業界動向
  • 公開日:2023.02.24

「患者のための薬局ビジョン」とは ‐生き残る薬局、薬剤師に必要なこと‐

「患者のための薬局ビジョン」とは ‐生き残る薬局、薬剤師に必要なこと‐

患者さまの役に立つ薬局・薬剤師としてあるべき姿を示した「患者のための薬局ビジョン」について、その内容や背景、薬剤師がすべきことを分かりやすく解説します。

あらためて知っておきたい「患者のための薬局ビジョン」とは

「患者のための薬局ビジョン」とは何か

「患者のための薬局ビジョン」とは、厚生労働省がかかりつけ薬局・薬剤師を基盤とし、理想の薬局像に近づけるための具体的な指針をまとめたものです。

背景にある「患者のためのかかりつけ薬局」の実現

これまで国は、医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担し、国民医療の質的向上を図るべく医薬分業を推進してきました。医薬分業そのものは以前より進んではいますが、薬局はまだ充分な機能を果たしているとは言えない状況にあります。

課題の1つは、かかりつけ薬局としての機能を果たしている薬局が決して多くはないという点。医薬分業の推進により、発行された処方箋を受け取り調剤して患者さまに投薬するという一連の流れである対物業務は定着してきたと言えますが、患者さまそのものへの働きかけである対人業務はまだ充分とは言えません。

2025年には団塊の世代が後期高齢者になり始めます。急速な高齢化に備えて、従来の薬局を訪れる患者さまだけでなく、在宅で療養している患者さまに対する在宅業務、さらに地域の健康をサポートする中核としての存在、かかりつけ薬局としての業務の充実が求められています。このように本来の医薬分業の目的である、「患者のための薬局ビジョン」実現が急務となっています。

「患者のための薬局ビジョン」が目指す薬局・薬剤師の未来像

かかりつけ薬剤師・薬局への進化

かかりつけ薬局として充分に機能するためには、次に挙げる3つの条件を満たしている必要があります。

●立地から機能へ

現在多く見られるのが、処方箋を発行する医療機関の周辺に設置されている、いわゆる門前薬局です。

患者さま1人に対して処方箋を発行する医療機関が1ヵ所だけなら問題はありませんが、患者さまが高齢であるほど複数の医療機関にかかっているケースが。そうした高齢者は、利便性と薬剤の在庫の問題などから、それぞれの門前薬局で薬を受け取る場合があります。

患者さまが一冊のお薬手帳で、服薬情報をすべて管理していれば問題はないのですが、処方箋発行医療機関ごとに手帳を分けている場合、そもそもお薬手帳を持っていない場合もあります。そうした、情報が分散している患者さまに対しては、一括で情報を管理するよう働きかける必要があります。

具体的には、地域に根付いた薬局(面薬局)に務める薬剤師が、たまたま訪れた患者さまのお薬手帳を見て、情報が分散していることに気付いたとします。複数の薬局を利用せず、情報の一括管理に向けて働きかけることが大切です。例えば、「ここの処方箋でしたら、うちの薬局でも受けられますよ。当日お時間がない場合はとりあえずファックスで送っていただいて、処方箋原本は後日お持ちいただければ大丈夫です」といった呼びかけを積極的に行うなど。こうした取り組みが、かかりつけ薬剤師・かかりつけ薬局への第一歩です。

●対物業務から対人業務へ

処方箋を受け取ってお薬を渡す。これだけであれば、従来の薬局と変わりはありません。薬局の外へ出て在宅療養している患者さまのもとへ出向き、患者さま本人の状態もしくは周囲のサポート体制に合わせてきめこまやかな服薬指導を行うといった在宅業務も、かかりつけ薬局の重要な役割です。

患者さまが一人暮らしか介護できる同居者がいるのか、栄養摂取はきちんと行われているかどうか、薬の管理者は本人か介護者か、服用に際して不便に思われていること(例:錠剤が飲み込みにくい)があればその改善策を提案し、かかりつけ医へフィードバックすることも。訪問するたびに患者さまの状態も変化しますので、副作用もしくは体調の変化に注意を払い、かかりつけ医への連絡・相談を勧めることもあります。

このような取り組みは、外来患者さまにも有益です。混雑している時間帯であっても、1つないし2つは確認事項を決めておき、聞き取りを行ないます。次回に備えて内容を薬歴に書き留めておけば、より患者さまの利益につながり、医療機関との連携にも役立ちます。

●バラバラから1つへ

人の流れも情報も、バラバラになっている状態から1つに集約していく。そのために必須ともいえるのが、かかりつけ薬剤師という存在です。診療を受ける医療機関が複数であっても、かかりつけ薬剤師がいればその患者さまの処方内容を一括して管理することができます。

1人の患者さまの専任薬剤師として服薬しているすべての薬を把握し、24時間体制で相談に乗り、その内容によっては医療機関への受診を勧める。服薬状況を確認し、残薬についても病院やクリニックにフィードバックして、保険財政の縮小に貢献する。こうした対応ができるかかりつけ薬剤師の育成を抜きにして、かかりつけ薬局への道はありえません。

健康サポート薬局としての貢献

自分の健康状態に不安を抱くこともあれば、医療機関にかかるべきかどうか迷っているという患者さまもいらっしゃいます。そんな時に気軽に相談に乗ってもらえる"地域の健康相談ステーション"が、健康サポート薬局として求められる機能です。処方箋を持っていなくても気軽に薬局に入れるよう、健康補助食品やOTC医薬品を取り扱い、それだけでもかなりの利益を上げている薬局もあります。

