業界動向
  • 公開日:2021.10.19

オンライン資格確認、導入のメリットとデメリットは?

オンライン資格確認、導入のメリットとデメリットは?

2021年3月より各種システムの導入により、被保険者の保険資格確認をオンラインで行えるようになりました。同時に患者さまの過去の治療歴や処方履歴などを閲覧することも可能になるため、良質な医療の提供につながることが期待されています。

この記事では、オンライン資格確認の概要やメリット・デメリット、今後の展望について解説していきます。

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オンライン資格確認とは

オンライン資格確認とは

オンライン資格確認とは、医療機関や薬局を受診する際、患者さまの被保険者資格をマイナンバーカードを利用し、オンラインで確認することをいいます

加入している医療保険の種類や有効期限、資格が有効であるかどうかなどを即時に確認できるだけでなく、本人の同意を得たうえで薬剤や特定健診の情報を医療機関側で確認できるため、よりよい医療の提供につながることが期待されています。

2021年3月より運用が開始された制度ですが、先行運用で問題が多発したことや、世界的な半導体不足によるオンライン資格確認に必要なパソコンの調達遅れなどで、本格的な稼働は10月が見込まれています。2023年3月までにほぼすべての施設での導入を目指す政府は、7月から本格運用開始までを「集中導入期間」と位置づけています。

オンライン資格確認が推進される背景

多くの医療機関や薬局では、受付時に窓口で患者さまの健康保険証を確認しています。しかし現状の仕組みでは、窓口で資格の有効期限や正しい所有者であるかを判断できないため、資格が有効であるかどうかを確認できません。そのため、レセプト請求で正しく処理できないことがあり、返戻作業や再請求作業が必要になるといった課題があります

また、現状では医療機関や薬局ごとに患者さまのデータを管理しており、共有や連携が進んでない点も課題の1つです。社会で利用されるITインフラを安全かつ効率的に活用するという観点から、オンライン資格確認をデータヘルスの基盤として利用していくことも期待されています。

導入手順

オンライン資格確認の利用に向けた準備作業は以下の4ステップです。

オンライン資格確認とは

顔認証付きカードリーダーの申し込みは、専用の医療機関などへ向けたポータルサイトで申請が可能ですが、各種機器の導入やシステムの改修、ネットワークの設定などについては、現在利用中のレセプトコンピュータなどの業者である、システムベンダーへ問い合わせが必要です。

導入に際しての補助金について

オンライン資格確認を利用するためには、顔認証付きカードリーダーの申し込みや各種申請とともに、必要機器の導入やシステム・ネットワークの改修が必要です

顔認証付きカードリーダーは薬局ごとに無料で1台提供されます。それ以外の以下費用については、一定の上限額と割合で補助金が設けられています。

■補助の対象となる事業


・オンライン資格確認の導入に必要となる資格確認端末の購入や導入

・レセプトコンピュータ、電子カルテシステムなどのアプリケーションに組み込むパッケージソフトの購入や導入

・オンライン資格確認に必要となるオンライン請求回線の導入、既存のオンライン請求回線の増強

・オンライン資格確認の導入に必要となるレセプトコンピュータ、電子カルテシステムなどの既存システムの改修(資格確認だけでなく、薬剤や特定健診の情報の閲覧のための改修を含む)

など

■補助金の内容

大型チェーン薬局
(グループで処方箋の受付が月4万回以上)
大型チェーン薬局以外の場合
21.4万円を上限に補助
※事業額の42.9万円を上限にその1/2を補助
32.1万円を上限に補助
※事業額の42.9万円を上限にその3/4を補助

※消費税分(10%)も補助対象であり、上記の上限額は、消費税分を含む費用額です。
※2021年3月末までに顔認証付きカードリーダーを申し込んだ薬局に限り、補助上限までなら自己負担はありません。
※補助金は、導入完了後にポータルサイトより申請可能です。

オンライン資格確認のメリット

オンライン資格確認のメリット

オンライン資格確認のメリットについて、例を挙げながら解説してきます。

レセプト返戻を削減できる

オンライン資格確認の導入により、患者さまの保険資格がその場でリアルタイムに確認できるようになります。結果的に資格過誤によるレセプト返戻が減り、窓口業務の負担が削減されるでしょう。

保険証入力の手間が軽減できる

従来は受付で健康保険証を受け取り、保険証記号番号、氏名、生年月日、住所などをシステムに入力する必要がありました。オンライン資格確認では、マイナンバーカードから最新の保険資格を自動的に取り込むことができます

