業界動向
  • 公開日:2024.04.09

【最新】2024年度診療報酬改定案の答申における、今後の薬剤師業界の流れ

【最新】2024年度診療報酬改定案の答申における、今後の薬剤師業界の流れ

2024年2月14日に開催された中央社会保険医療協議会において、2024年度診療報酬改定案の答申が発表されました。今回の改定では、新しい動きもいくつかありました。

2024年に行われる診療報酬の改定は、介護報酬、障害福祉サービス等報酬との同時改定(トリプル改定)となります。薬剤師の業務にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、その詳細を把握しておきたいと考える方も多いのではないでしょうか。

今回は、2024年度の診療報酬改定案の中でも、薬剤師業務とかかわりの深い項目について解説していきます。薬剤師業界に及ぼす影響や展望などについても解説していきますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

2024年度診療報酬改定案の概要

まずは2024年度診療報酬改定案の概要について、改定の背景と目的も合わせて解説します。

改定の背景と目的

診療報酬の改定は、これまで4月1日付の施行でしたが、今回は例年とは異なる6月1日付の施行予定となっています。その背景として、医療分野のデジタルトランスフォーメーション(以下、医療DX)導入に関わる準備等、医療現場の負担増加が挙げられます。

今回、大きく2つの点について改定がありました

  • 薬剤師の質の向上
  • 地域医療連携の強化
  • これまで、薬剤師の研修体制の確保や、薬剤師による地域連携という業務は、十分に評価されているとは言えない側面がありました。今回の改定では、薬剤師の人材確保という観点からも算定要件が見直され、薬剤師業務の質の向上に対する期待が伺われます。

    また、2024年12月2日には、現行の健康保険証からマイナンバー保険証の移行が予定されています。そのため、医療DX推進体制整備加算が設けられ、厚生労働省の施設基準を遵守している施設には月に1度加算が算定できるようになります。

    医療DXについては後述でさらに詳しく解説していきます。

    2024年度診療報酬改定案のポイント

    2024年度診療報酬改定案のポイント

    2024年度の診療報酬改定案のポイントは、大きく分けると下記の4つです。

  • 地域支援体制加算の見直し
  • 薬剤業務向上加算の新設
  • 在宅薬学総合加算の新設
  • かかりつけ薬剤師機能の強化
  • それぞれ解説していきます。

    地域支援体制加算の見直し

    薬局の地域におけるかかりつけ機能を適切に評価する観点から、2024年度の診療報酬改定案では、地域支援体制加算の算定要件が細部にわたって見直されました。同加算は、算定要件に応じて1~4に分類されていますが、地域支援体制加算4では、緊急避妊薬の応需やOTCの販売体制の強化が明文化されています。また、OTC医薬品の取り扱いに関して、健康サポート薬局の届出要件とされている要指導薬品48薬効群を取り扱うこととされました。

    薬剤業務向上加算の新設

    今回の診療報酬改定で新たに導入される「薬剤業務向上加算」は、病院に勤務する薬剤師の病棟業務に関して、チーム医療の推進と薬物治療の質の向上を図ることを目的に新設されました。本加算は、病院薬剤師の研修体制が整備された医療機関における病棟薬剤業務が評価対象となっています。

    なお、薬剤業務向上加算の新設により、タスク・シェアリングやタスク・シフティングといった、病棟業務におけるチーム医療の推進が期待されています。

    在宅薬学総合加算の新設

    政策的に在宅医療へのシフトが注目される中で、今回の診療報酬改定では在宅薬学総合加算1と2が新設されました。

    在宅薬学総合加算は、在宅療養患者の薬学的管理や服薬指導に適した体制となっているかという観点から算定要件が設定されています。例えば、在宅薬学総合加算2における算定要件の施設基準の一部は以下の通りです。

    1.高度管理医療機器販売業の届出

    2.医療用麻薬の備蓄6品目以上(注射薬1品以上)

    3.無菌調剤設備を備えている

    4.在宅の乳幼児加算と小児特定加算の実績が1年で6回以上 など

    ※2と3、もしくは4のどちらかは満たしている必要がある

    地域薬局においては、より質の高い在宅医療の提供体制に関わる整備が期待されています。

    かかりつけ薬剤師機能の強化

    前述のとおり、地域支援体制加算4では、緊急避妊薬やOTC薬品の販売体制の整備も算定要件に追加されました。また、生活習慣等に対する健康相談の応需、新興感染症の発生時や災害等に応じた体制の整備など、地域の「かかりつけ」としての機能強化が求められている点も、診療報酬改定の重要なポイントと言えるでしょう。

    薬剤師業界における改定の影響

    薬剤師業界における改定の影響として予測されるのは、下記の3点です。

  • 地域医療における薬剤師の役割の拡大
  • 多職種連携の重要性がさらに高まる
  • 薬剤業務向上加算の対策を検討する必要がある
  • それぞれ分けて、解説していきます。

    地域医療における薬剤師の役割の拡大

    前述のような地域支援体制加算の見直しはもちろん、入院中の患者さまが在宅療養へ移行する際、退院直後に残薬の確認や服薬方法の提案などを実施することで、在宅移行初期管理料として、1回に限り加算が算定できるようになります。

