業界動向
  • 公開日:2022.06.13

薬剤師なら知っておきたい!「調剤報酬改定2022」を分かりやすく解説

薬剤師なら知っておきたい!「調剤報酬改定2022」を分かりやすく解説

2022年4月1日より施行された2022年度調剤報酬改定。対物業務から対人業務へのシフトにあわせて報酬体系が刷新されたことや、地域支援体制加算の細分化、リフィル処方箋の導入など、大きな変化があった改定です。調剤報酬改定は、調剤薬局の運営に大きな影響を与えることはもちろん、薬局薬剤師は算定要件を確認しながら業務を行う必要があり、患者さまから調剤報酬についての問い合わせがあったときにも、十分説明できるよう理解しておかなければなりません。

この記事では、薬剤師が知っておくべき調剤報酬改定のポイントや、おもな変更点を解説します。

診療報酬改定とは

診療報酬改定とは

診療報酬とは、医療機関が患者さまに対して医療サービスを提供したときに、対価として受け取る報酬のこと。一般的な商品やサービスは提供者によって価格が定められますが、診療報酬は国が細かく点数を定めており、医療の進歩や時代によって変動する日本の経済状況などを踏まえて、2年に一度見直し(診療報酬改定)が行われています。

診療報酬のうち、保険調剤を行ったときの報酬が調剤報酬となります。今回の改定では、診療報酬全体では+0.43%のプラス改定ですが、調剤で+0.08%、薬価で▲1.35%となりました。

調剤報酬改定のポイント

調剤報酬改定のポイント

2022年度調剤報酬改定では、以下の4つのポイントが示されています。

  • 薬局薬剤師業務の対物中心から対人中心への転換の推進
  • 薬局の機能と効率性に応じた評価の見直し
  • 在宅業務の推進
  • ICT(情報通信技術)の活用
  • 参考:令和4年度診療報酬改定の概要【全体概要版】 厚生労働省

    特に、「薬局薬剤師業務の対物中心から対人中心への転換の推進」は、2015年に発出された「患者のための薬局ビジョン」を反映しており、薬局薬剤師業務の評価体系の見直し、そして対人業務の評価の拡充が示されています。

    また、薬局の機能と効率性に応じた評価の見直しや在宅業務の推進、ICTの活用についても、次の項で詳しくみていきましょう。

    おもな変更点は

    主な変更点は

    今回の改定は、報酬体系の見直しや細分化に加えて、リフィル処方箋の仕組みが新たに設けられるなど、押さえておくべき点が多岐にわたります。ここでは主な変更点について解説します。

    「薬剤調製料」「調剤管理料」「服薬管理指導料」の新設、対物業務から対人業務への転換の推進

    対物業務と対人業務を適切に評価し、対人業務への転換を進めるために、薬局における薬剤師業務の評価体系が見直されました。

    これまでの、「調剤料」と「薬剤服用歴管理指導料」が廃止され、調剤技術料には新たに「薬剤調製料」が、薬学管理料に「調剤管理料」「服薬管理指導料」が新設され、薬剤師業務を対物評価、対人評価に細分化した評価体系が導入されました。

    すなわち、薬剤の取り揃え・監査業務などの対物業務は「薬剤調整料」として評価され、内服薬の場合、一律24点となりました。これに対し、患者情報などの分析・評価、処方内容の薬学的分析や、調剤設計、調剤録、薬歴などの対人業務は「調剤管理料」として評価され、内服薬では投与日数に応じ、4段階で点数が算定されることになりました。つまり、お薬を調剤して、患者さまにお薬を渡すまでの過程で、単純に処方箋の通りにお薬を間違いなく取り揃えて渡すまでは「調剤技術料」で評価されます。薬剤師として薬学的専門性を発揮した業務や、個々の患者さまに対応して発揮できる対応力の部分は「薬学管理料」の中で評価されるようになったと考えられます。薬剤師としての薬学的専門性、対人スキルの重要性が増して来ました。

    また、「服薬管理指導料」は廃止された「薬剤服用歴管理指導料」の点数より2点プラスされました。その分、調剤した医薬品の薬剤情報提供、服薬指導や薬剤の交付などの評価に加え、新たに「患者の薬剤の使用の状況等を継続的かつ的確に把握するとともに、必要な指導等を実施すること」という算定要件が追加され、服薬期間中のフォローアップがますます重要なポイントとなってきました。これまでの「お薬を渡して終わり」という薬局業務から、次回診察までの調剤後の患者さまのフォロー、医師への情報提供、フィードバックといった包括的、継続的な薬学的サポートが必須とされるようになりました。

    特に今回の改定では、インスリンなどの糖尿病治療薬の適正使用をフォローアップした際の「調剤後薬剤管理指導加算」が30点より60点と大幅にプラス改定されていることからも、糖尿病治療薬のフォローアップの重要性が強調されています。

    その他、入院予定の患者さまの一元的な服薬管理、情報提供を評価した「服薬情報等提供料3」の新設も行われ、薬剤師が行うべき情報提供の幅も拡充されています。つまり、薬局薬剤師は、入院先の医療機との連携や、地域医療に貢献することも求められているのです。