薬剤情報や特定健診情報が閲覧できる

患者さまの同意を得たうえで、薬剤や特定健診などの情報を閲覧できるようになります。患者さまの過去の情報まで見ながら服薬指導が行えるほか、薬剤重複投薬などの発見に役立てるなど、より適切な医療の提供を行えるようになるでしょう。

災害時の対応が可能になる

災害時には、厚生労働省が定めた範囲で、本人の同意を得られずとも薬剤や特定健診などの情報が閲覧可能になる特別措置が実施されます

災害によって薬が手元になかったりお薬手帳を紛失したりと、服用中の薬の情報共有が困難になった場合にも患者さまに必要な薬を届けられるのです。

電子版お薬手帳と連携できる

従来の電子版お薬手帳では、医療機関や薬局ごとに発行される薬剤情報の手入力や二次元バーコードの読み取りなどが必要でした。しかし今後はマイナポータルを介し、レセプト情報に基づいた薬剤情報を一括で電子版お薬手帳に取り込めるようになります

オンライン資格確認のデメリットや課題

オンライン資格確認のデメリットや課題

様々なメリットのあるオンライン資格確認ですが、デメリットや課題があることにも注意が必要です。

一定の費用負担がある

初期費用については政府からの補助金を活用できますが、2021年3月末までに申請を行った場合を除き、薬局にも一部負担金が求められます。

また、通信料やセキュリティ対策などの月額負担が必要となったり、端末が故障した際は修理費用が発生したりと、一定のランニングコストが必要となる点にも注意が必要です

導入までに手間がかかる

オンライン資格確認の導入には、電子カルテやレセコンの改修、オンライン請求の回線環境の導入などが必要となります

システムのセットアップ時の課題(開始当初、設定に時間を要する、一部の設定で手間取るなど)も多く、そのほかにもスタッフに対する研修時間の確保も課題の一つです。

機器に慣れない患者さまへのサポートが必要になる場合がある

医療機関を利用する患者さまには高齢者も多く、カードリーダーや顔認証システムに慣れていない患者さまへのサポートが必要になる場合もあります

また、従来の保険証を用いた保険資格確認も変わらず利用可能であるため、患者さまの混乱を招く可能性も考えられます。さらに、患者さまがマイナンバーカードを破損や紛失した際の対応も必要になるでしょう。

導入したものの使われない可能性がある

厚労省のデータによると、2021年6月21日時点のマイナンバーカードの交付枚数は全国で4,224万件ですが、そのなかで健康保険証利用の登録状況は440.3万件となり、発行枚数に対して10.4%にとどまっています。コストをかけてシステムを導入しても、現状はなかなか利用がすすまない可能性があることも懸念点でしょう

オンライン資格確認の今後の展望

今後の展望

オンライン資格確認は、今後のデータヘルスの基盤となることが期待されています。現状では、全国の医療機関・薬局で確認できる情報は、薬剤や特定健診の情報などに限られますが、令和4年夏をめどに対象となる情報の拡大が予定されています。手術、移植、透析、医療機関名などの項目が対象となる見込みです

また、オンライン資格確認などシステムを基盤とした電子処方箋の活用も予定されています。従来の紙での処方箋受け渡しが不要になり、薬剤情報をリアルタイムで共有可能となります。そのほかにも、現在はオンライン資格確認の対象になっていない生活保護受給者に対する医療扶助の医療券・調剤券を対象とすること、訪問診療などにおけるオンライン資格確認も検討されています。

オンライン資格確認の動向に注目

オンライン資格確認の普及によって、患者さまは安心安全な医療を受けることが可能になります。また、受付が顔認証で自動化されるためコロナ禍での接触を最小限にできる、転職や結婚などのライフイベント時に健康保険証の発行を待たなくて良い、マイナポータルからe-Taxに連携し確定申告が容易になるといった利点も期待されています。

一方で、まだまだマイナンバーカードの利用者が少ないため、メリットが感じられるまでには時間がかかると考えられています。利用できる医療機関が限られることやセキュリティの問題など、導入に向けての課題も多く残るため、今後の動向に注目しましょう。

執筆者:ヤス(薬剤師ライター)

新卒時に製薬会社にMRとして入社し、循環器や精神科からオンコロジーまで、多領域の製品を扱う。

現在は患者さまと直に接するために調剤薬局チェーンに勤務しながら、後進の育成のために医薬品のコラムや医療論文の翻訳など、多方面で活躍中。

記事掲載日: 2021/10/19

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