    在宅移行初期管理料は、在宅医療に携わる薬剤師の業務に対して適切な評価が加えられた改定項目であり、地域医療における薬剤師の役割も拡大していくでしょう。

    多職種連携の重要性がさらに高まる

    在宅患者訪問薬剤管理指導料の改定では、「注射による麻薬投与が必要な患者の定期訪問の上限を週2回かつ月8回までとする」と変更されました。薬剤師によるフォローアップ業務に対する評価も見直されたと言ってよいでしょう。

    今回の改定ではまた、薬剤師による充実した薬学管理を推進し、質の高い薬物療法が適用できるようにするため、薬学的なフォローアップに関する評価が見直されています。現行の服薬管理指導料における調剤後薬剤管理指導加算が廃止される一方、医療機関と薬局が連携して糖尿病患者さま、もしくは慢性心不全患者さまに対する薬学的フォローアップを行った場合に、調剤後薬剤管理指導料が算定できるようになります。

    今回の改定を踏まえて、高度な在宅医療体制を整えていく薬局も増えていくのではないでしょうか。

    また、服薬情報提供料は、医師だけでなく介護支援専門員に対する情報提供においても加算が算定できる場合があります。薬剤師も積極的に他職種と連携する必要があるでしょう。

    薬剤業務向上加算の対策を検討する必要がある

    今回の改定で新設された薬剤業務向上加算の算定要件を満たすには、継続的な教育の実施や教育のための施設整備などが求められています。

    新しい薬剤師の教育において注目されている制度であるため、新卒の薬剤師はもちろん、すでに働いている薬剤師に対しても教育体制を整えていく必要があるでしょう。

    2024年度診療報酬改定を踏まえた薬剤師業界の展望

    2024年度診療報酬改定を踏まえた薬剤師業界の展望

    ここまでで、2024年度診療報酬改定の詳細を解説しました。2024年度診療報酬改定を踏まえ、薬剤師業界の展望についてみていきましょう。

    薬剤師のキャリアパスと専門性の向上

    薬剤業務向上加算の新設も踏まえ、新卒の薬剤師教育はもちろん、専門薬剤師制度の活用や継続教育の強化、資格取得の促進など、薬剤師にはさらなる専門性の向上が求められると予想できるでしょう。

    薬剤師は、新薬に関する情報や薬剤師業界の動向も含め、継続的な学習と自己研鑽が必要です。薬剤師としてのキャリアプランを考えておくことで、どのような知識が自分に必要かが明確になり、自己研鑽の質も上がります。キャリアプランを考えるうえでは、これまでの働き方を振り返り、これから経験したいことや、深めていきたい知識などを整理してみましょう。

    かかりつけ薬剤師としての新たな機能の整備とそれに伴う責任を抱えていく

    医療DX推進体制設備加算が新設された点からも、ICTを活用した薬剤管理をさらに推進していく必要性が伺えます。また、在宅医療に関する加算の新設を踏まえれば、薬剤師業務にあっては、より地域に寄り添った高度な在宅医療を展開することが期待されています。

    ICTの活用によって個人情報の暗号データ化や、指紋認証の導入によるなりすまし防止など、算定要件のクリアだけでなく、患者さまの情報を守ることも可能です。

    地域の需要に答えていくためにも、かかりつけ薬剤師としての新たな機能の整備と、これまで以上の責任を抱えていく必要があるでしょう。

    2024年度診療報酬改定を理解し将来的に求められる薬剤師の姿を知っておこう

    本記事では2024年度診療報酬改定の答申をもとに、改定の背景や目的、薬剤師として知っておきたいポイント、そして2024年度診療報酬改定を踏まえた薬剤師業界の展望について紹介しました。

    診療報酬の定期的な改定を通じて、医療業界の動向やこれから求められる医療者の姿が見えてきます。2024年度の診療報酬改定の重要なポイントを把握し、将来的に求められる薬剤師としてのあり方について理解しておくことが大切です。

    青島 周一さんの写真

      監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

    2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

    主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』

    記事掲載日: 2024/04/09

    あわせて読まれている記事

    認知症の新薬「レカネマブ」承認!効果効能、副作用についても解説

    認知症の新薬「レカネマブ」承認!効果効能、副作用についても解説

    業界研究
    2023.12.20

    日本のエーザイ株式会社と、米国のバイオジェン社が共同で開発した認知症の新薬である「レカネマブ」。以前から認知症の治療に有効性が期待できる薬として注目を浴びていました。2023年9月25日に厚生労働省に承認されました。「レカネマブ」は、認知症の中でも最も患者さまが多い、アルツハイマー病の原因物質に直接作用する効果に関心が集まる一方、薬価の面では社会保険料の負担が増える点も危惧されています。今回は「レカネマブ」について効果効能や副作用、また導入に向けた取り扱いのポイントも合わせて解説していきます。

    認知症の新薬「レカネマブ」承認!効果効能、副作用についても解説

    認知症の新薬「レカネマブ」承認!効果効能、副作用についても解説

    業界研究
    2023.12.20

    日本のエーザイ株式会社と、米国のバイオジェン社が共同で開発した認知症の新薬である「レカネマブ」。以前から認知症の治療に有効性が期待できる薬として注目を浴びていました。2023年9月25日に厚生労働省に承認されました。「レカネマブ」は、認知症の中でも最も患者さまが多い、アルツハイマー病の原因物質に直接作用する効果に関心が集まる一方、薬価の面では社会保険料の負担が増える点も危惧されています。今回は「レカネマブ」について効果効能や副作用、また導入に向けた取り扱いのポイントも合わせて解説していきます。