業界動向
  • 公開日:2021.07.12

【薬剤師向け】第3のコロナ治療薬「バリシチニブ」(商品名:オルミエント)の効果や副作用などを徹底解説

【薬剤師向け】第3のコロナ治療薬「バリシチニブ」(商品名:オルミエント)の効果や副作用などを徹底解説

肺炎の治療薬として2021年4月23日に承認された「バリシチニブ(商品名:オルミエント®)」が第3のコロナ治療薬として話題になっています。

今回は、このバリシチニブについて、期待される効果や副作用などについて解説していきます。患者さまからの問合せが増えることも予想されるため、正しい知識を身に付け適切に対応できるよう準備しておきましょう。

日本国内で承認されている新型コロナウイルス感染症の治療薬

日本国内で承認されている新型コロナウイルス感染症の治療薬

現在、日本国内で承認されている新型コロナウイルスの治療薬には、抗ウイルス薬「レムデシビル」とステロイド「デキサメタゾン」があります。

レムデシビルは、エボラ出血熱の治療薬として開発された抗ウイルス薬です。新型コロナウイルスをはじめとした一本鎖RNAウイルスに抗ウイルス活性を示します。日本では2020年5月、厚生労働省が重症患者さまを対象として特例で承認しました。なお、2021年1月の添付文書改訂で、中等症の患者さまにも投与可能となっています。

合成副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)のひとつであるデキサメタゾンは、抗炎症作用、抗アレルギー作用、免疫抑制作用などを有しています。先発医薬品に日医工の「デカドロン®」があるほか、いくつかの後発医薬品も販売されました。新型コロナウイルス感染症の重症患者さまでは、肺障害および多臓器不全をもたらす全身性炎症反応の発現が確認されています

そして2021年4月23日、これらに続く治療薬としてJAK阻害薬「バリシチニブ」が国内で承認されました

JAK阻害薬とは?

JAK阻害薬とは?

バリシチニブはイーライリリー社の開発したJAK阻害薬です。JAKは「ヤヌスキナーゼ(Janus kinase)」の略称で、体内で炎症を引き起こす要因となる物質、サイトカインによる刺激を細胞内に伝える際に必要となる酵素です。

JAK阻害薬はその名のとおり、JAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害します。つまりサイトカインによる刺激が細胞内へ伝達されるのを抑え、炎症発生を防ぐというわけです。これまでサイトカインが深くかかわる関節リウマチやアトピー性皮膚炎などを適応症として承認されていました。

第3の新型コロナウイルス治療薬「バリシチニブ」

第3の新型コロナウイルス治療薬「バリシチニブ」

新型コロナウイルス治療薬として新たに日本で承認されたJAK阻害薬「バリシチニブ錠(オルミエント®錠)」について、その有効性や安全性、効能、投薬の注意点などの詳細を見ていきましょう。

国際共同第3相試験による有効性・安全性の確認

2020年5月~8月にかけて、国際共同第3相試験(ACTT-2試験)では、日本を含む8ヶ国67施設でプラセボ対照二重盲検比較試験を実施しました。対象はSARS-CoV-2(新型コロナウイルス感染症の原因ウイルス)による感染症で入院しており、以下いずれかに該当する中等症または重症の成人患者さまです。

  • 肺炎画像所見
  • SpO2(室内気)が94%以下
  • 酸素吸入が必要
  • 人工呼吸器管理あるいはECMOが必要
  • バリシチニブとレムデシビルによる併用療法を行ったグループとレムデシビルとプラセボを投与したグループの回復までの期間の中央値を比較したところ、前者の方が1日短く、15日目の臨床状態の改善のオッズは30%高い結果となりました。また、登録時に高流量酸素や非侵襲的人工呼吸を受けた患者さまでは、併用療法で回復までの期間の中央値が8日短くなりました。

    効能または効果

    バリシチニブ錠(オルミエント®錠4mg/2mg)の添付文書によれば、同薬剤は既存の治療で効果が不十分な新型コロナウイルス感染症による肺炎に効能または効果を発揮するとされています。ただし対象は、酸素吸入、人工呼吸管理またはECMOを要する患者さまです。そのほか、関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)やアトピー性皮膚炎(最適使用推進ガイドライン対象)などを適応症として認められています。

    服用方法

    新型コロナウイルス感染症による肺炎の場合、成人はレムデシビルとの併用において、バリシチニブとして4mgを1日1回経口投与します。総投与期間は14日間までです。

    投与に関する注意点

    ●透析患者さままたは末期腎不全患者さま、リンパ球数が200/mm3未満の患者さまには禁忌とされています。プロベネシドと併用する際にはバリシチニブ錠を2mg1日1回に減量するなど、用量に注意が必要です。

    ●中等度の腎機能障害(30≦eGFR<60)がある患者さまには、2mgを1日1回の経口投与とします。重度の腎機能障害(15≦eGFR<30)の場合は、2mgを48時間ごとに1回投与します(最大7回まで)。なお、eGFR<15の場合は投与できません。

    ●レムデシベル以外の薬剤との併用については、有効性および安全性が確立していません。

    ●投与時には、やむを得ない場合を除き、血栓塞栓予防を行うこととされています。

    今後の有効性や有害事象等の知見の集積にともない、新たな情報が得られる可能性があります。「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」などの最新の情報を確認のうえ、適切に取り扱ってください。

    投与に伴う副作用

    バリシチニブの投薬では、以下のような副作用があらわれる可能性があるとされています。異常があった際は投与を中止するなど適切な処置が必要です。

  • 感染症(帯状疱疹、肺炎、ニューモシスティス肺炎、敗血症、結核など、日和見感染症を含む重篤な感染症)
  • 消化管穿孔
  • 好中球減少、リンパ球減少、ヘモグロビン減少
  • 肝機能障害、黄疸(AST、ALTの上昇などを伴う肝機能障害、黄疸)
  • 間質性肺炎
  • 静脈血栓塞栓症(肺塞栓症および深部静脈血栓症)
  • これら以外にも悪心や腹痛、上気道感染、単純ヘルペス、尿路感染、頭痛、ざ瘡、発疹、顔面腫脹、蕁麻疹、LDLコレステロール上昇、ALT上昇、AST上昇、血小板増加症、トリグリセリド上昇、CK上昇、体重増加といった副作用の可能性もあります。添付文書をよく確認しておきましょう。

    今後の動向について細かくチェックを

    第3のコロナ治療薬と言われるJAK阻害薬「バリシチニブ」について詳しく解説しました。JAKおよびJAK阻害薬に関する働きなどとあわせ、同薬剤についても理解を深められたのではないでしょうか。

    バリシチニブには新型コロナウイルス感染症に対する効果や効能が確認されていますが、副作用には細心の注意をはらわなければなりません。また、投与量などは状況に応じた調整が求められるため、扱う際には十分な知識が必要です。新型コロナウイルス感染症の治療に関しては、今後も新たな薬剤の承認が期待されます。適切かつ迅速な治療のため、バリシチニブを含めた新薬に関する情報はしっかりインプットしておきましょう。

    ファルマラボ編集部

    「業界ニュース」「薬剤師QUIZ」 「全国の薬局紹介」 「転職成功のノウハウ」「薬剤師あるあるマンガ」「管理栄養士監修レシピ」など多様な情報を発信することで、薬剤師・薬学生を応援しております。ぜひ、定期的にチェックして、情報収集にお役立てください。

    記事掲載日: 2021/07/12

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