    参考:調剤報酬点数表(令和4年4月1日施行) 日本薬剤師会作成

    地域支援体制加算の要件と評価の見直し、薬局の機能の見直し

    地域支援体制加算は、調剤基本料の算定と、地域医療への貢献に係る体制や実績に応じて、類型化した評価体系への見直しが行われ、これまで一本化されていた加算が以下のように細分化され、プラス改定されています。地域医療への貢献、薬剤師の対人業務の評価を反映させたものになりました。

    調剤基本料1の要件、つまり①〜③を満たした上で④又は⑤を満たしている薬局では、実績に応じて地域支援体制加算1または2を、調剤基本料1以外の薬局では実績に応じて地域支援体制加算3または4を算定することが可能となります。

    地域支援体制加算の実績要件を、以下の表で紹介します。

    調剤基本料1の薬局 調剤基本料1以外の薬局
    ①〜③を満たした上で、④又は⑤を満たすこと(②④⑤は直近1年間の1薬局あたりの実績)
    ① 麻薬小売業者 免許取得・必要な指導
    ② 在宅実績 12回以上→24回以上
    ③ かかりつけ薬剤師指導料等 要届出
    ④ 服薬情報等提供料と相当する業務 12回以上
    ⑤ 認定薬剤師の多職種間連携会議参加 1回以上
    地域体制支援加算実績要件 地域体制支援加算1(39点) 地域体制支援加算2(47点) 地域体制支援加算3(17点) 地域体制支援加算4(39点)
    調剤基本料1の薬局 調剤基本料1の薬局かつ、(1)〜(9)の内3項目以上満たすこと 麻薬小売業者の免許、(1)〜(9)のうち、(4)及び(7)を含む3項目以上満たすこと (1)〜(9)のうち、8項目以上満たすこと
    (1)時間外加算等及び夜間・休日等加算 400回以上
    (2)薬剤調整料の麻薬加算 10回以上
    (3)重複投与・相互作用等防止加算等 40回以上
    (4)かかりつけ薬剤師指導料等 40回以上
    (5)外来服薬支援料1 12回以上
    (6)服用薬剤調整支援料1及び2 1回以上
    (7)在宅・単一建物診療患者が1人 24回以上
    (8)服薬情報提供料と相当する業務 60回以上
    (9)認定薬剤師の多職種間連携会議参加 5回以上(1薬局あたり)

    ※(1)〜(8)は直近1年間の処方箋受付回数1万回あたりの実績。期間内の処方受付数が1万回未満は、処方箋受付回数1万回とみなす。
    ※(9)は保険薬局あたりの直近1年間の実績

    今回の改定では、これらの要件の中で、在宅の実績要件のみ基準が引き上げられました。つまり、これまで地域体制支援加算を算定できていた薬局は、在宅実績を24回以上に増やす必要があり、在宅業務の推進のため在宅医療への取り組みがよりこれまで以上に必要とされるものになりました。

    さらに、(1)〜(9)項目のうち3項目以上を満たすことで、地域体制支援加算2を算定できるようになりました。在宅に対応した実績があるか、薬剤師として対人業務を行った実績があるか、地域医療に連携できているかが評価される実績条件となっています。

    一方で、これまで調剤基本料1以外だった薬局でも地域への貢献度、対人業務の実績次第で、地域体制支援加算3及び4を算定できるようになりました。

    以上のように、これからの薬局は地域貢献、地域医療への参加、対人業務により力を入れて、専門性の高い薬剤師業務を行い、地域包括ケアシステムに関わっているかどうかが、薬局の運営に大きく影響していくようになると考えられます。

    後発医薬品体制加算の見直し

    今回の改定では後発医薬品の調剤数量割合の基準が以下のように見直されています。後発医薬品の調剤数量割合が高い薬局の評価の見直しも行われました。

    [加算]後発医薬品体制加算

    イ 後発医薬品調剤体制加算1(80%以上): 21点

    ロ 後発医薬品調剤体制加算2(85%以上): 28点

    ハ 後発医薬品調剤体制加算3(90%以上):30点


    [減算]後発医薬品減算(50%以下):▲5点

    参考:調剤報酬点数表(令和4年4月1日施行) 日本薬剤師会作成

    国の方針に沿って、より後発品医薬品の調剤を推進している薬局はプラス改定が見込めます。ただし、基準が引き上げられたことからも分かるように、薬局にはこれまで以上に後発医薬品の調剤推進が求められるようになりました。

    また、減算に対しても改定前の40%以下から50%以下にハードルが上がり、減算も2点から5点に引き上げられ、後発医薬品の調剤推進は薬局機能として必須なものとなりました。

    リフィル処方箋の導入

    2022年度調剤報酬改定では、医師の処方により、医師及び薬剤師の適切な連携の下、一定期間内に処方箋を反復利用できるリフィル処方箋の仕組みが設けられました。これにより、症状が安定している患者に対して、医師がリフィルによる処方が可能と判断した場合に限り、3回を上限に処方箋の反復利用が可能となりました。

