業界動向
  • 公開日:2022.01.26

ブラウンバッグ運動とは? 薬局で取り組む残薬対策を紹介

ブラウンバッグ運動とは? 薬局で取り組む残薬対策を紹介

厚生労働省によると、薬の飲み忘れなどによる残薬は、年間で約500億円分にものぼるといわれています。アメリカでは1990年代に残薬問題を解決すべく「ブラウンバッグ運動」が始まりました。それ以来、ブラウンバッグ運動は日本でも推進されていますが現状では十分に周知されているとはいえません。

この記事では、ブラウンバッグ運動の内容やメリットについて解説します。

ブラウンバッグ運動(節薬バッグ運動)とは?

ブラウンバッグ運動(節薬バッグ運動)とは?

ブラウンバッグ運動とは、患者さまに残薬や日常的に服用している薬を薬局へ持って来てもらうことで、残薬を減らしたり服薬アドヒアランスを改善したりしようとする取り組みです。1990年代のアメリカで行われた、茶色い袋に薬を入れて薬局に持って来てもらうために呼びかけた活動からその名がつけられました。この取り組みにより、医療費削減や誤薬による患者さまへの薬物有害事象の予防を目指しています。

薬局で準備した専用の袋(ブラウンバッグ)を患者さまに渡し、自宅にある薬をすべて袋に入れ、後日薬局に持って来てもらいます。その際、医療用医薬品、OTC医薬品、サプリメントなどの種類は問いません。

薬剤師はブラウンバッグの中身を確認し期限切れの薬は廃棄しますが、まだ使用できる医療用医薬品であれば残薬処理のため医師へ疑義照会し、次回処方する際に処方日数を調整するよう提案します。

さらに、残薬の理由を明らかにしたうえで、その対策を処方医に疑義照会し提案します。例えば飲み忘れの原因が薬の種類が多いことや、複雑な用法用量などの場合は一包化を、また、剤型が飲みにくいことが原因の場合は剤型変更を提案します。このように、残薬の原因を明らかにし、患者さまが安心して薬物治療ができるように薬剤師が介入することは極めて重要です

取り組みのメリット

ブラウンバッグ運動には、患者さま、薬局、国、それぞれにメリットがあります。次では、取り組みのメリットを具体的に見てみましょう。

医療費削減

残薬はおもに飲み忘れにより発生しますが、患者さまが勝手に服用量を調節したり、服用を中止したりするケースも少なくありません。ブラウンバッグ運動により薬剤師が患者さまの残薬を解決することは結果的に医療費削減につながります。

福岡県で試験的に行われたブラウンバッグ活動の効果をご紹介します。2012年に31の薬局を対象としたこの取り組みは、外来患者さまに節約バッグ運動の意義を説明。同意を得た方にブラウンバッグをお渡ししたあと、自宅などにある残薬をバッグに入れて薬局に持参してもらいました。その後、薬剤師による医師への疑義照会を介して、残薬調節や服薬整理を行ったものとなります。

3ヶ月間のデータの結果では、702,694円(処方箋1枚あたり2,788円)の医療費の削減ができたとの結果が報告されています。この数字を全国レベルに広げると年間で約3,300億円の医療費削減効果があると示唆されています。

服薬アドヒアランスの向上

服薬アドヒアランスとは、患者さまが自身の病気を受け入れ治療方針の決定に賛同し、その決定に従って積極的に薬物治療を受けることです。厚生労働省の資料でも、ブラウンバッグ運動が患者さまの服薬状況の細かな把握につながり、服薬アドヒアランス向上に寄与したと示されています。

飲み合わせの確認

患者さまのなかには、処方薬とサプリメント、OTC医薬品などを併用している方も少なくありません。ブラウンバッグ運動では、服用しているものはすべて持ってきてもらうため、残薬調整と同時に処方薬以外の薬との飲み合わせ(薬物相互作用)の確認もできます。

また、処方薬以外の薬の有効性や安全性(副作用など)も確認できるため、結果的に適切な薬物治療の提供につながります。

ブラウンバッグ運動によって薬局が算定できる加算

ブラウンバッグ運動によって薬局が算定できる加算

ブラウンバッグ運動を通して、患者さまの残薬整理などを行うと、薬局側も加算できる場合もあります。

重複投薬・相互作用防止加算

患者さまが、処方箋受付時に、残薬を持ってこられた場合、処方医に照会・確認をとって残薬調節を行い、算定要件を満たせば、「重複投与・相互作用等防止加算(残薬調整に係るものの場合:30点)」を算定することができます。

外来服薬支援料

あらかじめ、患者さまに薬局への服薬中の薬剤を持参する動機づけのためにブラウンバッグを提供するなどして、ブラウンバッグ運動を周知させておき、後日、患者さまの求めに応じて一包化やお薬カレンダーなどによる服薬整理、服薬管理を行った場合で、その結果を保険医療機関に情報提供した場合には「外来服薬支援料(185点/月1回限り)」を算定することができます。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省資料「調剤(その1)」

ブラウンバッグ運動を浸透させるためのポイント

ブラウンバッグ運動を浸透させるためのポイント

ブラウンバッグ運動の取り組みにより薬局にお薬を持ってきてもらうためには、ただ薬局の待合室に袋を置いているだけでは、多くの方に周知されることはないでしょう。患者さまへの服薬指導時にも、お薬を持ってきてもらえるようにブラウンバッグ運動の意義、メリット(有用性)などを説明することが必要です。

そのためにも、まずはブラウンバッグ運動による残薬調整によって患者さまの薬代を節約できることを伝えましょう

また、残薬の原因を突き止めて解決できること、さらには処方薬以外の市販薬やサプリメントの相互作用、有効性、安全性も確認できるため、薬に関する様々な問題が解消されて、適切な薬物治療につながることを伝えてみるのも良いでしょう。

ブラウンバッグは薬を入れるレジ袋の代わりにも使えるため、まずは患者さまが気軽な気持ちで持ち帰えるように促すことが大切です。

ブラウンバッグ運動は医療費削減や適切な薬物治療につながる

年々増加の一途をたどる日本の医療費ですが、ブラウンバッグ運動によって大幅な削減が期待されています。

また、医療費削減だけでなく、服薬管理を行ううえでも重要な役割を果たし、適切な薬物治療を提供することにつながるでしょう。解説したポイントを参考に、ぜひブラウンバッグ運動に取り組んでみてはいかがでしょうか。

嶋本豊さんの写真

監修者:嶋本豊(しまもと・ゆたか)さん

有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)管理薬剤師。おもに臨床薬物相互作用を専門とし、書籍(服薬指導のツボ 虎の巻、薬の相互作用としくみ[日経BP社])や連載雑誌(日経DIプレミアム)、「調剤と報酬」などの共同及び単独執筆に加え、学会シンポジウム発表など幅広く活動している

記事掲載日: 2022/01/26

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