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  • 公開日:2023.12.20

認知症の新薬「レカネマブ」承認!効果効能、副作用についても解説

認知症の新薬「レカネマブ」承認!効果効能、副作用についても解説

日本のエーザイ株式会社と、米国のバイオジェン社が共同で開発した認知症の新薬である「レカネマブ」。以前から認知症の治療に有効性が期待できる薬として注目を浴びていましたが、2023年9月25日に厚生労働省に承認されました。

「レカネマブ」は、認知症の中でも最も患者さまが多い、アルツハイマー病の原因物質に直接作用する効果に関心が集まる一方、薬価の面では社会保険料の負担が増える点も危惧されています。

今回は「レカネマブ」について効果効能や副作用、また導入に向けた取り扱いのポイントも合わせて解説していきます。

認知症の新薬「レカネマブ」とは

まず、認知症の新薬「レカネマブ」の役割やその特性などを解説します。

レカネマブの役割と効果

レカネマブ(商品名:レケンビ®点滴静注)は、下記の効能・効果で厚生労働省の承認を得ている薬です。

認知症の中でもアルツハイマー病の進行抑制を期待できる効果があるとされる薬です。

アルツハイマー病の要因とも言われるアミロイドベータ(Aβ)を、選択的に除去してアルツハイマー病の進行を防ぐと考えられています。

レカネマブは、早期のアルツハイマー病患者に対する認知機能や日常生活機能の低下を抑える効果が報告されており、アミロイドβを治療標的とした承認薬としては、世界で初めての唯一の薬です。

認知症治療とレカネマブの問題

レカネマブは、アルツハイマー病の治療薬として期待が高まっていますが、保険適用になることで社会保険料の負担が増加する点について危惧されています。

2023年7月に承認された米国では、1人あたり26,500ドル/年の価格とされており、これは日本円では年間約400万円に相当する価格です。(1ドル=151.36円/2023年11月10日時点)

日本でも治療に用いられる前に、1,500億円を超える市場規模が想定されており、社会保険料の負担増加への影響が懸念されています。今後、使用成績や有害事象の頻度、また社会保険料の負担の面などから考えて、適正使用について必要な措置が検討されていくでしょう。

レカネマブの効果・効能

次にレカネマブの効果や効能、作用機序などをもう少し詳しく解説していきます。

下記の2つに分けてみていきましょう。

  • レカネマブの作用機序と適応者
  • 臨床試験での効果とその実績
  • それぞれ詳しくみていきます。

    レカネマブの作用機序と適応患者

    レカネマブは、アルツハイマー病の初期段階に投与することで、病状の進行を抑える効果が期待できると考えられています。

    レカネマブの作用機序は、神経毒性があると考えられているアミロイドベータ(Aβ)に対して選択的に結合して脳内から除去します。

    アミロイドベータは脳の神経細胞を破壊すると考えられており、一度破壊されてしまった神経細胞は元には戻りません。したがって、アミロイドベータが脳の神経細胞を破壊する前に、レカネマブによって除去する必要があります

    そのため、軽度認知障害や早期のアルツハイマー病患者に対して、アミロイドベータの蓄積状況を調べたうえで、早期にレカネマブの投与を開始することで、最も有効性が得られると考えられているのです。

    臨床試験での効果とその実績

    実際に、アミロイドベータが脳に蓄積している軽度認知障害や早期アルツハイマー病の方を対象とした臨床試験が行われています。

    この試験では、北米、欧州、アジアの235施設から、早期アルツハイマー病(アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度認知症)患者1,795人が対象となりました。被験者は、レカネマブ投与群(898人)、もしくはプラセボ投与群(897人)にランダムに振り分けられ、認知症の症状の度合い(臨床認知症評価尺度)が比較されています。なお、症状の度合いは0〜18点で評価され、点数が高いほど重症と判断されます。

    治療の開始から18か月後の症状の度合いは、レカネマブ投与群で1.21点増加し、プラセボ投与群で1.66点増加していました。その差は-0.45点(27%の臨床症状の悪化抑制)で、統計学的にも意味のある水準でレカネマブの病状進行に対する抑制効果が示されています。また、脳内のアミロイドベータの量も、3か月時点で減少が確認されました。

    このようにレカネマブの臨床試験では、症状の悪化を抑制することやアミロイドベータの減少が確認できています。一方で、有害事象も確認されています。この点は忘れずに知っておきたい点です。有害事象については後の副作用の項目で解説します。

    レカネマブの承認の背景

    レカネマブの承認の背景

    副作用について解説する前に、レカネマブの承認の背景について下記に分けて解説していきます。

    承認への経緯と関わった研究

    レカネマブの承認については、前述の大規模グローバル臨床第Ⅲ相試験の「Clarity AD試験」のデータに基づいたものです。

    前述のように症状の悪化を27%抑制したという結果だけでなく、副次評価の項目である「介護者が評価する日常生活動作の低下」についても、プラセボ投与群と比較して37%抑制効果が確認されました。

    副次評価項目の結果は、あくまでも仮説的なデータであり、有意な治療効果の証拠とはなりにくいですが、自立して生活する能力は地域活動への参加や衣食住にとって重要です。日常生活動作の悪化抑制の可能性も示されたため、アルツハイマー病の治療薬として承認されたのでしょう。

