業界動向
  • 公開日:2022.03.14

薬局がPCR検査や抗原検査の拠点に。対応の流れと注意点を解説

薬局がPCR検査や抗原検査の拠点に。対応の流れと注意点を解説

新型コロナウイルス感染症の急速な拡大により、各自治体で希望者に対する無料のPCR検査や抗原検査が実施されるようになりました。検査に協力する薬局も増えているため、薬局の薬剤師は検査の概要や流れ、対応などを把握しておくことが大切です。

この記事では、PCR検査および抗原検査の概要や薬局における検査の流れや注意点、また、陽性が判明した場合の対応などについて解説していきます。

PCR検査と抗原定性検査の概要

PCR検査と抗原定性検査の概要

薬局での新型コロナウイルス感染症の検査に用いられる方法は、おもにPCR検査と抗原定性検査の2種類があります。それぞれの特徴について、順にみていきましょう。

検査種類 抗原定性検査 PCR検査
調べるもの ウイルスを特徴づけるたんぱく質(抗原) ウイルスを特徴づける遺伝子配列
精度 検出には、一定以上のウイルス量が必要 抗原定性検査より少ない量のウイルスを検出できる
検査実施場所 検体採取場所で実施 検体を検査機関に搬送して実施
判定時間 約30分 数時間+検査機関への搬送時間
引用:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に関する検査について」

抗原定性検査

抗原検査とは、検査したいウイルスの抗体を用いて、ウイルスを特徴づけるたんぱく質(抗原)を検出する検査方法です。特別な検査機器を使う必要がなく、その場で時間をかけず結果がわかることが特徴です

抗原検査には抗原定性検査と抗原定量検査があります。抗原定性検査では陽性か陰性かの判別のみを行うのに対し、抗原定量検査では結果が数値で示され、陽性の基準値を超えれば陽性、陰性の場合も基準値に近い場合は再検査などの具体的な判断が行えます。

一方で、定性検査、定量検査ともに、無症状の場合は感度が低下する可能性があるため、確定診断としての使用は推奨されていません

PCR検査

PCR検査とは、専用の薬液を使ってウイルスの遺伝子情報を増幅させ検出する検査方法です。抗原検査に比べて精度が高く、無症状でもウイルスを検出できる特徴があります

発症から9日以内であれば、鼻咽頭ぬぐい液だけでなく唾液を用いることも可能です。検査機関へ検体を搬送する必要があるため、判定までに時間がかかることに注意が必要です。

薬局でPCR検査や抗原定性検査を受けられる体制が広がる

薬局でPCR検査や抗原定性検査を受けられる体制が広がる

政府は、新型コロナウイルス感染症対策とイベントや買い物、飲食店への来店など日常生活の回復を両立するため、無症状者のうち、「飲食、イベント、旅行、帰省等の経済社会活動を行うにあたり検査が必要な方」や、「感染拡大期に感染不安を感じる方」に対して、PCR検査や抗原定性検査を各自治体において無料で実施可能としました。以下の事業に基づいて無料検査は実施され、薬局も主な検査実施拠点として参画※1しています。

※1.検査事業者登録申請が必要です。

ワクチン・検査パッケージ制度※2
対象者全員検査等定着促進事業※3

政府は、本制度の目的について以下のように言及しています。

緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置などの下においても、イベント、飲食、買い物、人の移動などの行動制限を緩和するための制度です。

無料のPCR検査や抗原定性検査を受けることにより「陰性の検査結果通知書」を取得できれば、感染リスクが低減するため飲食店の入店やイベント参加が可能となります

※2 飲食店やイベント主催者等の事業者が、入店者や入場者などの「ワクチン接種歴」または「陰性の検査結果」のいずれかを確認することにより、緊急事態宣⾔などにおいて課される⾏動制限を緩和する制度。

※3 飲食店やイベント主催者などの事業者が、ワクチン接種歴にかかわらず、入店者や入場者等全員の「陰性の検査結果」を確認することにより、緊急事態宣⾔等において課される⾏動制限を緩和する制度。

感染拡大傾向時の一般検査事業

新型インフルエンザ等特別措置法に基づき、感染拡大傾向時に、感染不安を感じる無症状の住人に対し、知事の判断により受検要請を行った際に、PCR検査、抗原定性検査を無料で受けられるものです

