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  • 公開日:2023.07.06

【薬剤師向け】アトピー性皮膚炎の新しい治療薬「モイゼルト軟膏(ジファミラスト)」とは?

【薬剤師向け】アトピー性皮膚炎の新しい治療薬「モイゼルト軟膏(ジファミラスト)」とは?

アトピー性皮膚炎とは、皮膚のさまざまな場所に湿疹があらわれ、慢性的なかゆみを引き起こす病気です。『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021』では、「増悪と軽快を繰り返す瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患(公益社団法人 日本皮膚科学会『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021』より引用)」と定義されており、家族歴などのアトピー素因に加え、皮膚の乾燥やバリア機能低下、アレルゲン(ダニやハウスダスト等)との接触、精神的なストレスといった、症状を悪化させる様々な要因が影響して発症すると考えられています。

2022年6月、新しいアトピー性皮膚炎の治療薬として、モイゼルト軟膏(一般名:ジファミラスト)が発売されました。

この記事では、モイゼルト軟膏の使い方や注意点を紹介し、ほかのアトピー性皮膚炎治療薬との違いについて解説します。

アトピー性皮膚炎の治療とは

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021』によると、アトピー性皮膚炎の治療目標は、「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法をあまり必要としない状態に達し、その状態を維持すること(公益社団法人 日本皮膚科学会『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021』より引用)」です。

具体的には、ステロイド外用剤を中心に塗布を継続することで、皮膚の炎症を速やかに抑えて症状を軽減させます。その後、症状の再燃を防ぐために外用剤を予防的に使用する"プロアクティブ療法"を行うことが主な治療法の一つとして推奨されています。

なお、プロアクティブ療法で用いられる外用剤には、ステロイド外用剤のほか、免疫抑制剤のプロトピック軟膏(タクロリムス)も用いられます。

アトピー性皮膚炎の新しい治療薬「モイゼルト軟膏」とは

アトピー性皮膚炎の新しい治療薬「モイゼルト軟膏」とは

モイゼルト軟膏の効能効果は「アトピー性皮膚炎」で、成人だけでなく2歳以上の小児にも使用できます

ここでは作用機序や使用方法・注意点について詳しく解説します。

モイゼルト軟膏の新しい作用機序について

モイゼルト軟膏は国内で初めてのPDE4(ホスホジエステラーゼ4)阻害剤です。

PDE4は炎症を起こす免疫細胞の多くに存在し、細胞内セカンドメッセンジャーであるサイクリックAMP(cAMP)を分解する働きがあります。cAMPは炎症性サイトカインの産生抑制に関わっており、cAMPがPDE4によって分解されると、炎症反応が生じやすくなります。

モイゼルト軟膏は、PDE4の活性を阻害することで炎症細胞内のcAMP濃度を高め、炎症性サイトカインを含む物質の産生を抑制し、皮膚の炎症を緩和すると考えられています。

モイゼルト軟膏の正しい用法・用量とは

モイゼルト軟膏は1日2回塗布する薬で、塗布量の目安は皮疹の面積0.1m2あたり1gです。塗布量の具体的な目安として、Finger tip unit(FTU)という考え方が参考になります。FTUは、成人の人差し指の先から第一関節まで外用薬を乗せた量を「1」とし、チューブタイプの軟膏やクリームでは、1FTU=約0.5gに相当します。なお、1FTU(約0.5g)は、成人の手のひら2枚分の面積に塗るのに適した分量の目安となります。

FTP

ただし、全ての外用薬で1FTU=約0.5gとなるわけではありません。1FTU=約0.5gとなるのは25~50gチューブの場合であり、10gチューブであるモイゼルト軟膏では、1FTU=0.35gです。以下は大塚製薬ホームページに掲載されている年齢別・部位別のFTUで、塗布量の目安となりますので参考にしてみてください。

