業界動向
2020.11.13

病院薬剤師の仕事とキャリア「病院でジェネラリストの基盤を確立する」<柴田ゆうかインタビュー 第1回>

病院薬剤師の仕事とキャリア「病院でジェネラリストの基盤を確立する」<柴田ゆうかインタビュー 第1回>

ドラマ『アンサング・シンデレラ〜病院薬剤師の処方箋〜』でも一躍話題となった病院薬剤師。ドラマで様々な薬剤師の葛藤や苦悩する姿が取り上げられ、病院で働く薬剤師の仕事に対しより深く興味を抱いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

"病院に勤めている薬剤師"は、「病院薬剤師」という言葉で一括りにされがち。しかし、実際に業務内容や役割はそれぞれ配属される部署によって大きく異なるのです。

連載第1回目では、製薬会社や保険薬局、介護療養型医療施設での経験を経て、大学病院で薬剤師としてのキャリアを積まれている柴田ゆうか【しばた・ゆうか】さんに、病院薬剤師の仕事やキャリアについてお話を伺いました。

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病院薬剤師の仕事とは?入職後の流れと教育体制

病院薬剤師の仕事内容について教えてください。

病院は部署が細かく分けられていて、それぞれ配属される場所で仕事内容も大きく変わります。例として、広島大学病院の場合をご説明しますね。

まずは「薬品管理室」。薬の安定供給のために各所との調整を行う部署です。たとえば直近でいうと、1〜2月は新型コロナの影響で、中国やイタリアでつくっている薬の原料の供給が不安定になる可能性があったので、医薬品供給を継続させるためにはどうすればよいのかを考え策を講じていました。

次に「製剤室・外来化学療法室」は、抗がん剤調製をする部署です。ドラマ「アンサング・シンデレラ」でも「がん患者を救うために調製する病院薬剤師の醍醐味」といったセリフがありましたね。がん化学療法が安全に行われるように処方監査から調製、副作用モニタリングまで行います。

「調剤室」は、患者さんへ最適な調剤をする部署です。調剤の一部をロボット導入で効率化し、処方箋や薬歴のチェック、対人業務の充実など薬剤師業務をより高度化する工夫をしています。

また「製剤室」は、製品になっていない薬をつくる部署です。たとえば患者さんが甲状腺ホルモンの薬を飲めないときは、その注射製品がないので薬剤部で注射薬をつくるんです。病院の薬剤部でつくっている薬のなかでとくに必要なものは製品になることもあり、甲状腺ホルモンの注射薬も2020年6月に市販化されました。

それから「DI(ドラッグインフォメーション)室」は、薬の情報提供を行う部署です。国内外の規制当局の発表やデータベースから情報を速やかに収集、評価し、患者さんや医療者に提供しています。

さらに薬剤部以外の院内組織として、「臨床研究や治験を管理・支援するセンター」や「感染制御部」、「医療安全管理部」という部署にも薬剤師が配属されています。私は医療安全管理部という部署に所属し、病院長直轄の組織で、重大事象が起きたときの対処や小さなエラーを大きな事故につなげないための対策など日々患者さんの安全を守るために働いています。病院薬剤師と一口にいっても、本当に仕事の幅は広いです。部署によって求められる専門性も大きく違いますね。

なるほど。「病院薬剤師」と一括りにされがちですが、やることも配属される部署によって異なるのですね。部署への正式な配属は、自身の希望も考慮されるのでしょうか?

