業界動向
  • 公開日:2020.07.10

「薬薬連携」の重要性。これからの薬剤師に求められるもの

「薬薬連携」の重要性。これからの薬剤師に求められるもの

より安心で継続した薬物療法を患者さまに提供するためには、薬局薬剤師と病院薬剤師による「薬薬連携」が欠かせません。入退院や他施設受診などの場面において、薬局薬剤師と病院薬剤師が連携することで互いの職能を発揮します。

この記事では、【薬薬連携の概要/薬薬連携の重要性/取り組みの内容/現状の課題/連携する上での注意点】などについて紹介します。

「薬薬連携」とは?

「薬薬連携」とは、薬局薬剤師と病院薬剤師が情報を共有し、入院・退院をしてからも充実した医療が受けられるようサポートをする体制のことです。患者さまの入院時や退院時には服用薬の内容が変化しやすいため、適切な治療が行えるように、薬剤師同士の連携が求められています。

共有する情報の具体例としては、入院前に服用していた薬剤の種類や用量、既往歴、副作用歴、アレルギー歴、入院中に追加や変更となった薬剤、アドヒアランスの情報、使用している一般用医薬品・健康食品などがあります。

▼参考資料はコチラ>薬薬連携の手引き
▼参考資料はコチラ>薬薬連携について

「薬薬連携」の取り組み

薬剤師のイメージ

薬局薬剤師と病院薬剤師は、どのようにして連携を図るべきなのでしょうか。具体的な情報交換の手法と、過去にあった事例を紹介します。

「お薬手帳」と「施設間情報連絡書」

「薬薬連携」の情報伝達ツールはさまざまですが、主に活用されているのは「お薬手帳」と「施設間情報連絡書」です。お薬手帳には、それぞれの医療機関ごとの処方や検査値などが時系列で記録されており、その簡便性から多くの患者さまに利用されています。ただし、お薬手帳は紙面が小さいため、伝達する情報が多い場合には、「施設間情報連絡書」を用いることもあります。患者さまの同意を得て、次に受診する医療機関の関係者に伝えたい内容を記載します。

地域勉強会

「薬薬連携」の取り組みの一つとして、「地域勉強会」を通して薬局薬剤師と病院薬剤師が連携を行うケースもみられます横浜市の薬剤師会と聖マリアンナ医科大学の例では、喘息治療に用いられる吸入デバイスの勉強会やロールプレイを行い、吸入指導の質を高め、患者さまのアドヒアランスの向上を図ることに成功しています。同時に、普段顔の見えづらい薬局薬剤師と医師の関係性を築くことも期待されています。

参考文献:「地域における医療連携-理想的な薬薬連携とは」
医療法人財団明理会 東戸塚記念病院薬剤科課長 宮崎美子

退院時地域連携(退院時共同指導)

「退院時共同指導」を活用した「薬薬連携」を行うことで、薬局薬剤師が直接病院薬剤師へ問い合わせをすることが容易になりました。これにより、在宅での問題が早期解決に結びついた事例も少なくありません。平成30年度診療報酬改定により、薬剤師が共同指導する場合においても、指導料の評価対象となりました。退院時共同指導の体制が整った薬局はまだ少ないのが現状ですが、これから先の「薬薬連携」のあり方の一つとして注目されています。

院外処方箋対応

多くの病院では、外来通院をする患者さまに対して院外処方箋が発行されています。院外処方箋を介した「薬薬連携」に取り組む病院も増えてきており、病院薬剤師が処方箋の基本情報を確認し、疑義が生じた場合には医師に疑義照会を行う場合もあるでしょう。さらに、薬局薬剤師からの疑義照会も、同じ病院薬剤師が担当することにより、医療安全に貢献しつつ患者さまの待ち時間の削減に成功しています。

▼参考資料はコチラ>退院時共同指導取り組み事例集

「薬薬連携」の現状と課題

薬局薬剤師と病院薬剤師が「薬薬連携」を通して地域医療に貢献していくためには、さまざまな課題があります。そのうちのひとつとして、薬局薬剤師と病院薬剤師のいずれか、または双方におけるマンパワーの不足があります。

薬局薬剤師においては、かかりつけ業務や在宅医療への注力。病院薬剤師においては、病棟業務への注力が求められています。そのため、薬局や病院の人的事情をふまえると「薬薬連携」の必要性を理解していながらも取り組むことは難しいのが現状です。

今後はICT(Information and Communication Technology/情報通信技術)やAIの活用がさらに進むことで、業務効率化による時間の捻出が期待されています。

また、個人情報の取り扱いにおける課題もあります。「薬薬連携」によって共有される情報は、服用歴や服薬指導の内容などの薬剤に特化したものだけではありません。たとえば、既往歴やアレルギー歴、各種検査値、年齢、住所、介助者の情報などの個人情報も含まれます。患者さまのプライバシーを脅かすことのないよう、適切に情報を管理していく仕組みや、取り扱いを行う医療従事者のリテラシーの向上が必要不可欠です。そのほかにも、地域や施設によって「薬薬連携」の取り組みにばらつきがあることや、情報共有の重要性がほかの医療従事者や患者さまに理解されていないことも課題として挙げられます。

▼参考資料はコチラ>日本における薬薬連携の現状と課題

「薬薬連携」で求められる薬剤師の役割

薬剤師のイメージ

「薬薬連携」がもっとも重要とされるのは、患者さまが入退院をするとき。その際、持参薬でお薬の内容を確認するなど、患者さまからの情報を頼りにすることも一つの方法としてあるでしょう。しかし、こうした確認方法は必ずしも情報が正確であるとはいえず、薬の専門家である薬剤師からの情報提供がとても大切です。

患者さまに安心安全な療養をしていただくためには、薬局薬剤師と病院薬剤師による円滑な「薬薬連携」が行えるかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。通院・入院・在宅のどの場面でも切れ目ない薬物療法を提供できるように、医薬品の専門家として果たすべき機能や役割をしっかりと理解し、迅速な対応・コミュニケーションの確立・確実な記録を心がけましょう。

まとめ

この記事では「薬薬連携」の概要や必要とされている理由、取り組みの内容、現状の課題、連携するうえでの注意点について紹介しました。

とくに高齢者の薬物療法は、通院・入院・在宅と、様々なステージへ移り変わっていきます。しかし、入院環境と在宅環境には大きなギャップがあることも多く、制約を受けることも珍しくありません。

これらを解決して、患者さまが安定した薬物療法を受けられるようにしていくために「薬薬連携」が求められているのです。

ファルマラボ編集部

「業界ニュース」「薬剤師QUIZ」 「全国の薬局紹介」 「転職成功のノウハウ」「薬剤師あるあるマンガ」「管理栄養士監修レシピ」など多様な情報を発信することで、薬剤師・薬学生を応援しております。ぜひ、定期的にチェックして、情報収集にお役立てください。

記事掲載日: 2020/07/10

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