業界動向
  • 公開日:2023.03.16

電子処方箋、開始!薬局の現状とモデル事業から学ぶ課題

電子処方箋、開始!薬局の現状とモデル事業から学ぶ課題

令和5年1月26日からスタートした電子処方箋。紙の薬歴が電子薬歴に移行したように、最近では処方箋の電子化が進められています。これまで紙であった処方箋が電子化されることにより、薬剤師業務にどういった影響があるか、気になるところではないでしょうか。

そこで今回は、電子処方箋の導入で可能になることやモデル事業で見えてきた現時点での課題などについて詳しく紹介します。

電子処方箋が令和5年1月から運用開始!

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電子処方箋は令和5年1月から正式に運用が開始されました。後述するように、医療機関と薬局の連携をスムーズにしたり、重複投与や併用禁忌の確認が行われたりするなど、これまで以上に質の高い医療が提供されるようになる仕組みです。まずは簡単に、電子処方箋について解説します。

電子処方箋とは?

電子処方箋とは、これまで紙でやりとりしていた処方箋を電子的に運用する仕組みのことです。インターネット環境下において、いつでも利用できるクラウド上の管理システムである「電子処方箋管理サービス」を介して、電子処方箋の発行(医療機関)、受付・服薬指導(薬局)や調剤の記録・保管まですべてが電子化され運用されます。

電子処方箋の受付を開始するには?

薬局で電子処方箋の受付ができるようにするには、まずオンライン資格確認の導入と、薬剤師資格証(HPKIカード)の取得が必要です。さらにHPKIカードを読み込むためのカードリーダーや電子処方箋に対応したソフトの導入と、患者さまのマイナンバーカードを読み取るための顔認証月カードリーダーが必要になります。

導入目標

厚生労働省は、令和5年の3月末までにはオンライン資格確認を導入した施設の約7割で電子処方箋の扱いが開始されるようにと目標を立てています。2023年3月5日時点でオンライン資格確認のカードリーダーを申し込んだ薬局は全国で96.2%、運用機関数は77.1%です。これから導入率は上昇傾向と考えられます。

電子処方箋導入でできるようになること

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国が電子処方箋の導入を進めているのには理由があります。紙ではなく電子処方箋にすることで、以下のことができるようになるのです。

・医療機関と薬局の情報共有が円滑に行われるようになる
・複数の医療機関や薬局で直近に処方箋・調剤された情報が確認できる
・お薬手帳アプリや健康管理アプリとの連携ができる
・処方箋の入力作業を省力化できる
・オンライン診療・服薬指導の際、処方箋原本の郵送負担が軽減される


電子処方箋を利用すると、処方・調剤のデータがクラウド上の「電子処方箋管理サービス」に自動的に保存されます。そのため、オンライン資格確認と合わせて、患者さまの同意を得れば、過去3年間にわたる処方・調剤の情報についても本サービスによって確認することが可能です。マイナポータルと電子版お薬手帳アプリや健康管理アプリなどを連携することで、処方情報や調剤情報の活用もできるようになると言われています。

また、処方箋の情報をレセコンに入力する作業が不要になるため、入力作業の省力化や入力ミスも減り、薬局業務の負担軽減が期待できます。

電子処方箋発行~保管までの流れ

電子処方箋の発行から保管までは、次のような流れで行われます。

①本人確認(医療機関)
②診察(医療機関)
③電子処方箋の発行(医療機関)
④電子処方箋の受付/電子処方箋の保管(薬局)

①電子処方箋を発行する場合、まずは医療機関における患者さまによる本人確認が必要となります。

②③電子処方箋の発行を希望された患者さまの本人確認後は、いつもどおりに診察を受けるだけで、電子処方箋が発行されます。

担当医(処方医)は、「電子処方箋管理サービス」を利用して処方内容を決め、電子処方箋を登録。その後、「電子処方箋管理サービス」から交付される引き替え番号を患者さまに通知します。

④電子処方箋発行後、患者さまがお薬を受け取るためには、マイナンバーカードあるいは健康保険証と上述の引換番号を薬局に持参する必要があります。薬局側は、「電子処方箋管理サービス」から処方内容のチェックや過去の処方情報(※1)を取得し、重複投与や併用禁忌なども確認して調剤や服薬指導を実施。調剤後は、調剤結果を「電子処方箋管理サービス」に登録します。処方箋は、電子的に保存が可能です。


※1...患者さまがマイナンバーカードを使用して受け付けた場合で、患者さまの同意を得た場合に、過去3年間にわたる処方・調剤の情報の確認が可能

モデル事業から学ぶ、電子処方箋運用の課題

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令和5年1月からの電子処方箋の導入に先駆け、一部の地域でモデル事業が行われました。本格的な運用開始に向けて、実験的に電子処方箋を導入して利用してもらったのです。

モデル事業には、全国4地域にある38の施設が参加しました。「電子処方箋管理サービス」にデータ登録が行われた件数は90,241件で、重複投与等のチェック機能も活用されました。そこでは、準備段階と実際に運用を開始してからの2つのタイミングで次のような課題が見えてきました。