すべて希望通りには難しいですが、できるだけ個人の意向に沿えるよう考えて配属されます。『アンサング・シンデレラ』の主人公・葵みどりのように「患者さんと密にかかわりたい」という方もいますし、「自分の専門性をコツコツ磨きたい」と考える方もいるので、それぞれの考えや適性で部署配置されています。

広島大学病院では1年目に部署をローテーションする仕組みがあり、調剤を経験したり、製剤室で輸液の調製をしたり、DI室で医薬品情報の提供手順を勉強したり、病棟業務として患者指導記録を学んだり......。1年かけて現場で必要な知識や技術を学習できるシステムになっていて、その後それぞれの部署に配属されます。もちろん専門性を高めていくことは重要ですが、ジェネラリストの視点も絶対に必要なので、「一通り行えるようになってほしい」との思いで教育体制が組まれています

また、メンター制度で医療人としての成長をフォローしていく仕組みもあります。教育体制はだいたい入職5年目ほどでやりたいことを見つけ、スペシャリストの道に進めるように意識されています。毎月様々な専門認定薬剤師の講義がありますし、処方解析講義もあるので、専門分野で活躍する先輩たちから色々な話を聞いて、やりたいことを見つけやすい環境があると思います。

病院薬剤師のキャリア形成

柴田ゆうか先生

病院薬剤師を経験することで、どのようなスキルが身につきますか?また、どのように成長できますか?

医療の共通言語を学べる点や、薬物療法決定のプロセスや患者さんの流れなど、医療の仕組み全体を知ることができる点がスキルアップにつながると思います。保険薬局に入って、ブラックボックスの病院からいきなり処方箋がポンって来たら怖いと思うんです。でも、病院薬剤師をやっていると、病院のなかで医者や看護師がどうやってリレーションをして、薬剤師がそこにどうかかわっていて、どういう流れで処方箋が出ているのかイメージができるようになります。

たとえば造影剤アレルギーの患者さんって結構いて、おくすり手帳にも記載がありますが、「何の造影剤なのか。どれくらいの重症度だったのか」まで書いてないと、病院ではどの造影剤を使っていいのか、そもそも造影剤使用検査をすべきでないのか評価できないのです。そういうことを知っていると、アレルギー情報ひとつでも、このおくすり手帳を見るほかの医療者のためにどのように書けばいいかが想像できます。多様な視点を身につけるのは、薬剤師の仕事においてとても重要な意味をもちますし、医療全体を学べるのは病院薬剤師ならではだと思います

では、病院薬剤師として働くことでキャリアはどのようにして積むことができますか?

薬剤師としての成長やキャリアは、「どれだけ医師や看護師などの医療従事者とディスカッションしたか」と比例してくると思うんです。医療者同士でどれだけ医療に対する認識を共有しているかが経験としてすごく大事ですが、接点がないと難しすぎる。たとえば保険薬局では「疑義照会をすべき」と言われますが、顔も見えない、組織も違う状況ではとても難しいですよね。よい制度なのに、心理的ハードルが高すぎるんです。

でも病院だと、医師の時間に余裕のあるタイミングをみながら、処方意図の確認をしたり、連携が取りやすいのです。薬剤師のレベルアップには、医師や看護師とどれだけ薬物治療についてディスカッションしたかが重要なので、他職種が近くにいる点でも病院は成長しやすい環境だと思います。

具体的に、どのようなキャリアを歩んでいる方がいるのか教えてください。

広島大学病院を例にすると、保険薬局で4年働いてからがんの専門を取るために大学病院に来たSさんの場合。今はがん専門薬剤師として、がんの化学療法委員会でレジメン作成に関わり、オンコロジーカンファレンスでディスカッションをしたり、地域のがんサロンに出て患者さんのフォローをしたり......。院内外を問わず、多方面で活躍しています。

また、Yさんは20代で救急認定薬剤師を取得し、救命救急センター専従薬剤師として救急医療に携わっています。加えて、災害時に派遣される医療チーム(DMAT)に所属して、広島の土砂災害、熊本の地震時に医療活動、支援を行いました。そのほかに企業で薬の開発職を2年経験したあとに病院薬剤師として入職したIさんは、今は心不全のチームで患者さんの再入院を減らすために活動しています。

