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  • 公開日:2022.07.11

片頭痛予防の抗体医薬「エムガルティ」とは?在宅自己注射の処方における注意点も解説

片頭痛予防の抗体医薬「エムガルティ」とは?在宅自己注射の処方における注意点も解説

片頭痛の治療は、発作時の症状を軽減、消失させる"急性期治療"と発作の発症を抑制する"予防療法"に分けられます。前者には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やトリプタン系薬剤があり、後者にはバルプロ酸Na、プロプラノロール、ロメリジンなどがあります。しかし、十分な効果が得られないほか、副作用などの問題があり、十分な治療が行われているとはいえませんでした。

エムガルティは、2021年4月に日本イーライリリー株式会社より発売された片頭痛発作の発症を予防する治療薬(注射薬:1回/月)であり、発作時の治療だけでは日常生活に支障をきたしてしまう患者さまに使用されます。片頭痛発作の誘発に関与しているカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)をターゲットにした新しいタイプの薬剤で、「頭痛の診療ガイドライン2021」においては最も有効な片頭痛予防薬とされるGroup1に分類されています。

2022年5月1日より在宅自己注射も可能となったことから、これまで以上に処方の幅がひろがり、患者さまや医療関係者からの注目が集まっています。

この記事では、エムガルティの詳細や在宅自己注射の導入における注意点について詳しく解説していきます。

片頭痛予防の新薬「エムガルティ」とは

片頭痛予防の新薬「エムガルティ」とは

エムガルティは、2021年4月26日に発売されたヒト化抗CGRPモノクローナル抗体で、新規作用機序をもつ片頭痛発作の発症を抑制する薬剤です。ここでは、投与対象となる患者さまや効果、副作用、薬価について解説していきます。

エムガルティの投与対象となる患者さま

最適使用推進ガイドラインによると、エムガルティの投与対象となるには下記の条件を満たす必要があります。

投与の要否の判断にあたっては、以下の1~4のすべてを満たす患者であることを確認する。

  1. 1.国際頭痛分類(ICHD第3版)を参考に十分な診療を実施し、前兆のある又は前兆のない片頭痛の発作が月に複数回以上発現している、又は慢性片頭痛であることが確認されている。
  2. 2.本剤の投与開始前3カ月以上において、1カ月あたりのMHD(※1)が平均4日以上である。
  3. 3.睡眠、食生活の指導、適正体重の維持、ストレスマネジメント等の非薬物療法及び片頭痛発作の急性期治療等を既に実施している患者であり、それらの治療を適切に行っても日常生活に支障をきたしている。
  4. 4.本邦で既承認の片頭痛発作の発症抑制薬(プロプラノロール塩酸塩、バルプロ酸ナトリウム、ロメリジン塩酸塩等)のいずれかが、下記①~③のうちの1つ以上の理由によって使用又は継続できない。
     ①効果が十分に得られない
     ②忍容性が低い
     ③禁忌、又は副作用等の観点から安全性への強い懸念がある

抜粋:最適使用推進ガイドラインガルカネズマブ(遺伝子組換え)

※1 MHD...片頭痛または片頭痛の疑いが認められた日数

また、月1回投与する注射薬であり、開始後1カ月で効果が期待できることから、アドヒアランスが悪い、頻繁な片頭痛発作に伴う悪心・嘔吐が原因で服薬が困難である、既存の薬剤の効果発現期間(2~3ヶ月)まで我慢できないなどの患者さまではメリットが大きいと考えられています。

期待できる効果

片頭痛の発症機序については、何らかの誘因により、三叉神経終末からCGRPやサブスタンスPなどの血管作動性の神経ペプチドが放出されるため、頭蓋内外血管拡張とともに、血管周辺に神経性炎症、血管透過性亢進などが生じて起こると推測されています(三叉神経血管説)。

エムガルティは、CGRPのモノクローナル抗体であり、片頭痛の症状を引き起こすとされる抗原のCGRPに結合し、その生理活性を阻害することにより、片頭痛発作の発症を抑えると考えられています。エムガルティを投与することにより、片頭痛日数が減る、急性期治療薬を使う日数が減る、頭痛が続く時間が短縮するといった効果が期待できます。

想定される副作用、相互作用、妊婦・授乳婦への投与

エムガルティのおもな副作用として、注射部位の症状(痛み、紅斑、かゆみ、内出血など)が報告されています。多くは注射した日に出現し、数日以内に消失します。また、重大な副作用として、アナフィラキシーを含む重篤な過敏症反応が起こる恐れがあることにも注意しましょう。そのほかには、回転性のめまい、便秘や皮膚(かゆみ、じんましん、発疹など)などの症状が報告されています。

