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  • 公開日:2021.09.06
  • 更新日:2021-09-16

無菌調剤室はなぜ必要?共同利用の方法やメリット・デメリットも解説

無菌調剤室はなぜ必要?共同利用の方法やメリット・デメリットも解説

地域連携薬局では、無菌調剤室が必要な基準として定められています。そのためこれから導入や共同利用を検討している薬局も多く、そこに勤務する薬剤師としても無菌調剤室について理解しておくことは重要でしょう。

この記事では無菌調剤室について要点をまとめながら、共同利用の方法やメリット、デメリットなどについて解説します。

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無菌調剤とは?

無菌調剤とは?

無菌調剤とは無菌環境の整った無菌調剤室で、おもに自宅療養する患者さまの使用する輸液や注射薬を調剤することです。なお、無菌であることが検証された製剤が「無菌製剤」と呼ばれます。

無菌調剤室の必要性

たとえば在宅中心静脈栄養(IVH)の無菌作業に、発熱物質を含むことは避けなくてはいけません。また、輸液や注射剤は投与後の異常が分かりにくく発生頻度も低いため、異常の発生を無菌調剤の工程で防止することが大切です。

そのうえで、薬剤師には高い品質管理およびリスク管理が求められます。こうした点から、細菌を含めた塵埃の少ない環境として、無菌調剤室の存在はとても重要です。

無菌製剤処理で算定される診療報酬点数

無菌製剤処理で算定される診療報酬点数

無菌室や安全キャビネット、クリーンベンチなどの無菌環境で、無菌化された器具を使って製剤処理を行うことを「無菌製剤処理」と呼びます。ここでは、無菌製剤処理によって算定できる点数「無菌製剤処理加算」と「無菌製剤処理料」について、それぞれ解説します。

無菌製剤処理加算

無菌製剤処理加算は「中心静脈栄養法用輸液」「抗悪性腫瘍剤」「麻薬」という3つの注射薬が対象です。以下の施設基準を満たすことで算定できます。

■施設基準

・地方厚生局長等に届け出ている保険薬局であること(同薬局の無菌調剤室を共同利用する場合は除く)
・2名以上の保険薬剤師が在籍していること(うち1名以上は常勤)
・無菌製剤処理を行うための無菌室やクリーンベンチ、安全キャビネットなどが備わっていること(無菌調剤室を共同利用する場合は除く)

■点数

中心静脈栄養法用輸液、抗悪性腫瘍剤、麻薬の無菌製剤処理を行った場合は、1日につき以下の点数が加算されます。

・中心静脈栄養法用輸液:69点(6歳未満は137点)
・悪性腫瘍剤:79点(6歳未満は147点)
・麻薬:69点(6歳未満は137点)

無菌製剤処理料

無菌製剤処理料は、無菌製剤処理加算より広い対象で診療報酬点数が加算されます。対象となる患者さまや施設基準は以下の通りです。

■対象となる患者さま①

悪性腫瘍に対して用いる薬剤で細胞毒性をもつものに関して、動脈注射、抗悪性腫瘍剤局所持続注入、肝動脈塞栓を伴う抗悪性腫瘍剤肝動脈内注入または点滴注射が行われる患者さまが対象です。

なお、「悪性腫瘍に対して用いる薬剤で細胞毒性をもつもの」とは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(平成14年法律第192号)第4条第5項第1号の規定に基づき厚生労働大臣が指定した 医薬品(平成16年厚生労働省告示第185号)のうち、悪性腫瘍に対して用いる注射剤をいいます。

上記の場合は、常勤の薬剤師が無菌製剤処理を行う薬剤を用いる患者さまごとに、投与経路、投与速度、投与間隔などの確認を行ったうえで無菌製剤処理を行わねばなりません。


■対象となる患者さま②

以下の(1)(2)のいずれかに該当する患者さまが対象です。

(1)
・動脈注射または点滴注射を行う入院患者さまのうち、白血病、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、重症複合型免疫不全症などの患者さま
・後天性免疫不全症候群の病原体に感染し、抗体の陽性反応がある患者さま
・無菌治療室管理加算もしくはHIV感染者療養環境特別加算を算定する患者さままたはこれらの患者さまと同等の状態にある患者さま

(2)
・中心静脈注射または植込型カテーテルによる中心静脈注射が行われる患者さま

■施設基準

無菌製剤処理料を算定するには、以下の施設基準を満たす必要があります。

・地方厚生局長等に届け出ている保険薬局であること(同薬局の無菌調剤室を共同利用する場合は除く)
・常勤の薬剤師が2名以上いること
・無菌製剤処理を行うために内法測定で5㎡以上の専用の部屋があること(平成26年3月31 日までに届出を行っている保険医療機関は、専用の部屋の増築や全面的な改築を行うまで内法規定を満たしているものとする)
・無菌製剤処理を行うための無菌室やクリーンベンチ、安全キャビネットなどが備わっていること

■点数

●無菌製剤処理料1(悪性腫瘍に対して用いる薬剤が注射される一部の患者さま)
イ.閉鎖式接続器具を使用した場合:180点
ロ.イ以外の場合:45点

●無菌製剤処理料2
1以外のもの: 40点


なお、施設基準を満たし地方厚生局長などに届け出た薬局で、対象の患者さまに下記の薬剤を使用する際に、必要があり無菌製剤処理を行った場合は、該当の患者さまにかかわる区分に従い、1日につき所定の点数が算定されます。

・皮内注射
・皮下注射
・筋肉内注射
・動脈注射
・抗悪性腫瘍剤局所持続注入
・肝動脈塞栓を伴う抗悪性腫瘍剤肝動脈内注入
・点滴注射
・中心静脈注射または植込型カテーテルによる中心静脈注射

無菌調剤室の共同利用とは?