さらにDI室のTさんは、情報を吟味することに長けていて、たとえばメーカーさんから新薬の連絡が来たときも、よい情報だけを出していないか、批判的な目で情報を見て公正に議論できます。薬の安全性を守る砦として、強い責任感を持っている方で私は絶対的な信頼をよせています。

「病院薬剤師」としてそれぞれの専門性を持ち、活躍されている方がたくさんいらっしゃるのですね。何より柴田さんが同僚を本当に尊敬している気持ちが伝わりました。

同じ病院薬剤師でも、一人ひとり異なるバックグラウンドを持っていますし、様々な方面で活躍している方がいて、本当に尊敬できる人ばかりです。ロールモデルとなる方も多いので、若手の薬剤師にとっても刺激になるよい環境が整っていると思います。

病院勤務は「多忙」「低賃金」?マイナスなイメージが先行する理由

魅力ある病院薬剤師ですが、「多忙」「低賃金」というイメージがどうしてもついています。これには、どのような理由があるとお考えでしょうか?

通常業務に加えて勉強会や当直もあるので、多忙というイメージは当たっているかもしれません。でも、給料についてはほかの職場と比べて少ないとも限らず、生涯賃金で考えると変わらないかもしれません。ただ、とくに奨学金を受けていた学生さんは、返済のために初任給が高い職場に流れる傾向は少なからずあるでしょう。

薬学部の学費は、私立では一般的に1,200万円くらいかかります。通っている学生さんには貸与型奨学金を受けている人も多いので、病院に行きたいと考えていた方も、まずは若手の頃の給料が高い薬局やドラッグストアを選んでいるのが事実だと思います。

薬局には様々な制度があって、何年か勤めたら奨学金の返済を請け負ってくれたり、家賃や光熱費を負担してくれたりするところもあります。病院はそのような制度がないので、初任給の高さや制度の充実を考えると、薬局を選ぶ学生が多くなるのはわかります。

はじめはどのような基準で就職先を選べばいいのかわかりませんし、明確に見える条件で選んでしまいますよね。

そうですよね。それから病院があまり選ばれない理由には、"学生さんと病院薬剤師が寄り添える機会が少ない"ことも原因だと思います。薬学部のある多くの大学では就職のための合同説明会を行いますが、薬局やドラッグストアの多くが出展するのに比べ、病院はそういったところになかなか出展ができていません。学生さんからしたら病院に興味があっても、実際にそこで働いている先輩の意見を聞く機会も、体温を感じる機会もない。ホームページの紹介だけでは不十分で、情報が足りていないのだと感じています。

また、大病院は昔からの習慣で、黙っていても優秀な学生さんが来ると潜在的に考えているのかもしれません。もっと「こんなキャリアがあるよ」「こんな教育体制があるよ」って学生さんに伝えていかないといけないし、伝える努力が必要です。何もしなければ学生さんは薬局やドラッグストアにどんどん行ってしまうので、危機感を持たないといけませんね。

「責任」がやりがいと自己肯定感を生む

柴田ゆうか先生

柴田さんが病院薬剤師になったのには、何かきっかけがあったのでしょうか?

実は、私ははじめから病院薬剤師を目指していたわけではありません。就職した当時は、製薬会社に入りました。その後結婚を機に皮膚科の門前薬局に転職し、そこではじめて薬剤師らしい仕事をしました。軟膏を混ぜたりして、「研究所みたいだな、お料理みたいだな」と楽しかったです。妊娠しなかったら、ずっとそのまま保険薬局にいたかもしれませんね。

妊娠を機に、仕事を辞める選択をされたのですね。

はい。でも、子どもが3ヶ月の頃に「また働きたい」「世の中に関わっていきたい」と思うようになったんです。それで仕事を探したらたまたま託児所付きの介護療養型医療施設があったので、最初は週2日でパートをはじめました。それから半年ほどで正社員になったのですが、こうして振り返ると行き当たりばったりですね(笑)。だから今私が病院にいるのは本当にちょっとしたきっかけで、巡り合わせだったのだと感じています。

「多忙」というイメージから、入職するときに抵抗はありませんでしたか?お子さんがいらっしゃるとさらに不安な点かなと思うのですが......