<モイゼルト軟膏の使用量の目安>※単位:FTU

顔と首 片腕 胴体(前面、背面) 片足
成人 2.5 4 7、7 8
6~10歳 2 2.5 3.5、5 4.5
3~5歳 1.5 2 3、3.5 3
2歳 1.5 1.5 2、3 2

妊婦・授乳婦への使用について

モイゼルト軟膏は、動物実験で胚・胎児発生への影響が確認されていることから、妊婦への使用は推奨されていません

妊娠可能な女性については、服薬指導の際にモイゼルト軟膏の使用終了後、一定期間(少なくとも2週間)は適切な避妊を行うように指導することが大切です。

また、モイゼルト軟膏は動物実験で乳汁中への移行も確認されているため、授乳婦は治療上の有益性や母乳栄養の有益性を考慮して、授乳の継続または中止を検討する必要があります。

モイゼルト軟膏で注意すべき副作用

モイゼルト軟膏で副作用が起こる頻度は、国内長期投与試験において、成人で166例中14例8.4%・小児で200例中16例(8.0%)と報告されています。

主な副作用は、成人では皮膚炎やざ瘡(ニキビ)、小児では色素沈着や毛包炎などが報告されています。

ほかの外用剤との併用について

臨床試験によりモイゼルト軟膏と保湿剤の同一部位での併用は問題ないとされています。

一方、ほかの抗炎症外用剤との併用については、臨床試験の結果から別部位での併用は可能と判断されていますが、同一部位に塗布した場合の有効性や安全性については不明です。

モイゼルト軟膏とほかの外用薬の違いとは

モイゼルト軟膏とほかの外用薬の違いとは

ここでは、アトピー性皮膚炎に使用されるほかの外用剤とモイゼルト軟膏との違いを解説します。

ステロイド外用剤との違い

ステロイド外用剤では比較的頻度の高い副作用として、皮膚萎縮や毛細血管拡張が起こる可能性があります。また、部位によって吸収率が異なるために、部位ごとにステロイドのランクを使い分ける必要が出てきます。

一方で、モイゼルト軟膏ではこのような副作用によるリスクが低いと発表されています。部位ごとの使い分けの必要もないのが大きなメリットです。

プロトピック軟膏との違い

ステロイド外用剤と同様に、従来からアトピー性皮膚炎に用いられているプロトピック軟膏(タクロリムス)は、1回使用量の上限が設定されており、成人では5gです。一方、モイゼルト軟膏に使用量の上限はありません。

また、プロトピック軟膏では使用初期に灼熱感が起こることがあり、刺激が強く継続が難しい患者さまもいらっしゃいます。一方で、モイゼルト軟膏ではこのような副作用は報告されておりません。

コレクチム軟膏との違い

コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)は、2020年に発売されたヤヌスキナーゼ阻害薬の外用剤です。強い抗炎症作用が期待できる一方で、プロトピック軟膏と同様、1回使用量の上限は5gと使用量の制限があります。

また、使用を開始できる年齢にも違いがあり、コレクチム軟膏は生後6か月から、モイゼルト軟膏は2歳から使用することが可能です。

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コレクチム軟膏

モイゼルト軟膏の使い方を正しく患者さまに伝えよう

アトピー性皮膚炎の患者さまの皮膚は、症状が緩和されたように見えても潜在的な炎症のリスクは残っており、さまざまな原因によって再発してしまうことがあります。最新の治療ガイドラインでは、早期に炎症を抑えて症状を軽減させ、その後は再発を予防するためのプロアクティブ療法が推奨治療の一つとして紹介されています。

アトピー性皮膚炎治療の外用剤については、従来薬であるステロイド外用剤とプロトピック軟膏、2020年に発売されたコレクチム軟膏が用いられていますが、ここにモイゼルト軟膏が加わることで、第4の選択肢としてアトピー性皮膚炎治療のさらなるステップアップが期待されるでしょう。

青島 周一さんの写真

    監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』

記事掲載日: 2023/07/06

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