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  • 公開日:2023.09.22

メトホルミンで乳酸アシドーシスはなぜ起こる?リスク因子と服薬指導のポイントを解説

メトホルミンで乳酸アシドーシスはなぜ起こる?リスク因子と服薬指導のポイントを解説

メトホルミンは2型糖尿病の治療で第一選択薬として考慮されることが多い、処方頻度の高い薬剤です。

また、低血糖のリスクが低く、一般的に安全性の高い薬として知られています。しかし、ごく稀に乳酸アシドーシスと呼ばれる致死率の高い副作用が起こることもあります。

乳酸アシドーシスは体が脱水状態のときに発症しやすく、また腎臓や肝臓の機能が低下している患者さまで発症リスクが高まります。汗をかく頻度が多い夏場、肝機能や腎機能が衰えているご高齢の方では「乳酸アシドーシス」のについて、いつも以上に注意喚起を行う必要があるでしょう。

今回は、メトホルミンで乳酸アシドーシスが起こる機序や危険因子、服薬指導のポイントなどについて、くわしく解説します。

メトホルミンとは

メトホルミンは2型糖尿病の治療において使用頻度の高い治療薬であり、SU剤やチアゾリジン系薬と同等あるいはそれ以上の血糖降下作用を示します。

糖尿病治療の歴史の中でも使用実績が長く、基本的には多くの方が安全に服用している薬です。

ここでは、メトホルミンの作用機序や主な副作用について解説します。

作用機序

メトホルミンはビグアナイド系の糖尿病治療薬であり、インスリン分泌には関与せず、主に肝臓における糖新生を抑制することで血糖を下げます。

さらに、末梢組織におけるインスリン抵抗性の改善や、小腸における糖吸収の抑制といった作用も知られています。

副作用

メトホルミンの主な副作用は、下痢や腹痛、悪心、嘔吐などの胃腸症状です。

日常生活において支障をきたすほどの症状ではない場合は、時間の経過とともに身体が慣れて治まることが多いでしょう。

低血糖の副作用に関しては、メトホルミンにインスリン分泌を促す作用がないため、単剤の使用では起こりにくいとされています。

一方で、非常にまれな頻度ではありますが、乳酸アシドーシスの副作用も起こり得ることが広く知られています。

乳酸アシドーシスとは

乳酸アシドーシスとは

乳酸アシドーシスとは、さまざまな要因によって血中の乳酸値が上昇することで生じるアシドーシスのことをいいます。治療の緊急度が高く、非常に危険な状態です。

乳酸アシドーシスの症状

乳酸アシドーシスの初期症状には悪心、嘔吐、下痢などの胃腸症状や倦怠感、筋肉痛などがあり、進行すると過呼吸や脱水、低血圧、低体温、昏睡などの症状が見られます。

乳酸アシドーシスを発症した場合は、病態に応じて酸素投与や細胞外液補充、酸素供給などを行います。

しかし、一旦発症すると予後不良となり、致死率は50%と非常に高いことが知られています。

メトホルミンによって乳酸アシドーシスが起こる機序

メトホルミンの服用によって乳酸アシドーシスが引き起こされる原因は、メトホルミンが肝臓の糖新生を抑制する作用にあります。

通常であれば、体内の乳酸は肝臓の糖新生によって消費されますが、ビグアナイド系の薬を服用すると糖新生が抑制されます。

肝臓で乳酸が消費されなくなると、体内に過剰な乳酸が蓄積されることで乳酸アシドーシスが起こりやすくなるのです。

乳酸アシドーシスを引き起こすリスク因子

乳酸アシドーシスの危険因子には、以下のようなものがあげられます。

【乳酸アシドーシスの主な危険因子】

  • 腎機能や肝機能の低下
  • 造影剤の服用
  • 脱水
  • アルコールの過剰摂取
  • 高齢者
  • ここでは、それぞれのリスク因子と乳酸アシドーシスとの関係について解説します。

