトルファン」には、NMDA受容体阻害作用およびセロトニン作動性神経系の興奮作用があり、過剰摂取により幻覚や興奮、セロトニン症候群を引き起こす危険性が高まります。

    とくにセロトニン症候群は、抗うつ薬であるSSRIなどのセロトニン作動薬との併用で症状が増悪するため注意が必要です。

    適正と判断した場合にのみ市販薬の販売を行う

    2023年4月から、「濫用等のおそれがある医薬品」の6成分を含む市販薬は、鎮咳去痰薬に限らずすべて規制対象となりました。該当する商品を販売する際には、薬剤師は以下の点について確認を行う義務があります。

  • 購入者が子ども(高校生・中学生等)である場合は、その氏名や年齢、使用状況を確認する。
  • 購入者が同じ医薬品を他店で購入していないか、もしくはすでに所持していないかなどを確認する。
  • 原則一人1包装までの販売とし、複数の購入希望があった場合には理由や使用状況などを確認し、支障のない場合に限り販売を行う。
  • その他、適正な使用を目的とする購入・譲り受けであることを確認するために必要な事項を確認する。
  • また、日本の市販薬は一般に含有成分が多いために、配合成分同士の相互作用も問題となる場合があります。

    たとえば、総合感冒薬で含有の多い「ジヒドロコデイン」と「クロルフェニラミン」が組み合わされることで、ジヒドロコデインの精神依存性が著しく増強されることがわかっています。さらに、「カフェイン」による急性中毒や「アセトアミノフェン」による肝障害のリスクも懸念されています。

    規制対象となっている医薬品6成分を含む市販薬はもちろん、それ以外の市販薬についても不適切な購入がされていないかを確認し、適正と判断された場合にのみ販売を行うことが大切です。

    学校薬剤師として薬物乱用の防止活動を行う

    近年では、10代の学生によるオーバードーズも数多く報告されています。

    2021年に国立精神・神経医療研究センターによって実施された調査によると、過去1年以内に市販薬の乱用経験があると回答した高校生の数は、約60人に1人の割合にのぼるとされています。

    そのため、学校薬剤師として違法薬物の危険性や医薬品の適正使用を伝えることは、若年者によるオーバードーズを防止する意味でも、非常に重要な取り組みであると言えるでしょう。

    一般社団法人くすりの適正協議会が提供する「くすり教育担当者のための教材サイト」では、医薬品の扱い方を指導するための教材や学校の活動事例が紹介されているため、参考にするのもよいでしょう。

    オーバードーズを阻止するために

    この記事では、オーバードーズで起こり得る危険な症状や、近年使用される薬の傾向、薬剤師としてできる対応についてご紹介しました。

    医薬品のオーバードーズは、さらなる依存性や中毒性の高い違法薬物に手を染めてしまうきっかけにもなります。

    悲しい事件に発展させないためにも、私たち薬剤師は相手の気持ちに寄り添いながら、医薬品の適正使用を呼びかけていきましょう。

    青島 周一さんの写真

      監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

    2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

    主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』

    記事掲載日: 2024/01/25

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