業界動向
  • 公開日:2019.03.18

「地域包括ケアシステム」における薬局と薬剤師の役割は?~課題と解決事例まとめ~

「地域包括ケアシステム」における薬局と薬剤師の役割は?~課題と解決事例まとめ~

現在の日本は、過去に例をみない高齢化問題に直面しています。今後も高齢者は増え続けることが予測されており、国は持続可能な医療・介護制度を構築することを急務としています。

中でも注目されている「地域包括ケアシステム」では、地域においてさまざまな専門職種が協力してケアをおこなうことが求められており、薬剤師にもさまざまな役割が期待されています

この記事では、これらのチーム医療のシステムの中で【薬剤師はどのような役割を持つことができるのか】、【医薬品の専門家としてどのようなアプローチを行うべきなのか】について考えていきます。

地域包括ケアシステムの現状と課題

現在の日本における65歳以上の人口は、2016年9月時点で3,461万人とされています。主要国の中で2016年の高齢者の総人口における割合を比較すると、日本が27.3%で最も高く、次いでイタリア(22.7%)、ドイツ(21.4%)となっています。

今後は2042年の約3,900万人でピークを迎え、その後も75歳以上の人口の割合は増加し続けることにより、今後は国民の医療や介護の需要がさらに増加することが見込まれています。

このため、厚生労働省においては団塊の世代が75歳をむかえる2025年を目途に、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるように、地域の包括的な支援・サービスの提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を目指しています。

地域包括ケアシステムを構築するためには、多くの課題があることにも注意が必要です。課題の一つに、限られた財源のなかで包括的な支援・サービスの提供体制を築かなければならないことがあります。2000年に介護保険法が施行されましたが、現行の介護保険制度下では最も重い要介護5であっても、公的介護保険範囲内限度額は3万6千円までとされています。自立生活を支援するための手段として、これらが必要十分であるかどうかということは、まだまだ疑問の余地があるのです。

そのほかにも、介護の担い手にかかわる問題もあります。地域包括ケアシステムでは、医療者や介護施設の職員、自治体職員、民生委員、町内会役員などの多様な担い手が連携することが求められますが、方向性を決定するための場が形成されていない自治体も少なくありません。介護職の慢性的な不足に伴い、介護サービスの提供体制も十分とは言い切れないのです。

保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づいたシステムを作り上げていくことが求められています。

地域包括ケアシステムにおける薬局と薬剤師の役割とは?

地域包括ケアシステムでは、関係機関が連携して、多職種協働により在宅医療・介護を一体的に提供できる体制を構築することが求められています。その中で、薬局や薬剤師に期待される役割には、どのようなものがあるのでしょうか。

適切な薬物治療の提供

地域包括ケアシステムにおける薬剤師の役割として、かかりつけ薬局やかかりつけ薬剤師として適切な薬物治療を提供することが挙げられます。

高齢患者の多くは、複数の医療機関を受診して複数の薬が処方されることが多いため、全ての医療機関の処方情報を把握しなくてはなりません。ICT(電子版お薬手帳など)を活用して、服薬情報の一元的・継続的把握とそれに基づく薬学的管理・指導を行うことが求められています。

健康サポート機能

地域住民による主体的な健康の維持・増進を積極的に支援することも、薬剤師に求められる役割のひとつです。

最も気軽に相談できる医療・介護の窓口として、住民のさまざまな相談(健康相談、栄養相談、介護相談など)を最初に受け付け、国民の病気の予防や健康サポートに貢献することが求められています。2016年10月から、「健康サポート薬局」の届け出もはじまっています。

在宅医療への対応

地域包括ケアシステムでは、薬剤師が医師や看護師などの多職種と協働して、薬物療法の適正化のための役割を担うことも期待されています。最もイメージしやすいものとして「在宅医療」があり、在宅患者への薬学的管理・服薬指導を行うことが求められています。

医療チームとの連携はもちろん、患者さまの家族や地域の方々とのつながりがベースとなる地域密着型の取り組みとして、さまざまな角度から患者さまをサポートしていかなくてはなりません。