    腎機能・肝機能の低下

    メトホルミンは腎排泄型の薬であるため、腎機能が低下している方がメトホルミンを服用すると乳酸の血中濃度が上昇しやすくなります。

    そのため、腎機能障害のある患者さまの場合、eGFRが30mL/min/1.73m²未満(透析患者※腹膜透析を含む)の方は禁忌とされており、 eGFRが30mL/min/1.73m²以上45mL/min/1.73m²未満の患者さまの場合には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することが重要です。

    また、乳酸は肝臓で代謝されてエネルギーに変換されるため、肝機能が低下している方でも体内で乳酸が増え、血液が酸性に傾きやすくなります。

    よって、重度の肝機能障害がある方に対してメトホルミンの投与は禁忌です。

    造影剤の服用

    ヨード造影剤の使用により、一時的に腎機能が低下することがあります。

    腎排泄型が低下した状態で腎排泄であるメトホルミンを使用すると、血中の乳酸値が上昇してアシドーシスのリスクが高まるのです。

    そのため、ヨード造影剤の使用前にはメトホルミン投与を一時的に中止する必要があります(緊急の検査が必要な場合を除く)。

    ヨード造影剤を投与して48時間経ったあとでも、投与の再開は患者さまの状態に注意して行いましょう。

    脱水

    脱水状態で水分が不足すると体内の血液量が減るため、全身の血行が悪くなってしまいます。

    その結果、乳酸を代謝する肝臓をはじめとした内臓の働きが低下し、乳酸が体内にたまりやすくなります。

    利尿薬やSGLT2阻害などの利尿作用を有する薬との併用時には、とくに脱水に対する注意が必要です。

    夏場の屋外作業時やスポーツ時も脱水が起こりやすいので、メトホルミンを服用している方にはとくにこまめな水分補給を呼びかけましょう。

    過度のアルコール摂取

    アルコールを過剰摂取する習慣がある方は、肝臓での乳酸の代謝機能が低下し、乳酸アシドーシスを引き起こす可能性があります。

    さらに、アルコールは体内の脱水状態を誘発するため、適量にとどめることが重要です。

    水分補給をかかさず、過度なアルコール摂取は控えるようにしましょう。体調に変化が起きた場合は、早急に病院や医師に相談しましょう。

    高齢者

    高齢者では腎機能や肝機能が低下している場合が多いため、定期的に腎機能(eGFR)や肝機能を確認する必要があります。

    とくに75歳以上の高齢者では、メトホルミンの投与の適否について慎重に判断しましょう。

    尚、日本で行われたメトホルミンを服用している患者さまにおける乳酸アシドーシス153例の分析結果によると、約30%が75歳以上であったと報告されています。

    メトホルミンの服薬指導のポイント

    メトホルミンの服薬指導のポイント

    メトホルミンの服薬指導を行う際は、主に以下のポイントに注意しましょう。

  • 腎機能障害肝機能障害がある方が服用する際は、定期的に腎臓や肝臓の検査値を確認する
  • 気温が急激に上昇する夏は脱水状態になりやすいので、こまめな水分補給を呼びかける
  • 胃腸症状乳酸アシドーシスの症状が出ていないかを確認する
  • 患者さまが体調不良(シックデイ)の状態になっていないかを確認する
  • 腎機能や肝機能が衰えている高齢の患者さまには、服薬指導時に注意喚起することが大切です。

    患者さまに発熱や下痢、嘔吐、食事摂取不良などの体調不良が見られる際は、状況に応じて速やかに処方医へ相談しましょう。

    乳酸アシドーシスのリスクから患者さまを守ろう

    メトホルミンを服用している方が乳酸アシドーシスになりやすい理由は、メトホルミンが糖新生を抑制することで体内に乳酸がたまりやすいためです。

    ビグアナイド系の薬を服用中の患者さまにおいて乳酸アシドーシスの発症が報告された場合、その大半が投与禁忌や慎重投与の項目に当てはまっているといわれています。

    乳酸アシドーシスは致死率が高く、早急に治療の必要がある症状です。

    添付文書に記載されている警告や禁忌に記載されている項目の遵守を徹底し、患者さまを乳酸アシドーシスのリスクから守りましょう。

    青島 周一さんの写真

      監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

    2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

    主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』

    記事掲載日: 2023/09/22

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