服薬治療の第一歩。「アドヒアランス不良」を向上させるために薬剤師ができること
患者さまに薬をきちんと飲んでもらうことは、薬剤師の使命ともいえます。
一方で、「どんなに一生懸命説明しても、患者さまが薬をきちんと飲んでくれない」「分かりやすく指導せんやお薬手帳を記入しているのに、いつも服薬漏れがある」と悩むこともしばしば。
薬物治療を行う上で患者さまと良好な関係を気づいていくためには、「アドヒアランスの向上」を目指すことが重要です。この記事では、【アドヒアランスの概要や改善方法】について、くわしく解説していきます。

アドヒアランス(adherence)の意味とは
「アドヒアランス(adherence)」は直訳すると、「固守」や「支持」という意味を持っています。医療現場では、「患者が治療方針の決定に賛同し、その決定に従って積極的に治療を受けること」という意味で用いられます。よく似た言葉に「コンプライアンス(compliance)」がありますが、こちらは「服薬遵守」のことをあらわしています。
以前はコンプライアンスが重要視されていましたが、最近ではアドヒアランスの方が注目されるようになりました。コンプライアンスは医療従事者から患者さまに対する一方的な指示であるのに対し、アドヒアランスは患者さま自身が治療の選択や決定に携わることが特徴です。
治療を受ける本人が積極的に参加し、服薬の意義を理解することで、高い治療効果が期待できます。患者さまは治療を受けるものではなく、担うものになりつつあるのです。
アドヒアランスの不良がもたらす結果とは