    他の認知症治療薬との比較

    認知症治療薬として特効薬のようなものはありませんでしたが、治療に用いられている薬は、レカネマブの承認前にもいくつかありました。

    認知症を要因とする易怒性や落ち込みには、抗精神病薬や抗うつ薬が用いられており、他にも下記のような薬もアルツハイマー病の治療には用いられています。

    これらは、コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬(メマリー)に分類される薬剤であり、直接的な進行を抑える薬ではありませんでした。

  • アリセプト
  • レミニール
  • イクセロンパッチ
  • メマリー など
  • レカネマブがこれらの薬と異なる点は、直接的にアミロイドベータの減少に関わっているという点です。アミロイドベータの増加をアルツハイマー病の進行と考えるのであれば、レカネマブはアルツハイマー病の進行を抑制する世界で唯一の薬かもしれません。

    レカネマブの副作用と注意点

    ここからは臨床試験でも確認された、レカネマブの副作用・有害事象と注意点を解説していきます。

    主な副作用とその発生率

    レカネマブの臨床実験の中で10%以上の方にみられた有害事象には、下記のものがありました。

    有害事象・危惧される副作用 臨床実験におけるレカネマブ投与群の割合
    静脈注入に伴う反応 26.4%
    ARIA※による脳微小出血、大出血、脳表ヘモジデリン沈着 17.3%
    ARIA-E(浮腫/浸出) 12.6%
    頭痛 11.1%
    転倒 10.4%

    ※ARIA=アミロイド関連画像異常

    データ引用元:(大規模グローバル臨床第Ⅲ相試験 Clarity AD試験のデータより|エーザイ株式会社)

    レカネマブは2週間に1回、静脈内投与にて投与するのが一般的な用法ですが、最も多い副作用である、「静脈注入に伴う反応」の75%は初回投与時に発生しています。また、アミロイド関連画像異常の発生頻度も高い割合となっています。

    アミロイド関連画像異常は、頭痛やめまいなどの症状が出ることもありますが、自覚症状がないことも少なくありません。ただし、画像所見では、脳浮腫や微小な出血が認められます。

    なお、臨床試験ではレカネマブやアミロイド関連画像異常(ARIA)を要因とする死亡事例はみられていません。

    副作用に対する対処法や予防策

    前述のように副作用として注意すべきはアミロイド関連画像異常ですが、副作用への対処法や予防策としては併用薬を確認することが大切といえるかもしれません。

    臨床試験で死亡した事例では、レカネマブとの因果関係は不明であるものの、抗凝固薬などの出血リスクを有していた患者さまでした。

    レカネマブの取り扱いのポイント

    レカネマブの取り扱いのポイント

    最後にレカネマブを取り扱う際のポイントを解説していきます。レカネマブの取り扱いには下記の点に注意しましょう。

  • 対象者が限定的であると理解しておく
  • 使用者の出血傾向や内服状況について確認
  • APOE遺伝子検査を行う必要性もある
  • アミロイド関連画像異常のリスクに配慮しておく
  • それぞれ詳しくみていきます。

    対象者が限定的であると理解しておく

    作用機序など以前の段落でも解説したように、レカネマブは脳神経細胞が壊される前のアルツハイマー病や軽度認知障害の場合に効果が期待できるものです。

    認知症の特効薬として報道されたこともあり、有効性を期待している方も多いかもしれませんが、誰でも効果が得られるわけではないと理解して、患者さまへ説明する必要があるでしょう。

    使用者の出血傾向や内服状況について確認

    アミロイド関連画像異常に配慮するためにも、使用する患者さまの出血リスクや内服薬の状況を確認しましょう。

    物忘れなど、認知症の症状が出現しており、本人から確実な情報が取れなかったり、お薬手帳から確認が取れなかったりしても、ご家族や提携先の医療機関と確実な連携をとり、内服薬の情報を確認しましょう。

    APOE遺伝子検査を行う必要性もある

    投与の前にアミロイド関連画像異常の出現リスクを調べるために、APOE遺伝子検査をするべきとの指摘もあります。その場合、遺伝子型テストとアミロイド関連画像異常の出現リスクとの関連性や、テスト結果が何を意味するのかなど、患者さまやその家族に必ず理解を得る必要もあるでしょう。

    主治医から説明されていたとしても、薬剤師も知識を持ち、説明や質問に応えられるようにしましょう。

    アミロイド関連画像異常のリスクに配慮する

    アミロイド関連画像異常については、不安を抱えている患者さまもいるでしょう。

    そのためアミロイド関連画像異常や、抗凝固薬の飲み合わせによる出血リスクの可能性などに要配慮し、患者さまの抱える不安に応える必要があります。

    新薬「レカネマブ」の知見を深め服薬指導ができるようになろう

    本記事内ではレカネマブについての効能効果、作用機序、副作用や有害事象に加えて、保険適用になることでの社会保険料負担増加のリスクなどを紹介しました。

    レカネマブの取り扱いのポイントを参考に、患者さまが安心・安全に使用できるように知識を蓄えておきましょう。

    青島 周一さんの写真

      監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

    2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

    主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』

    記事掲載日: 2023/12/20

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