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  • 公開日:2022.03.08

冬から春にかけて流行する感染症とは?症状や治療薬、予防方法を解説

冬から春にかけて流行する感染症とは?症状や治療薬、予防方法を解説

冬から春にかけては、様々なウイルス感染症が流行しやすい時期です。インフルエンザウイルスやノロウイルスはその代表例でしょう。感染症が増えてくると、患者さまにウイルスの特徴を説明したり、正しい対策方法を教えたりする機会も増えてきます。

今回は、冬から流行し始める感染症の基本的な特徴や対策方法をみていきましょう。

冬に感染症が流行しやすい理由

冬に感染症が流行しやすい理由は、ウイルスの性質によるもの、人の免疫機能によるもの、日照時間の短さがもたらす影響、人の行動スタイルなど多岐にわたります。

ウイルスの多くは、湿度や気温が低いほど不活化されにくいことが知られています。加えて、気温が低くなると免疫機能が低下しやすくなり、ウイルス感染のリスクが高まるのです。

また、冬は夏に比べて日照時間が短くなります。太陽光に含まれている紫外線は、人の体内でビタミンDの産生を促しますが、日照時間の短い冬ではビタミンDが作られにくいといえるでしょう。これは免疫機能の低下にも影響している可能性があります。

さらに、気温が低い冬は屋内で過ごしがちになりますが、十分な換気がなされていない屋内では感染の危険性が高まります

冬から春に流行しやすい感染症の特徴と対策

冬から春に流行しやすい感染症の特徴と対策

冬から春にかけて流行しやすい感染症は、それぞれどのような特徴をもっているのでしょうか。代表的な4つの感染症について、感染経路や症状、治療方法などを詳しくみていきましょう。

インフルエンザ

インフルエンザウイルスを病原体とする感染症です。インフルエンザは感染力が高く、日本では毎年1千万人もの感染者が出ます。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大によりマスクや手洗いなどの対策が徹底されたことから、2020年以降の患者数は例年に比べ激減しています。

■おもな感染経路

飛沫感染:感染者のせきやくしゃみから出た飛沫を吸い込んだ場合など(とくに2メートル以内にいた場合は感染確率が高くなるといわれている)

接触感染:感染者の鼻水やつばが付着した手やつり革などを触り、その手で粘膜に触れた場合など

■おもな症状

38℃以上の発熱、咳、のどの痛み、頭痛、関節痛、倦怠感、鼻水、鼻づまりなど

■インフルエンザの治療薬

インフルエンザに罹患した場合は、抗インフルエンザウイルス薬を服用します。

オセルタミビルリン酸塩(商品名:タミフルなど)

ザナミビル水和物(商品名:リレンザ)

ペラミビル水和物(商品名:ラピアクタ)

ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(商品名:イナビル)

バロキサビル マルボキシル(商品名:ゾフルーザ)

発症から48時間以内に服用すると発熱期間は通常1~2日ほど短縮され、鼻やのどからのウイルス排出量も減少するといわれています。しかし、発症から48時間以降に使い始めた場合は十分な効果が期待できません。

なお、バロキサビル マルボキシルは12歳未満の小児への投与、免疫不全の患者さま、重症患者さまへの単独投与について積極的には推奨されていないため注意が必要です。

■対策

普段からしっかりと休養を取りバランスの良い食事を心がけるとともに、室内では加湿器などを利用して50%~60%ほどの湿度を維持するよう意識しましょう。

また、せきやくしゃみをしている人のそばに行かない(人ごみを避ける)、こまめな手洗いうがいなどが感染リスクを低くします。

加えてインフルエンザの予防接種は発症をおさえたり、感染しても重症化を予防したりする効果があるとされています。

▼参考サイトはコチラ
厚生労働省「インフルエンザQ&A」

ノロウイルス

手指や食品などを介して感染し、嘔吐や下痢、腹痛などの症状を起こします。感染後24~48時間ほどで発症し、その後1~2日ほどで症状が落ち着いてきます。

ノロウイルスは、感染性胃腸炎の原因となることで知られているウイルスです。感染力が強いため、集団食中毒などを起こしやすく、冬に発生しやすい感染症です。子どもや高齢者は重症化する場合があるため、とくに注意しましょう。

■おもな感染経路

食品からの感染:加熱処理が不十分なウイルスが含まれた食品を食べた場合など

接触感染:感染者の嘔吐物や便に触れた手などを介して感染する場合や感染者が調理した食品を食べた場合など

飛沫感染:家庭内での飛沫による感染など

■おもな症状

嘔吐、下痢、腹痛、発熱など

■ノロウイルスの治療薬

ワクチンや抗ウイルス薬がないため、対症療法が中心です。脱水症状や体力の低下を防ぐため、水分や栄養補給は意識的に行う必要があります。脱水症状を起こしている場合は、イオン飲料水や点滴で水分を補います。

