業界動向
  • 公開日:2022.02.17

リフィル処方箋制度とは?メリット・デメリットや薬剤師への影響について

リフィル処方箋制度とは?メリット・デメリットや薬剤師への影響について

諸外国ではすでに一般的で、日本でも2022年の診療報酬改定において導入が決定したリフィル処方箋制度。薬局薬剤師の業務に影響を及ぼすと考えられています。

この記事では、リフィル処方箋制度の概要やメリット・デメリットとあわせて、薬剤師の業務への影響や今後の動向について解説します。

リフィル処方箋制度とは?

リフィル処方箋制度とは?

「リフィル」とは、詰め替えやおかわりを意味する言葉です。「リフィル処方箋」とは、処方医によって定められた回数と期限内で、繰り返し使用可能な処方箋を指します。つまり、「リフィル処方箋制度」とは、何度も病医院に行かなくても、一枚の処方箋で複数回にわたり医薬品を受け取れる制度なのです。

アメリカ・フランス・イギリス・オーストラリアなどでは導入済み。とくにアメリカでは、1951年に取り組みが始まり、長期にわたってこの制度が国内に浸透しています。

一方で、日本においてはリフィル処方箋制度に懸念点があると慎重に検討されてきました。そうしてようやく、2022年の診療報酬改定で導入が決定したのです

リフィル処方箋制度導入のメリット・デメリット

リフィル処方箋制度導入のメリット・デメリット

導入が決定したリフィル処方箋制度について、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。デメリットとあわせて解説します。

メリット

●患者さまの通院の負担が省ける

近所に対応できる調剤薬局さえあれば、病医院へ足を運ぶことなく医薬品を受け取れるようになります。病状が安定している高齢者や体の不自由な患者さまにとっては、大きなメリットがあると考えられます。

●残薬対策・アドヒアランス低下の防止になる

近年問題となっている長期処方による残薬問題の対策にもなると考えられています。

長期処方の目的は、複数回病医院を受診する手間や診察費を減らすこと。しかし、処方日数が数ヶ月になると、自己判断で服用を途中でやめてしまい、結果的に残薬が発生する患者さまも少なくないと思われます。そうした中で、小分けに処方して薬を飲み切ってもらうことができれば、残薬や服薬アドヒアランスの低下が抑えられると考えられています。

●医療機関の負担軽減・医師不足の解消

リフィル処方箋制度が導入されることで、病状が安定している患者さまの受診が減り、効率的に優先度の高い患者さまの対応に診療時間を充てることができると予測されます。これにより、医療機関の負担が軽減し、医師不足の解消にもつながるでしょう。

●医療費の削減につながる

患者さまによる病医院の受診回数が減ると、医療費が減少します。2020年度の医療費は、コロナ禍での受診控えなどによって、2017年度と同程度の42.2兆円まで減少しました。高齢化に伴う医療費の増大が見込まれている中で、リフィル処方箋制度は医療費の削減に有力な対策の一つになると考えられています。

デメリット

●薬の過剰摂取や体調の変化に気づきにくい

薬の過剰な服用につながったり、医師が患者さまの病状の変化を見逃してしまったりする恐れがあります。最悪のケースでは、生命予後にも影響を与えることも心配されます。

●医療機関の収入減につながる

受診回数の減少による医療費が削減は、患者さまにとってメリットと言えますが、医療機関にとっては収入の減少に繋がると考えられます。さらに、複数受診する必要がなくなることにより、患者さまの病院離れも懸念されるでしょう。

薬剤師の仕事への影響とは

薬剤師の仕事への影響とは

リフィル処方箋制度が導入された場合は、薬局薬剤師の業務にも影響を与えることが予測されます。

患者さまの来局回数が増える可能性

患者さまは病医院の受診頻度を減らせますが、少量の薬を複数回に分けて受け取る必要があるため、薬局への来局回数は増える見込みです。薬剤師にとっては調剤業務が忙しくなることが見込まれます。電子薬歴をはじめ、全自動分包機・監査機などによる、効率の良い調剤システムの自動化が求められるでしょう。

医師に代わって患者さまの経過観察が必要になる

些細な体調の変化、服薬の問題点や副作用などは、患者さま自身では気づけないケースも少なくありません。そのため、投薬時に患者さまと対面する薬剤師が、病気と薬に対する豊富な知識と経験をもって、病状の変化や服薬状況、副作用の兆候などを観察、確認し、医師にフィードバックする必要があります

これまで以上に薬学的、医学的な判断が求められ、服薬指導などの対人業務に時間がかかるようになると考えられます。薬剤師には、患者さまへの対応をはじめとする様々な変化への柔軟な対応が求められるでしょう。

2022年度の診療報酬改定での導入が決定

2022年度の診療報酬改定での導入が決定

2021年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太方針)には、導入検討を示唆する以下の一文が盛り込まれました。

症状が安定している患者について、医師及び薬剤師の適切な連携により、医療機関に行かずとも、一定期間内に処方箋を反復利用できる方策を検討し、患者の通院負担を軽減する

そして2021年12月、医療の効率化を図る財務省の主張により、ついに2022年度の診療報酬改定においてリフィル処方箋制度の導入が決まりました。導入後は、処方箋をもらうための通院が減ると見込まれ、医療費削減が期待されています

健康保険組合連合会(健保連)はリフィル処方箋の対象について「病状が安定し、繰り返し同じ処方を医師から受けることが見込まれる患者」としていますが、具体的な制度設計は厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)で引き続き議論されます

リフィル処方箋制度の今後の動向にも注目を

リフィル処方箋制度が導入となれば、薬局薬剤師は現在よりもさらに重要な役割を担うようになると考えられます。

これまで以上に、豊富な経験はもちろんのこと、薬学的知識や医学的知識が必要に。医師との連携に加えて、患者さまとのコミュニケーションなども重要に。それらに伴って責任も大きくなるでしょう。

今後、中医協によって制度設計が議論されますが、患者さまの対象範囲などを巡って、健康保険組合連合会、日本医師会さらには日本薬剤師会も加わり、最終的にどのような制度となるのか今後の動向に注目しましょう。

医療業界に様々な変化をもたらす可能性がある、リフィル処方箋制度の導入。今のうちに、その概要とメリット・デメリットを把握しておき、どうのような立ち振る舞いが望ましいか考えておく必要があります。

前原雅樹さんの写真

監修者:前原雅樹(まえはら・まさき)さん

有限会社杉山薬局小郡店(福岡県小郡市)勤務。主に精神科医療に従事し、服薬ノンアドヒアランス、有害事象、多剤併用(ポリファーマシー)などの問題に積極的に介入している。

2019年、英国グラスゴー大学大学院臨床薬理学コースに留学(翌年、同コース卒業)。日本病院薬剤師会精神科専門薬剤師、日本精神薬学会認定薬剤師。

そのほか、大学非常勤講師の兼任、書籍(服薬指導のツボ 虎の巻、薬の相互作用としくみ[日経BP社])や連載雑誌(日経DIプレミアム)の共同執筆に加え、調剤薬局における臨床研究、学会発表、学術論文の発表など幅広く活動している。

記事掲載日: 2022/02/17

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