無菌調剤室の共同利用とは?

2012年に厚生労働省が公布した「薬事法施行規則の一部を改正する省令」に伴い、無菌調剤室の共同利用が可能となりました。共同利用とは無菌調剤室のない薬局の薬剤師が、ほかの薬局が保有する無菌調剤室を利用して無菌製剤処理を行えるというものです

無菌調剤室の共同利用における要件および留意点

共同利用にあたっては無菌調剤室を提供する側と共同利用する側とで、必要事項の記載された契約書などを取り交わしておくことが求められます。契約書では以下のような内容の締結が必要です。

■提供側の協力を得て講じる必要のある指針策定や、無菌調剤室を利用する薬剤師に対する研修実施などについての具体的な内容

・無菌調剤室を利用した際に事故などが起きた際、速やかに報告するための体制 また無菌調剤室は、ほかの部屋と仕切られた空間であり、必要な器具や機材などが備わっていなければ認められません。さらに、無菌製剤処理を行う際の室内の空気清浄度はIS014644-1に規定するクラス7以上の状態を常時保つ必要があります。

無菌調剤室の共同利用における薬機法(旧:薬事法)の運用

■無菌調剤室提供薬局の管理者義務

無菌調剤室における無菌製剤処理を含めた処方箋にもとづく調剤の責任は、利用した薬局にあります。一方で、保健衛生上に支障をきたさないよう利用薬局の薬剤師を監督するのは無菌調剤室を提供する薬局管理者の義務です。また、併せて無菌製剤処理に必要な器具や機材なども管理しなくてはなりません。

■利用薬局の開設者が行う届出など

新しく薬局を開設して無菌調剤室を共同利用する場合、規定様式の「薬局の構造設備の概要」欄に記載します。また、開設を許可された段階の薬局が無菌調剤室の共同利用を行う場合や取りやめる場合、無菌調剤室提供薬局を変更する場合などは、規定様式の「変更内容」欄にその旨を記載しなくてはなりません

■薬局機能に関する情報の報告

無菌調剤室の共同利用によって無菌製剤処理の必要な医薬品を調剤できる場合は、無菌製剤処理にかかわる調剤の実施可否について 「可(〇〇薬局(無菌調剤室提供薬局の名称及び所在地)の無菌調剤室を共同利用)」とできます

■帳簿などの作成

無菌調剤室を提供する側の薬局開設者は、無菌調剤室の利用に関する帳簿を作成し、最終記載日から3年間保管しなければなりません

■調剤された薬剤の表示

販売や授与を目的として調剤した薬剤は、その容器や被包に利用薬局の名称と所在地の記載が必要です。ただし、無菌調剤室提供薬局の名称や所在地は省略して構いません。

■処方箋への記入と保管

無菌調剤室で無菌製剤処理を行った薬剤は、利用薬局と併せて提供薬局の名称と所在地も処方箋に記入が必要です。なお、処方箋は調剤済みとなった日から3年間保存しなくてはなりません。

■調剤録への記入

利用薬局の調剤録には無菌製剤処理を行った薬剤に関する事項だけでなく、その処方箋が調剤済みになるまでに行われた全事項の記載が求められます。ただし提供側の薬局は、無菌製剤処理を行った薬剤に関する事項だけを記載すれば問題ありません。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省薬事法施行規則の一部を改正する省令等について

無菌調剤室を共同利用するメリットとデメリット

無菌調剤室の設備環境を整えるには高額な費用が必要です。そのため共同利用によって薬剤師が自身の従事する薬局の環境に左右されず、無菌製剤処理を行える点は大きなメリットといえるでしょう

一方で、クリーンベンチや安全キャビネットなどは共同利用できないなどの制限があります。また施設基準を満たさない場合は、診療報酬点数は算定されません。これらの点はデメリットとしてあげられます。ただし事前に無菌調剤室を提供する薬局の名称や所在地について地方厚生薬局に届出を行えば算定可能であるため、しっかりと確認しておきましょう。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)」

無菌製剤のニーズはさらに高まる

無菌調剤室の概要や、無菌製剤処理による診療報酬点数、共同利用の方法などについて詳しく解説しました。無菌調剤室を設けるにはいくつかの基準があり、大きな費用も伴います。そのため、なかなか導入できないという薬局は少なくありません。

しかし2012年に厚生労働省が「薬事法施行規則の一部を改正する省令」を公布し、これによって無菌調剤室の共同利用が可能となりました。共同利用できれば無菌調剤室を持たない薬局の薬剤師も、無菌製剤処理を行うことが可能です。

在宅医療がすすむなか、無菌製剤のニーズは今後より高まることが予測されます。ここで取り上げた内容を参考に、無菌調剤室の導入や共同利用を検討してみてください。

ファルマラボ編集部

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記事掲載日: 2021/09/06

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