なお、下痢止めを使うとウイルスの排出が阻害され、症状の回復が遅れる可能性があるため使用は避けましょう。

■予防方法

まずはこまめな手洗いが欠かせません。また、ノロウイルス感染者の嘔吐物や便には大量のウイルスが含まれており、清掃などを行う際には細心の注意を払う必要があります。

食品からの感染を防ぐためには、食材にしっかりと火を通すことや、調理器具を消毒し清潔に保つことなどが有効な対策といえます。

ロタウイルス

ロタウイルスは急性胃腸炎を引き起こすウイルスで、0~6歳ごろにかかりやすいといわれています。2~4日間の潜伏期間のあと、激しい下痢や嘔吐が起こります。5歳までにほとんどの子どもが感染し、その後も感染を繰り返します。

何度も感染するうちに症状は軽くなり、大人は症状が出ないことが一般的ですが、乳幼児かつ初めての感染の際には激しい症状が出て、命にかかわる場合もあるため注意が必要です。

■おもな感染経路

経口感染:10~100個ほどのロタウイルスが口から入った場合など

接触感染:ウイルスが含まれた感染者の便を処置した場合など

■おもな症状

水下痢、吐き気、嘔吐、発熱、腹痛など

■ロタウイルスの治療薬

ロタウイルスに効果的な抗ウイルス薬はありません。脱水症状や体力の消耗を防ぐための水分や栄養の補給など、対症療法が中心となります。

脱水症状を起こした場合は点滴などの治療が必要です。なお、下痢止めはウイルスの排出を阻害し、症状回復を遅らせる可能性があるため使用を避けましょう。

■対策

令和2年10月1日から、ロタウイルスの予防接種が定期接種となりました。接種を受けることで、胃腸炎の重症化を80~90%予防することができます

また乳幼児のオムツを交換する際はゴム手袋を使い、ポリ袋に入れて捨てるなど、直接手で触らないよう注意しましょう。アルコールや消毒液はロタウイルスへの効果は弱いといわれているため、対応後は石鹸でしっかりと手を洗います。

溶連菌感染症

溶血性連鎖球菌によって起こる感染症で、高熱やのどの痛みなどの症状が出ます。舌がいちごのようにぼつぼつした状態になったり、体や手足に発疹が出たりすることも特徴です。3~14歳の子どもによくみられますが、大人にも感染する可能性があります。

正しい治療を行わないとリウマチ熱や急性糸球体腎炎などの合併症を起こすことがあるため注意が必要です。また、虫刺されあとや引っかき傷など、皮膚の小さな傷に溶連菌が付着して感染すると、伝染性膿痂疹(とびひ)と呼ばれる皮膚感染症をおこすこともあります。

■おもな感染経路

飛沫感染:感染者のせきやくしゃみから出た飛沫を吸い込んだ場合など

接触感染:感染者の皮膚が傷口に接触した場合など

■おもな症状

上気道に感染した場合(咽頭炎):発熱、のどの痛み、発疹、いちご舌(舌に小さな発疹があらわれる)、リンパ節の腫れなど

皮膚に感染した場合(伝染性膿痂疹):皮膚に多数の膿疱ができ、それが破れると、ただれた状態となる。

■溶連菌感染症の治療薬

ペニシリン系やセフェム系など、溶連菌に有効な抗生剤を使用します。そのほか、解熱鎮痛薬やトローチなどを使って症状を抑えるのも有効です。

市販薬にも解熱鎮痛薬やトローチはありますが、自己判断での服用は勧められません。溶連菌感染症は合併症のリスクがあるため、基本的には医療機関を受診して治療します。

■対策

まずはこまめな手洗いが大切です。伝染性膿痂疹の予防には皮膚を清潔に保つことも重要です。不衛生な手で傷口を触ったり、虫刺され部位をひっかいたりしないよう注意しましょう。

感染症が流行する時期に薬剤師ができること

感染症が流行する時期に薬剤師ができること

感染症が流行し始める時期は、薬剤師が正しい感染対策をすることはもちろん、患者さまへの適切な情報提供が大切です。どの感染症がどういった感染経路でうつるのかを把握し、二次感染が起こらないように呼びかけます。

ノロウイルスやロタウイルスは、吐瀉物や排泄物が感染源となりやすいです。清掃する場合は必ず手袋を着用し、手で直接触れないようにします。手洗いは石鹸を使って少なくとも15秒以上は流水ですすぐようにしてください。指先や親指の付け根は洗い残しが多いため、とくに気をつけて洗うように指導してください。

また、ワクチンがある感染症については接種を呼びかけ、接種によってどのようなメリットが期待できるのかを説明することも大切です。

普段からの意識で感染症を予防しましょう

気温や湿度が低くなる冬から春にかけては、様々な感染症が流行します。それぞれの治療薬について知っておくのはもちろん、予防のために正しい手洗いや消毒方法を患者さまへ伝えたり、予防接種の有効性を説明できるようにしたりしておくことも大切です。

普段からの意識でなるべく感染を予防し、感染してしまった場合は速やかに正しい治療を行えるよう患者さまをサポートしていきましょう。

青島 周一さんの写真

監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

2004 年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012 年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

おもな著書に『OTC医薬品 どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医療情報を見る、医療情報から見る エビデンスと向き合うための10のスキル(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』

記事掲載日: 2022/03/08

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