▼参考資料はコチラ
電子処方箋について|厚生労働省

準備段階における課題

認知度の低さ

まず課題となったのが、認知度の低さです。患者さまが電子処方箋について知らないのは仕方のないことですが、驚くことに処方する側である医師にもほとんど認知されていませんでした。

日経メディカルOnlineが2022年9月に実施したアンケートでは、総回答者数8,782人のうち約71.2%の医師が電子処方箋の運用が2023年1月に開始されることを「知らない」と回答していました。同じく2022年6月にPHCメディコムが合計1,000名の薬剤師を対象に行った『電子処方箋にまつわる知識の理解度調査』のアンケートでは、オンライン資格確認の認知度は57%でした。

HPKIカードの取得率の低さ

HPKIカードを取得している医師や薬剤師はまだまだ低い水準にあります。電子処方箋の運用に必要なHPKIカードの取得が浸透していないため、電子処方箋の普及も遅れを取ると考えられるでしょう。

オンライン資格確認原則義務化対応で電子処方箋の準備が遅れている

令和5年4月からオンライン資格確認が原則として義務化されることになっています。オンライン資格確認とは、マイナンバーカードを健康保険証の代わりに使うことによってオンライン上で資格情報の確認を行うことです。

2023年3月5日時点で薬局におけるオンライン資格確認に必要なカードリーダーの申し込み率は96.2%でした。すでに多くの薬局が申し込みを行っていますが、こちらの対応に追われ電子処方箋の導入に必要な準備、手続きが後回しになり遅れる可能性があります。

運用開始後の課題

マイナンバーカードや電子処方箋について患者さまにうまく説明できない

患者さまは、これまで当たり前のように病院や薬局の窓口で健康保険証を出し、紙の処方箋を受け取ってきました。突然マイナンバーカードや電子処方箋を使うようにと伝えても、患者さまは色々と戸惑ってしまうことでしょう。

「どうすればマイナンバーカードで受付ができるのか」「どうすれば電子処方箋を使えるのか」を説明するのも、薬剤師や説明するスタッフ自身が仕組みを理解していなければ患者さまに理解してもらうことはできません。

周辺医療機関に普及していないと重複薬投薬・併用禁忌チェックがうまく機能しない

電子処方箋が使える薬局が少ない状態では、重複薬や併用禁忌薬のチェックが十分に行えません。非対応の医療機関では処方情報が「電子処方箋管理サービス」に登録されないため、チェックができないのです。

処方箋情報は従来通り患者さまからの聞き取りによって把握しなければなりません。電子処方箋のメリットを最大限に生かすためには、なるべく早く普及率を高めることが大切です。

院内処方・退院時処方、リフィル処方などには非対応

電子処方箋は、現時点ではすべての処方箋を電子化できるわけではありません。院内処方箋や退院時処方、リフィル処方箋などは対象外です。リフィル処方箋の導入率は高くありませんが、処方箋の種類によって電子処方箋に対応できるかどうかが変わるのは、普及にも影響する可能性があります。

電子処方箋導入後、薬局の未来はどう変わる?

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電子処方箋の導入により、お薬の重複や併用禁忌などを自動でチェックできるようになります。この仕組みによって、患者さまがさらに安心して薬を服用できることになるでしょう。「どこの医療機関で何を処方されているのか」等もすぐにわかるため、何かあった場合もすぐに連絡が取れます。

医療機関と薬局の双方で処方薬の確認ができるのも大きな特徴です。薬剤師だけでなく医師も処方薬の確認ができるため、処方時点で薬の重複などを避けられます。電子処方箋を導入することで、薬局はより患者さまの情報を管理しやすくなり、より質の高い医療を提供できるようになるでしょう。

ただし、電子処方箋の普及により、個人情報の取り扱いなどを懸念する声も挙がっています。そのような方にも安心して利用していただくためには、これまで以上にしっかりと個人情報を管理し、丁寧な患者さまへの対応が望まれます

継続的に電子処方箋の動向をチェックし、薬局での対応を考えよう

令和5年1月から電子処方箋の運用が開始されたものの、「HPKIカードの取得が進んでいない」「電子処方箋を利用するための準備が整っていない」等、電子処方箋の導入・普及は、まだ思うようには進んでいません。

しかし電子処方箋は、今後患者さまへよりよい医療を提供していくために欠かせないものとなるでしょう。薬剤師は今後も電子処方箋の動向を常に注目し、現場での対応を考えて行くことが大切です。

嶋本豊さんの写真

監修者:嶋本 豊(しまもと・ゆたか)さん

有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)管理薬剤師。主に臨床薬物相互作用を専門とし、書籍(服薬指導のツボ 虎の巻、薬の相互作用としくみ[日経BP社])や連載雑誌(日経DIプレミアム)、「調剤と報酬」などの共同及び単独執筆に加え、学会シンポジウム発表など幅広く活動している。

記事掲載日: 2023/03/16

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