業界動向
  • 公開日:2023.03.15

薬剤師賠償責任保険とは?薬剤師が働くうえで確認すべきこと

薬剤師賠償責任保険とは?薬剤師が働くうえで確認すべきこと

薬剤師として働くうえで絶対に加入しておきたいのが、薬剤師賠償責任保険です。薬剤師賠償責任保険に入らず働いている薬剤師はいないと言っても過言ではないほど、ほとんどの方が加入しています。場合によっては、自分が知らないうちに加入している方もいるかもしれません。

しかし、「そもそもどういう保険なの?」「どのようなときに役立つの?」と疑問に思っている方もいるのではないでしょうか。そこで今回は、薬剤師賠償責任保険の内容や加入方法、転職などの際に確認しておくべきことについて詳しく解説します。

薬剤師賠償責任保険とは?

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薬剤師賠償責任保険とは、業務上偶然生じた過誤により、法律上の賠償責任を負うことにより被る損害に対して保険金が支払われる制度です。薬剤師は調剤ミスや服薬指導での伝え漏れなどにより、いつ患者さまに危害を加えてもおかしくない状況で仕事をしています。

事故を起こさないように調剤者と監査者を違う人にしたり、ダブルチェックして薬の補充をしたりしている薬剤師がほとんどではありますが、それでも可能性はゼロではありません。

万が一、法律上の損害賠償責任が生じた場合、薬剤師が支払わなければならない損害賠償金を支払うのがこの保険制度です。なお、1回の事故につき、損害賠償金は保険金額を限度とされています。

薬剤師が働くうえで必ず確認しておきたいこと

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調剤するときに単位を一つ間違えれば、重大な事故に繋がります。また、似ている名前の薬と取り違えれば思わぬ副作用が出て、最悪な事態に陥ることも。薬剤師の仕事は、患者さまの命に直結しています。常に「患者さまの命を預かっている」という認識を持ち、いざというときに自分を守れる環境を整えておく必要があるでしょう。

ここでは、薬剤師として働く前に確認しておくべきことを解説します。

薬剤師賠償責任保険に加入しているかどうか

薬剤師が働くほとんどの職場は、勤務先の法人などが薬剤師賠償責任保険に加入していることが一般的です。つまり、入職することで、無条件で薬剤師賠償責任保険に加入することになります。

ただし、職場都合や雇用都合などにより、個人で加入しなければいけないケースも稀にあります。転職する時や働き方を変える時など、念のため薬剤師賠償責任保険の加入の有無を確認しておきましょう。

薬剤師賠償責任保険で補償される内容

薬剤師賠償責任保険にはいくつかのプランがあります。プランによって補償内容が違うため、できれば加入の有無だけでなく具体的な補償内容についても確認しておくのがおすすめです。

例えば、プランによって万が一の事故が起きたときに補償される保険金額、患者さまが死亡したときや後遺障害が起きたときのサポートが異なることもあるため、細かい内容についても確認しておくのがよいでしょう。

薬剤師が法的責任を問われた実際の事例

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薬剤師賠償責任保険に入らずに患者さまを害した場合は、請求された損害賠償金を支払わなければなりません。損害賠償金は多額のため、薬剤師賠償責任保険に加入していなければ、一生をかけて償わなければならない可能性もあります。

実際に、薬剤師が法的責任を問われた過去の事例について見ていきましょう。

【事例1】倍量のシロップを調剤

生後4週間の乳児に対して、通常量の約5倍にあたるマレイン酸クロルフェニラミンと約3倍にあたるリン酸ジヒドロコデインのシロップを処方。薬剤師は処方量が多すぎることに気が付かず、そのまま調剤してしまいます。

その結果、乳児は過量のマレイン酸クロルフェニラミンとリン酸ジヒドロコデインを少なくとも2回服用してしまいました。その後、乳児は呼吸困難とチアノーゼを起こして入院。医師と薬剤師ともに約576万円の損害賠償金の支払いを命じられました。

【事例2】エラスチームとオイグルコンを誤って処方

高血圧治療のために通っていた患者さまに対して、医師が血管代謝改善薬のエラスチームを処方するつもりが、誤って血糖降下剤のオイグルコンを処方してしまいました。この誤りに気が付かず、薬剤師は処方箋どおりに調剤。

オイグルコンは1日6錠で処方されており、患者さまは処方通り服用します。オイグルコンを服用したことで患者さまは血糖値が低下、これが引き金となって心不全を起こし、植物状態となってしまいました。

この事件に対して、裁判所は、4,700万円の賠償金の支払いを命じました。

【事例3】バップフォーとバソメットを誤って調剤

頻尿の治療薬であるバップフォーを90日分処方されていましたが、薬剤師は誤って血圧降下剤のバソメットを調剤し、96歳の患者さまに渡しました。患者さまはバソメットを服用後、41日を過ぎたときに脳梗塞で倒れ、その1か月後に死亡。

裁判所はバソメットの典型的な副作用である脳梗塞で死亡したと認めるのが相当と判断し、2,500万円の支払いを命じました。

薬剤師賠償責任保険はパートや派遣でも加入できる?