エムガルティはタンパク質であり異化経路によってペプチド断片およびアミノ酸に分解されるため、他剤との相互作用、また、肝・腎障害患者への投与は注意喚起されていません

なお、エムガルティは、胎盤通過や母乳に移行する可能性がありますが、データが不十分であるため、妊婦や授乳婦には有益性投与となっています。

薬価・治療期間

エムガルティの薬価 (2022年6月17日以降) は、以下の通りです。

エムガルティ皮下注120mgオートインジェクター 44,943円/キット
エムガルティ皮下注120mgシリンジ 44,811円/筒

エムガルティは、すみやかに定常状態に到達させるために初回に2本を注射します。それ以降は1か月間隔で1本注射します。初回に2本注射した場合の薬剤費の自己負担(※2)は病院によって多少の違いはありますが、3割負担で約27,000円、2か月目以降は1か月あたり約13,500円と、治療にかかる費用は従来の内服薬に比べて比較的高価です。

3ヶ月使用しても改善が見られない場合や、頭痛発作の消失、軽減などにより日常生活に支障が出なくなった場合には、投与中止が検討されることがあります。

※2...薬剤費に加えて、診察代等の処方にかかる費用の負担も必要です。

エムガルティが在宅自己注射の対象に

エムガルティが在宅自己注射の対象に

エムガルティを使用できる施設要件としては、「頭痛診療に5年以上の臨床経験を有する専門医が治療の責任者として配置されること」が抗CGRP抗体および抗CGRP受容体抗体の最適使用推進ガイドラインで求められています。

これにより、近隣に専門医が在籍する施設がない場合、患者さまが1か月1回来院するのが大きな負担となるほか、専門医が在籍する施設では、片頭痛の外来診療が増加し、量的に切迫しているところもあります。

そうしたなかで、2022年4月13日の厚生労働省 中央社会保険医療協議会(中医協)総会にて、ガルカネズマブ(商品名:エムガルティ)を在宅自己注射が可能な薬剤に追加する方針が了承されました。つまり、同薬は、同年5月1日から保険医が処方箋で投与することができ、在宅自己注射指導管理料の対象となります。

エムガルティの在宅自己注射が可能となることで、抗体医薬を用いた片頭痛予防治療が実施しやすくなるほか、既に治療中の患者さまにおいても通院負担の軽減が期待されています。

在宅自己注射の導入における注意点

在宅自己注射の導入における注意点

エムガルティの投与方法には、医療機関で医師が注射する方法と、自宅で患者さまが自己注射する方法の2種類があります。ここでは、医師の判断で患者さまによる在宅自己注射が導入される場合に薬剤師が留意すべき点について解説します。

在宅自己注射の適切な手技を確認する

エムガルティ皮下注120mgオートインジェクターは、1回使い切りの注射剤です。患者さまが、医療機関で投与方法や注意点などの適切な在宅自己注射教育をうけ、主治医から許可されることで使用が可能となります。薬剤師は、注射方法や注意点について、指導せんや取扱説明書を参考にして、正しい使用方法を指導できるようにしましょう。

▼片頭痛治療薬の情報提供サイトはコチラ
指導せん:エムガルティを使用される患者さんへ
取扱説明書

使用済み薬剤の廃棄処理方法について指導する

使用済みのオートインジェクターは、「医療廃棄物」として取り扱われます。安全性を考え、注入器は使用後に針が自動的に本体内に戻るように設計されていますが、廃棄する際は針が露出していないことを確認する必要があります。また、専用の廃棄用キャップをはめ込むか、ふたのできる穴の開かない廃棄容器に入れ、次回受診の際に医療機関に持参するように指導しましょう。

エムガルティの在宅自己注射により治療の選択肢がひろがる

2021年には、片頭痛治療薬として新しい作用機序を持つ抗体医薬が相次いで上市されました。本稿で解説したガルカネズマブ(商品名:エムガルティ)のほかにも、フレマネズマブ(商品名:アジョビ)やエレヌマブ(商品名:アイモビーグ)など、治療の選択肢は大きくひろがっています。

エムガルティの在宅自己注射が認められたことで、専門医が在籍する施設が近隣にない場合でも、通院負担の軽減が期待されています。患者さまにエムガルティについて質問された場合に説明できるよう、薬剤師として知識を身につけておきましょう

前原 雅樹さんの写真

監修者:前原 雅樹(まえはら・まさき)さん

有限会社杉山薬局小郡店(福岡県小郡市)勤務。主に精神科医療に従事し、服薬ノンアドヒアランス、有害事象、多剤併用(ポリファーマシー)などの問題に積極的に介入している。

2019年、英国グラスゴー大学大学院臨床薬理学コースに留学(翌年、同コース卒業)。日本病院薬剤師会精神科専門薬剤師、日本精神薬学会認定薬剤師。

そのほか、大学非常勤講師の兼任、書籍(服薬指導のツボ 虎の巻、薬の相互作用としくみ[日経BP社])や連載雑誌(日経DIプレミアム)の共同執筆に加え、調剤薬局における臨床研究、学会発表、学術論文の発表など幅広く活動している。

記事掲載日: 2022/07/11

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