業界動向
  • 公開日:2020.10.30

電子処方箋で薬局が変わる?導入の目的やメリットを解説!

電子処方箋で薬局が変わる?導入の目的やメリットを解説!

現在は紙でやりとりしている処方箋をオンラインで管理する「電子処方箋」。その導入が目前に控えています。医療機関と薬局が最新情報を共有することにより、重複投薬などの医療リスクを削減できるだけでなく、災害時に手術歴などをほかの医療機関で閲覧できるなど、様々なメリットが期待されています。

この記事では、【電子処方箋の運用ガイドラインをもとに電子処方箋の導入の目的/導入するメリット/導入における課題】などについて解説します。

電子処方箋とは?

電子処方箋とは、これまで紙でやりとりしていた処方箋をオンラインで管理する仕組みのことをあらわします。医療機関と薬局の連携や服薬管理の効率化につながるだけでなく、電子版お薬手帳との連携により、患者さま自身が受診履歴や服薬履歴を電子的に管理し、健康増進への活用の第一歩になるなどのメリットが期待されています。

2020年6月22日に開催された2020年第9回経済財政諮問会議において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を受けた「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン」が報告されました。このなかで、電子処方箋については、2022年夏をめどに運用を開始することが発表されています。今後2年間で、オンライン資格確認システムを基盤とした運用に関する要件整理と関係者間の調整を実施したうえで、必要な法制上の対応を行っていくことが見込めるでしょう。

電子処方箋の本格運用に向けた取り組み

薬剤師のイメージ

厚生労働省をはじめとする関係各所では、電子処方箋を本格的に運用するための取り組みが行われています。ここでは、具体例をあげながら解説していきます。

「電子処方せんの運用ガイドライン」の策定

厚生労働省では2016年3月に、処方箋の電磁的記録による作成、交付及び保存を可能とするための省令改正を行うとともに、電子処方箋の円滑な運用を目的として、「電子処方せんの運用ガイドライン」を策定しました。

ガイドラインでは、当該地域に電子処方箋へ対応した薬局がある場合においてフリーアクセスを確保し、かつ患者さまが自分自身の処方情報を確認できることを前提として、これまでの処方箋電子化の実証事業の成果などを踏まえながら、電子処方箋にかかわる運用が整理されています。なお、実証をすすめたうえで一部の運用を見直したことから、2020年4月30日に「電子処方箋の運用ガイドライン第2版」が公表されています。

企業による「実証事業」の実施

オンライン診療システムを展開する株式会社メドレーにおいて、厚生労働省より受託された「電子処方箋の本格運用に向けた実証事業」が、2018年12月から2019年3月にかけて実施されました。こちらの実証事業では、電子処方箋の普及の支障となる要因を解消するため、新たな電子処方箋システムの提案や構築をし、その実証を行うことが目的とされています。

評価システムの実運用は2019年2月4日から3月17日までの6週にわたって行われ、薬局が電子処方箋のアクセスコードを利用した72例のうち、64例がスムーズに調剤を完了したと報告されています。薬局で調剤を試みたものの、完了に至らなかった例が8例報告されていますが、処方内容の変更処理機能をプロトタイプの開発において省略したことによる事例であるため、事実上はほぼ運用に問題のあるトラブルはなかったと考えられています。

▼参考資料はコチラ
電子処方箋の普及に向けた取り組みについて
電子処方箋の本格運用に向けた実証事業一式【最終成果報告】(株式会社メドレー)

処方箋の電子化によるメリット

薬剤師のイメージ

処方箋が電子化されることによって、患者さまや医療機関、薬局では、様々なメリットが期待されています。具体例をあげながら解説していきます。

医療機関と薬局の情報共有が容易になる

医療機関・薬局間で情報共有が進めば、医薬品の相互作用やアレルギー情報なども管理できるようになり、国民の医薬品使用の安全性の確保につながると期待されています。また、薬局で処方内容の照会や後発医薬品への変更などを含む調剤業務が行われた際に、その結果が医療機関にフィードバックされることにより、次の処方情報の作成に有効利用できます。

処方箋印刷のコスト削減、偽造・再利用の防止

紙の処方箋の印刷にかかるコスト削減が期待されています。また紙の場合、カラーコピーなどによる偽造や再利用が問題になるケースもありましたが、電子処方箋ではサーバによって管理が行われているため、不正使用を防止できることもメリットのひとつです。薬局においても、入力作業の簡素化や誤入力の防止、保管スペースの削減効果も期待されています。

遠隔診療時の処方箋の受け取りが簡易化される

近年では、情報通信機器を用いた遠隔診療(オンライン診療)が注目を集めています。薬局および薬剤師においても、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、2020年4月10日より時限的・特例的にオンライン服薬指導が認められるようになりました。現状ではファクシミリや郵送を用いた情報伝達が行われていますが、電子処方箋が普及するとなれば、処方箋の原本を電子的に受け取れるようになるため、医療機関・薬局や患者さまの負担を軽減することに繋がると期待されています。

▼参考資料はコチラ
電子処方箋の運用ガイドライン 第2版

電子処方箋、本格運用への課題

悩める薬剤師のイメージ

電子処方箋の本格的な運用には、課題もあります。ここでは具体例を解説します。

現行の診療・調剤フローと比較して運用が煩雑に

現状では紙の処方箋を発行・応需するだけで完了している業務に対して、電子処方箋ではASPサーバとのやりとりや電子署名など、様々な業務が負荷となり、運用が煩雑になることが懸念されています。診療・調剤フローの変化によって、受診時における対応の変化や待ち時間の増加など、患者さまに対する影響も否定できません。電子処方箋管理サービスのシステム障害などにより、医療機関や薬局での医療提供に支障をきたす可能性もあるため、これらの対応マニュアルなどの整備も求められています。

電子処方箋への対応にともない、一定の費用負担が生じる

医療機関や薬局によっては、既存のシステムでは電子処方箋に対応できない場合も多いため、大規模なシステム入れ替えが必要になることが想定されています。これらの機器の導入費用やスタッフの研修費用については、医療機関や薬局が負担するため、経費増大が課題のひとつです。また、事業全体としても、地域医療情報連携ネットワークにかかる費用として、構築に数億円程度、運用に年間数千万円~1億円程度がかかると想定されているため、国民医療費への影響も懸念されています。

患者さまへのアナウンス・問い合わせへの対応

紙の処方箋は提出するだけで医薬品が交付されますが、電子処方箋では「アクセスコード」に加えて、「確認番号」を薬局に提示する必要があります。オンライン資格確認システムやお薬手帳との連携など、従来とは異なる運用が必要になる点にも注意が必要です。医療機関や薬局側においても、患者さまに対して適切に手続きを説明できるように知識を身につけるとともに、リーフレットなどの資料を提供していかなくてはなりません。

電子処方箋の今後の動向に注目

この記事では電子処方箋の運用ガイドラインをもとに、電子処方箋の導入の目的やメリット、課題などについて解説しました。

安全かつ円滑に医療情報を流通させるために有用な手段として、電子処方箋は注目を集めています。様々なメリットも期待されていますが、導入におけるハードルも高く、患者さまや医療機関、薬局に過度な負担が発生しない施策が求められています。

薬剤師をはじめとした医療従事者は、患者さまに対する利用方法のアナウンスや問い合わせへの対応が必要になると考えられます。しっかりと運用方法を抑えておきましょう。

ファルマラボ編集部

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記事掲載日: 2020/10/30

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