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薬剤師賠償責任保険は、正社員だけでなくパートや派遣でも加入が可能です。パートや派遣においても職場で加入していることがほとんどですが、場合によっては個人で加入する必要があります。また、フリーランスとして働いている方も、基本的には個人で加入しなければなりません。

職場に加入状況を確認したうえで、必要に応じて個人での加入を検討しましょう。

個人で薬剤師賠償責任保険に加入する方法

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勤務先によっては、自分で薬剤師賠償責任保険に加入する必要があります。自分で加入する場合は、次に紹介する3つの方法から選びましょう。

日本薬剤師会の会員になり、加入する

日本薬剤師会の会員になると、薬剤師賠償責任保険への加入ができるようになります。まず日本薬剤師会の会員になり、薬剤師賠償責任保険への加入手続きを進めます。支払い方法は払込用紙もしくはネット、口座振替が利用可能です。こちらの加入方法がもっとも一般的でしょう。

日本病院薬剤師会の会員になり、加入する

日本病院薬剤師会の会員になることでも、薬剤師賠償責任保険に加入できます。日本病院薬剤師会への加入は、勤務先のある都道府県病院薬剤師会の窓口で行えます。

民間の保険に加入する

民間の保険会社のなかには、薬剤師賠償責任保険を取り扱っているところがあります。日本薬剤師会や日本病院薬剤師会に所属していない方、会費の支払いが気になる方などは、保険会社を探して加入するのもよいでしょう。

薬剤師賠償責任保険に加入する際はオプションの検討もしよう

日本薬剤師会の薬剤師賠償責任保険には、サイバー保険というオプションも用意されています。以前は個人情報漏えい保険と呼ばれていた保険で、サイバー攻撃や情報漏洩などを対象とした保険です。

近年ではICT化が進んだことにより、薬剤師がネットワークを通じて業務を行うことが当たり前になりました。そのようななかで万が一の事故が起こったときに備えるのがサイバー保険です。

薬剤師賠償責任保険とは違い、加入するかどうかは本人次第ですが、気になる方はこちらも検討しておきましょう。

薬剤師がミスを減らすためにできること

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薬剤師賠償責任保険に加入し、いざというときのために備えておくことはとても大切です。保険に加入していなければ、誤った処方がきっかけで人生が変わってしまうことがあります。

しかし、まずはミスを限りなくゼロにするために日頃から気をつけることが重要です。薬剤師や薬局でできる対策について、以下で紹介します。

少しでも疑問に思ったことは調べる

「この薬は1日何mgまで飲んで良かっただろう?」「この分量で合っているのだろうか?」と、少しでも自信がない処方に関しては、必ずその場で調べるクセをつけましょう。

「たぶんこれで大丈夫だろう」というちょっとした油断が、大きな事故を引き起こす可能性があります。患者さまを少し待たせてしまうこともあるかもしれませんが、命を守るためにも確信がもてるまでしっかり調べましょう。

複数名によるチェック

複数名によるチェックは、もっとも簡単にできる対策です。自分一人では気づかなくても、ほかの人に見てもらうことでミスが発覚するケースもあります。調剤する人と監査する人を分けるなど工夫をして、必ず複数名でチェックするようにしましょう。

ダブルチェックは基本中の基本です。自分は大丈夫だと過信せず、第三者の目を通してから患者さまに薬を渡すようにしてください。

調剤監査支援システムやロボット調剤を導入する

機械に任せられる部分は思いきって任せてしまうことで、事故を減らせます。調剤の間違いを防止する調剤監査支援システムは、レセコンに入力した薬剤名が調製した薬剤と相違がないかを確認できる仕組みです。ピッキングした医薬品を機械にかざすだけで正誤判定ができるため、大幅にミスを減らせます。

またロボット調剤を取り入れる薬局も少しずつ増えてきました。秤量や配分、分割、分包などの調剤業務を薬剤師に代わりロボットが行えます。対物業務に調剤ロボットを活用することで、ミスが減り時間短縮にもつながるでしょう。

「万が一」のために。働き始める前に確認を

薬剤師賠償責任保険とは、薬剤師の誤った処方により患者さまに健康被害を与えた場合の損害を補償してくれる保険です。ほとんどの職場では自動で加入することになるため、改めて個人で申し込むことはほとんどありません。

しかし、まれに職場が加入していない場合やフリーランスの場合など、個人で加入が必要になるケースがあります

患者さまの命に関わる仕事である以上、ミスは許されません。しかし、どんなに気をつけていても起きてしまうことがあります。「万が一」の事態に自分を守れるよう自らの加入状況について把握し、環境を整えておきましょう。

ファルマラボ編集部

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記事掲載日: 2023/03/15

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