    リフィル処方箋を受け付けた場合、薬剤師は継続的な薬学管理の指導のため、同一薬局で調剤を受けるべきである旨を患者さまに伝える必要があります。患者さまの服薬状況などからリフィル処方箋が不適切と判断されれば、調剤せずに医療機関への受診を勧奨し、速やかに医師に情報提供を行います。

    なお、リフィル処方箋は総使用回数の調剤終了時に調剤済み処方箋として保管する必要があります(それまでは写しを保管)。

    リフィル処方箋では、医院の受診頻度が減る分、少量の薬を複数回に分けて受け取る必要があり、薬局の来局数が増える見込みです。そのため、薬剤師は治療経過中の患者さまの、些細な体調変化や、服薬状況、副作用などを注意深く観察、確認し、必要に応じて医師へフィードバックをする必要があります。これまで以上に、薬学的な判断、医療機関との連携が求められるでしょう。

    一方、リフィル処方箋と似た仕組みとして、2016年より「分割調剤」が導入されています。が、同じ処方箋を繰り返し使用できるリフィル処方箋に対して、分割調剤は定められた処方期間を分割する仕組みであり、長期保存が難しい薬剤や後発医薬品を初めて使用する場合などに用いられるため、それぞれの趣旨が異なることに注意が必要です。

    オンライン服薬指導・資格確認(ICT活用)

    オンライン服薬指導は、新設された「服薬管理指導料」に位置付けられ、要件及び評価が見直されました。つまり、「届け出の不要」「月1回の算定上限が廃止」「あらかじめ対面に関する要件の削除」「オンライン診療又は訪問診療の処方箋以外の場合も可能」「算定可能な加算の追加」など、要件や施設基準が緩和されて、幅広い状況で実用性の高いものになりました。

    評価においては、情報通信機器を用いた服薬指導を行った場合について、これまでの43点から、「イ:原則3月以内に再度処方箋を提出した患者 45点」と「ロ:イ)の患者以外の患者 59点」に改定されています。この評価は、対面指導での服薬管理指導料と同点数を算定できることからも、オンライン上でも、薬剤師業務を十分に全うできることを示しています。今後、ICTを活用することで、薬局業務の効率化が図られます。このようにオンライン服薬指導が広く普及すれば、薬剤師業務は服薬指導やオンライン上での対人業務に専念できるものになるでしょう。

    保険薬局におけるオンライン資格確認についても、「調剤管理料 電子的保健医療情報活用加算3点(月1回まで)」が新設されています。オンライン資格確認システムを通じて患者さまの薬剤情報または特定健診情報等を取得し、当該情報を活用して調剤等を実施することに係る評価が盛り込まれました。オンライン資格確認の導入により、事務的な業務、患者情報収集、薬剤情報収集などが効率的に行われ、薬剤師業務の質の向上が期待されます。

    在宅業務の推進

    患者さまの状態に応じた在宅薬学管理の推進を目的に、「在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料」の算定要件が見直され、主治医と連携する他の医師の指示により訪問薬剤管理指導を実施した場合にも算定が可能となりました。これにより、主治医以外の他科処方せんにも対応した在宅患者管理指導が行いやすくなりました。

    その他にも、「在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算(250点)」や「在宅中心静脈栄養法加算(150点)」が新設され、在宅患者訪問時に必要な薬剤の管理、指導の重要性が増えたほか、退院時共同指導について、患者が入院している医療機関における参加職種の範囲として、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、もしくは社会福祉士が追加されて、関係医療機関・医療従事者間の効率的な情報共有や連携がとれるよう促進されました。

    なお、「在宅患者オンライン薬剤管理指導料」、「在宅患者緊急オンライン薬剤管理指導料」、「退院時共同指導料」においても、ICTを用いた場合でも可能とする要件緩和が行われており、効率的に在宅業務が行えるようになってきました。

    調剤報酬改定を通して、調剤について改めて見直そう

    調剤報酬改定を通して、調剤について改めて見直そう

    2022年度調剤報酬改定では、社会の変化や国の方針に基づいて薬局の役割や薬局薬剤師の業務が見直されました。これまでの改定と比べても大きく踏み込んだ内容となっており、押さえておくべきポイントも多くなっています。

    特に、リフィル処方箋の導入は、薬剤師の業務を大きく変化させるきっかけになる可能性もあります。また、これから薬剤師の対人業務を充実させていくためにも、電子薬歴、全自動分包機・監査機などの調剤システムや、積極的なICTの活用などで薬剤師業務を効率化させていくことも重要です。

    今後の薬局のあり方についての方向性も示されているため、日常の業務を改めて見直し、自身のキャリアについて考えるためにも、改めて見直してみることが大切です。

    嶋本 豊さんの写真

    監修者:嶋本 豊(しまもと・ゆたか)さん

    有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)管理薬剤師。主に臨床薬物相互作用を専門とし、書籍(服薬指導のツボ 虎の巻、薬の相互作用としくみ[日経BP社])や連載雑誌(日経DIプレミアム)、「調剤と報酬」などの共同及び単独執筆に加え、学会シンポジウム発表など幅広く活動している。

    記事掲載日: 2022/06/13

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