アドヒアランスがうまくいかなかった場合、どのような結果をもたらすのでしょうか。ここでは、代表的な3つの例をご紹介します。
・治療効果を正しく評価することができない
適切な医療を行うためには、患者さまの状態を正確に把握して、治療計画を立てることが重要です。患者さま自身が治療に積極的に参加して、服薬の意義を理解することが求められます。
医師は患者さまがきちんと薬を飲んでいることを前提に処方を行うので、アドヒアランスの不良によって服薬がきちんと行われていないと、治療効果を正しく評価することができません。ときには今の用量では不十分と考え、必要以上の薬を処方してしまうこともあります。
・副作用が増える
薬は、用法用量を守り正しく服用することで、期待された効果を発揮します。アドヒアランスの不良により間違った方法で服薬が行われると、思わぬ副作用が起こる可能性があります。薬によっては継続的に服用しないと効果があらわれないものや、安全域が狭く用量調節が難しい薬も多いので、注意が必要です。
また、副作用を経験することで薬物治療に対する不信感がつのり、さらにアドヒアランスが低下するという負のスパイラルをまねくこともあるため、アドヒアランスの向上は必要不可欠です。
・医療コストがかさむ
アドヒアランスの不良によって服薬がきちんと行われないと、期待された効果が発揮されません。疾患の多くは、発症初期に適切な治療を行うことができれば、予後が悪くなることは多くはありません。
しかし、服薬漏れがあると症状の悪化や再燃・再発を引き起こし、さらなる治療が必要となってしまうこともあります。例えば脳疾患や心疾患などを予防するための投薬の場合、重篤な症状を引き起こし、永久的に治療が必要となる場合もあります。患者さま本人がつらい思いをすることはもちろんのこと、同時に医療コストもかさんでしまいます。
アドヒアランス改善のために薬剤師ができること
アドヒアランスの重要性はご理解いただけたかと思いますが、すべての患者さまが自ら服薬管理をして、アドヒアランスを保つことは容易ではありません。
実際にアドヒアランスを改善するためには、どのような方法があるのでしょうか。ここでは薬剤師の立場から、患者さまに伝えるべきことはなにか、どんなことを聞き取るべきなのかなど、アドヒアランスの向上をはかるためにできることの具体例をご紹介します。
・服薬の必要性を正しく理解してもらう
アドヒアランスにおいて重要なのは、服薬の意義をきちんと理解し、納得してもらうことです。一方的な指示だけでは、患者さまの理解を得ることは難しいでしょう。「そもそもなぜ飲む必要があるのか」「飲まないことでどんなリスクがあるのか」をきちんと説明して、患者さま本人にも治療に積極的に参加してもらいましょう。
・服薬の問題点を見つけ出す
「なぜ薬を飲めていないのか」「何が服薬を妨げているのか」という問題点を掘り起こすことも、薬剤師の重要な役割です。アドヒアランスを低下させる原因を見きわめ、改善策を探りましょう。嚥下力に問題がある場合にはOD錠や散剤への剤形変更をしたり、飲み忘れがある場合には一包化やお薬カレンダーの使用を提案するなど、職能を生かして問題解決を目指しましょう。
・複雑な処方を避け、服薬の簡略化を目指す
服薬アドヒアランスの低下をもたらす要因の一つとして、服薬の難しさや煩わしさが挙げられます。薬は基本的には毎日飲まなくてはならず、服用回数が多いことや複雑で難しいことは、物理的・心理的にも負担となってしまいます。不要な薬剤を減らす、配合錠に置き換える、用法をそろえるなど、処方に変更の余地がある場合には、積極的に提案するようにしましょう。
・薬の管理を患者だけに任せず、周囲に協力してもらえる環境をつくる
アドヒアランスが低下している患者さまの特徴の一つとして、自分ひとりで薬の管理をしているということが挙げられます。たとえば、高齢の患者さまの服薬治療は日常生活において負担が大きく、周囲のサポートが必要不可欠です。患者さまが抱えている問題や悩みを家族で共有し、その解決策を一緒に考えましょう。患者さま本人だけでなく、家族にも服薬治療の意義を理解してもらうことが重要です。
・患者さまが本音で薬剤師と向き合えるよう、良好な関係を築く
アドヒアランスを高めるためには、患者さまと医療従事者との間に良好な関係性を築けているかが重要になってきます。時間をかけて話をよく聞き、くり返し丁寧に説明するなど、相手の立場に立ったコミュニケーションを心がけましょう。一方通行になるのではなく、対話によるコミュニケーションを意識して、患者さまがいつでも本音で薬剤師と向き合えるような、顔の見える関係を築いていくことが大切です。
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患者さまとコミュニケーションを取るための方法は、コチラの記事でも触れているので、参考にしてください。
【先輩薬剤師にアンケート!】患者さまや医師と上手にコミュニケーションをとる5つのコツ
今日から使える!新米薬剤師が知っておきたい「服薬指導」5つのポイント
「コンコーダンス」との違いも知っておこう
アドヒアランスやコンプライアンス以外にも、「コンコーダンス(concordance)」という考え方があります。直訳すると「調和」や「一致」という意味です。コンコーダンスが発祥した英国では、「患者との協力関係に基づく、薬の処方と使用のプロセス」として定義されています。
アドヒアランスやコンプライアンスはいずれも「治療法に患者がどれほど従っているかをあらわす概念」であるのに対して、コンコーダンスは「医療従事者と患者のパートナーシップを基盤として、両者の考えを尊重しあうこと」に主眼を置いており、「患者の主体性」を認めていることが特徴です。
英国以外ではアドヒアランスが広く用いられていますが、コンコーダンスもまた、重要な考え方の一つです。

服用の意義をしっかりと伝え、アドヒアランス向上を目指す
どれほど優れた薬であっても、正しく飲まなくてはその効果は発揮されません。患者さまが薬をきちんと飲んでくれないことに悩むときは、まずアドヒアランスの改善を目指していきましょう。服用の方法をただ伝えるのではなく、服薬の意義を伝えることが重要です。
高齢化社会が到来し、薬物治療もより複雑化している現代では、薬剤師の役割はますます大きくなりつつあります。この記事を参考にして、薬物治療をより良いものにしていきましょう。
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