そうですね。週2日勤務というのと、託児所がついていたというのがキッカケなのですが、そのあとも続けられたのはすごく働きやすかったからなんですよね。看護師さんたちもみんな子どもを預けていたので後ろめたさのようなものも感じませんでしたし、母乳をあげる時間には仕事中に行かせてくれて、とても両立しやすい環境があったんです。

確かに病院は忙しいし、医師や看護師などの医療従事者、患者さんなど様々な立場の方と深くかかわる必要があるので、しんどくなることもあります。でも、それ以上に責任とストレスって実はトレードオフで、責任があることで大きなやりがいや自己肯定感につながります。病院は、医療人としての礎、ジェネラリストとしての基盤を確立するところだと思います。教育機関として病院でしかできないことがあるので、幅広いスキルを身につけたいと少しでも思ったら、不安になる前に一度チャレンジしてみてほしいと思っています。

では、柴田さんが病院薬剤師になって感じた、薬剤師の仕事のやりがいと魅力を教えてください。

人って、社会に貢献して自分の居場所を感じる部分がありますよね。これは病院薬剤師に限りませんが、薬剤師は「誰かのためになっている」と実感できるとても幸せな仕事だと思います。薬剤師のみなさんには、仕事を通してそれをしっかりと感じてほしい。それから、薬学の英知は大昔から少しずつ積み上げられていて、私たちも今、それを積み上げているのだと思ったら、ロマンだなと思います。昔からある仕事を脈々と受け継いでいけるのも、薬剤師の魅力ですよね。

それから病院薬剤師については、日本病院薬剤師会が学生さん向けに作成している「病院薬剤師の招待」に、たくさん書いてあります。「自分が提案した薬物療法が取り入れられる」「チーム医療の一員だと実感できる」「とにかく勉強できる」「カルテが見られる」「研究ができる」とか、本当にたくさん。それにもぜひ、目を通してほしいですね。......最後、宣伝みたいになっちゃいましたけど(笑)。

まとめ

実際に病院薬剤師として働いている柴田さんのお話を伺い、これまで描いていた病院薬剤師のイメージと異なる点があった方もいらっしゃるのではないでしょうか。顔見知りの限られた人数で業務を行う保険薬局とはまた違い、様々な専門分野の薬剤師が在籍する病院。

自身の将来的な目標を定めたり、なりたいロールモデルを探したり......。病院薬剤師はキャリア形成において、ほかの業態ではできないキャリアの育成が可能な場所だということがわかりましたね。

次回、第2回目では、「病院薬剤師とチーム医療」をテーマにお話を伺います。実際に病院ではどのような職種間連携が行われているのか、柴田さんのご経験からお話を伺います。

▼▼ 柴田ゆうかさんのインタビュー一覧


第1回 病院薬剤師の仕事とキャリア「病院でジェネラリストの基盤を確立する」
第2回 病院薬剤師とチーム医療「知識よりも大切なこと」
第3回 臨床で磨く病院薬剤師のキャリア「私たちが薬物療法を変えていく」
柴田ゆうかさんの写真

    柴田ゆうか(しばた・ゆうか)さん

広島大学病院医療安全管理部。大学卒業後、製薬会社、保険薬局勤務を経て病院に勤務。薬剤師業務の傍、患者志向で基礎および臨床薬学研究も続ける。2008年度ファイザーヘルスリサーチ財団若手研究者助成、2010年度日本薬学会課題論文優秀賞、2011年度、2012年度厚生労働省チーム医療実証事業助成、2019年度日本医療薬学会Postdoctoral Award、2019年度日本薬学会中国四国支部奨励賞受賞。

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記事掲載日: 2020/11/13

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