薬を手渡した後も、効果や副作用、残薬の有無などをきちんと把握して、医師の指導の下で一体となって患者のケアを行うことが求められています。

【事例紹介】薬局や薬剤師が地域包括ケアシステムに参画している例

事例1│多職種が参画する地域ケア会議

在宅ケアに精通した外部助言者を交えた、地域ケア会議を開催する取り組みを行っています。薬剤師を含む多職種が参画して、自立支援・予防やケアマネジメント、重度化防止に加え、人材育成も目的としています。

薬局や薬剤師の役割として、多剤併用のリスクや重複した薬剤を整理すること、薬の効果・副作用の評価、生活実態に合った剤形選択などの助言を行い、在宅介護の限界点を高めることが期待されています。

事例2│病院の薬剤部と地域の薬局の連携

全国でも実施可能なICT技術を活用した、病院の薬剤部と地域薬剤師会との連携(薬薬連携)の取り組みを行っています。

病院の薬剤部主導で、地域の薬局や薬剤師が参加する薬剤師会と連携して、勉強会の開催や研修の実施、ICTを活用したネットワークの構築がすすめられています。院外処方やがんに係るプロトコールを導入することで、薬薬連携を推進するとともに、 業務の効率化等を実現しています。

事例3│参加しやすい地域ケア会議の開催や ICT の活用による多職種連携

地域ケア会議を毎月開催しており、テーマごとの専門職による講話や情報交換と、"見える事例検討会"を実施しています。これらは多職種が参加しやすいように夜間の時間帯に開催しており、医療・介護・福祉などの関係者が自由に参加できることが特徴です。

薬局や薬剤師の役割として、"見える事例検討会"における服薬に関する質問に回答したり、専門職としてのアドバイスを行ったりしています。介護職との連携が深まり、通院の状況や残薬の情報などを共有することで、適切な服薬管理につながっています。

事例4│多職種のアドバイザーによるケアプラン点検

「ケアマネジメントの質の向上」、「個々の利用者が真に必要としているサービスの確保」、「介護給付費の適正化」とを目的として、従来のケアプラン点検に加えて、多職種のアドバイザーによる多面的視点からのケアプラン点検を行っています。

薬剤師もアドバイザーとして参画しており、面接点検時に使用する「アセスメントシート」に「使用薬剤の一覧」を追加で添付することで、薬剤による効果・副作用やQOLへの影響を把握し、治療効果や服薬コンプライアンスを向上させることにつながっています。

事例5│医療介護情報連携ツール「つながりノート」を通じた多職種間の情報共有

大学と市、医師会が協働で医療介護連携ノート「つながりノート」を作成し、多職種連携の重要なツールとして運用を行っています。重要事項は「情報共有連絡票」に記載して連絡し合うなど、多職種との連携を図ることで、顔が見える関係を構築することにつながっています。

薬剤師の役割として、多職種間の情報共有の枠組みの中に医薬品の専門家が参画することで、薬物療法の向上に貢献することが期待されています。ツールの運用に貢献するとともに、薬剤師へのツールの周知にも取り組んでいます。

※参照データ 厚生労働省【地域包括ケアシステムにおいて 薬剤師・薬局が参画している好事例集】

日本の未来を担う地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステムとは、少子高齢化や医療制度の改革、医療費の抑制などのさまざまな背景から、高齢者や慢性疾患を抱える方でも住み慣れた地域や自宅で療養を続け、自分らしく暮らせる仕組みを整えるケアシステムのことをあらわしています。

医療と連携することも重要であり、地域医療の窓口として薬局の役割も大きくなりつつあります。薬剤師は、医師や看護師などの多職種や地域の職員などの担い手と連携して、患者さまのケアに当たらなくてはなりません。

自身の役割を見つめなおし、地域包括ケアシステムの実現に力を発揮することが求められているのです。

ファルマラボ編集部

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記事掲載日: 2019/03/18

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