このように、無症状の方に対してPCR検査、抗原定性検査が無料で行われることにより、感染拡大防止と日常生活、経済社会活動の回復が目指されています。なお現在、検査キットなどの需要ひっ迫のため、厚生労働省から症状があらわれている方に対する検査が優先される方針が示されており、無料検査が制限されている場合があります

無料検査の流れと注意点

無料検査の流れと注意点

薬局においてPCR検査または抗原検査を行う際の流れについて、確認していきます。自治体ごとに対応の流れが異なる場合もあるため、ここでは一般的な流れについてご紹介します。詳細は各自治体ホームページの確認が必要です。

検査の流れ

1.検査対象の確認

自分が無料検査の対象になるか確認しましょう(要件確認)。発熱などの症状がある方や濃厚接触者の方は基本的に無料検査の対象外となるため、医療機関を受診する必要があります。

2.検査場所の確認、予約

自治体ホームページの「無料検査実施場所一覧」などを参照して、検査場所を確認します。検査施設によっては、予約が必要となる場合もあります。

3.検査申し込み

検査施設において、所定の申込用紙を記入します。本人確認のため、氏名や住所などを確認することができる身分証明書(マイナンバーカード、運転免許証など)が必要となります。また、申込書に記載した個人情報について、管轄の保健所に情報提供するとともに、指示に従うことを誓約します。

4.検体採取

検査施設において検査事業者(検査管理者)が立ち会いの下、原則として本人が検体(唾液や鼻腔ぬぐい液)を採取します。

5.検査結果の通知

PCR検査では検体を店舗より検査機関へ郵送するため、通常は翌日以降にメールなどにより結果が通知されます。抗原定性検査では通常15~30分程度で結果が出ます。

注意点

  • 自治体によって無料となる要件が異なる場合があります。各自治体のホームページで詳細を確認しましょう。
  • ワクチン・検査パッケージ制度や対象者全員検査等定着促進事業の対象者はチケット・予約票・切符など、検査受検の目的となる活動の概要や日付が分かるもの、それら書類がない場合は申立書の提出が必要です。
  • 無料検査によって発行される陰陽性の「検査結果通知書」は、「陰性証明書」とは異なります。「陰性証明書」が必要な場合には、医療機関を受診する必要があります。
  • 無料検査で陰性となった場合でも、感染の可能性が否定されたわけではないため、基本的な感染防止対策を継続する必要があります。
  • ワクチン・検査パッケージ制度等で検査結果通知書を利用する場合、PCR検査は検査日+3日間、抗原検査は検査日+1日間が有効期限とされています。

無料検査で陽性が判明した場合の対応

無料検査で陽性が判明した場合の対応

無料検査は確定診断ではないため、陽性が判明した場合には直ちに医師による診察・検査を受ける必要がありますが、まずは自治体の受診・相談センターに電話連絡をするように促しましょう

受診・相談センターへの電話では、無料の検査結果が陽性であったため確定診断を受けたい旨を伝えさせます。また、感染拡大を防止する観点からも、周囲に感染させないよう注意を払い、医療機関への来院は避けるよう指導することも必要です。検査施設(薬局など)と提携医療機関がある場合には、受診方法や今後の手続きについて案内を行います。

検査に関して事前に知識の習得を

この記事では、PCR検査および抗原検査の概要や対応の流れ、注意点、陽性が判明した場合の対応などについて解説していきました。

新型コロナウイルス感染症のオミクロン株が急速に拡大したことで、薬局などを活用して検査を行う機会が増えています。患者さまからPCR検査や抗原定性検査について質問を受ける場合も想定されるため、事前に知識を習得しておくとスムーズに対処できます。受診方法や検査の流れについては自治体ごとに異なるため、ホームページなどで詳細を確認するようにしてください。

嶋本 豊さんの写真

監修者:嶋本 豊(しまもと・ゆたか)さん

有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)管理薬剤師。主に臨床薬物相互作用を専門とし、書籍(服薬指導のツボ 虎の巻、薬の相互作用としくみ[日経BP社])や連載雑誌(日経DIプレミアム)、「調剤と報酬」などの共同及び単独執筆に加え、学会シンポジウム発表など幅広く活動している。

記事掲載日: 2022/03/14

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