高度な薬学的管理ニーズへの対応

厚生労働省は、専門的な薬物療法を提供可能な体制、つまり「高度薬学管理機能」も強化すべきだと明言されています。具体的には、がんやHIV、難病などの高度なケアを必要とする患者さまに対して、適切な薬学的管理を行えること、ほかの医療機関と連携を取りつつ副作用が生じた場合は担当医師への受診対応を助言したり適切な服薬管理を行えるよう支援したりすることが求められています。

「患者のための薬局ビジョン」を叶える薬剤師になるには

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「かかりつけ薬剤師」を目指す

「かかりつけ薬剤師」になるためには、以下に挙げる3つの条件を満たす必要があります。

●薬局での勤務経験と勤務時間

かかりつけ薬剤師になるには、保険薬剤師として「薬局勤務経験 3年以上」が必要です。さらに、かかりつけ薬剤師の算定を希望する薬局では、「当該薬局の勤務時間 週32時間以上」「当該薬局の在籍期間 継続して1年以上」も条件として求められています

病院薬局など保険医療機関にて薬剤師としての勤務経験が1年以上ある場合は、1年を上限とし保険薬剤師としての勤務経験の期間に含めることができます。たとえば病院から調剤薬局に転職した場合、残り2年分を調剤薬局で勤務し、かつ算定を希望する薬局で週32時間以上&1年以上勤務すると、かかりつけ薬剤師として算定の対象となるということになります。

ただし、在籍期間中に育児休業や産前・産後休暇、または介護休暇などを取得した場合はこの限りではありません。「育児休業などの期間を除いた通算の期間が1年または3年以上であれば要件を満たす」とされているため、育児休業前に1年以上在籍または3年以上勤務の場合は復帰した時点で条件を満たすこととなり、算定の対象となります。

●認定薬剤師の認定取得

かかりつけ薬剤師には「薬剤師認定制度認証機構が認証している認定薬剤師の取得」が必要です。認定薬剤師には、生涯研修認定制度・特定領域認定制度・専門薬剤師認定制度といった生涯学習の一環的なものから、特定の領域や専門分野に特化したものまでさまざまな種類があります。

制度によって認定試験が必要なものとそうでないものがあり、専門性が高くなってくると特定の学会への加入を求められるケースもあります。かかりつけ薬剤師を増やすことは薬局の収益アップにもつながるので、認定薬剤師取得のために勤務先から補助が出るケースもあるでしょう。どの資格を取ったらいいのか迷う場合は、勤務先に確認するのがおすすめです。

●医療に係る地域活動への参加

厚生労働省の示す見解をまとめると、かかりつけ薬剤師は「行政や薬剤師会の主催する公的な活動を行う」必要があります。具体的には、地域行政や医療関係団体などが主催する講演会への参加、地域で多種職連携による研修会への参加や演者としての実績、休日夜間薬局としての対応や休日夜間診療所への派遣などが該当します。

対物から対人へ ~「患者フォローアップ」の義務化~

「患者フォローアップ」はかかりつけ薬局・薬剤師の重要な職能の1つですが、2016年度診療報酬改定で導入された当初は努力義務でした。2020年9月に改正薬剤師法並びに薬機法が施行され、「患者フォローアップ」は努力義務から義務へと変更。さらに2022年度の診療報酬改定では「患者フォローアップ」への報酬も定められています。

今後、薬局薬剤師として働いていく際に避けては通れない「患者フォローアップ」の流れを追っていきます。

「患者フォローアップ」は、3つの段階からなるサイクルを繰り返していきます。

1.初回来局時

初回アンケートをお願いして患者情報・薬剤服用歴・既往歴を確認します。 お薬手帳をお持ちであれば、お預かりして現在服用している薬剤を確かめることも重要。アンケートと手帳がそろっていれば、この時点で今後の対応や次回以降のおおまかなフォローアップ計画を立てることができます。

2.薬剤交付から次回来局まで

初めて来局された患者さまの場合、薬剤交付時の聞き取り特に重要です。今回の処方されたお薬は初めてか、それともすでに他医療機関から処方を受けていたが紹介などにより処方元が変わったのか。相手の理解度に応じて服薬状況や生活状況を聞き出していきます。

これからより的確なフォローアップ計画を作成するためにも、ヒアリングしたことは薬歴として確実に記載し、次回来局時に備えましょう。患者さまによっては次回来局前にフォローアップのため連絡を取ることもあるでしょう。

3.次回来局時

実施したフォローアップの成果について、確実に服用できているかどうか、副作用の有無(体調に変化は無いか)、また併用薬が加わっていないかどうかなどの確認と評価を行います。

質問をする際に重要なのは、極力専門用語を避けて平易な言葉で穏やかに語りかけること。また、相手が快く回答できるように言葉を選ぶことです。

例えば、「お薬の飲み忘れはありませんか?」という言い回しは、相手の性格によっては素直に回答してもらえない可能性があります。「いいえ」と答えると、患者さまが自身の非を認めたことになるからです。「お薬の中で、ほかのものより余っているものがありませんか?」という聞き方であれば、「これ、1日3回だけど昼の分を飲み忘れることが多くて」といった素直な回答を得やすいでしょう。この時点で飲み忘れた際のアドバイスをすることもできますし、「残薬が多い場合は次回先生に日数を調節してもらうといいですよ」というように次回来局に向けてのフォローアップをすることができます。

職種ごとに求められているビジョンを知る

●薬局薬剤師

「患者のための薬局ビジョン」実現の中核として、すべての薬局がかかりつけ薬局となること、ほかの医療機関との連携をより密接にしていくことが求められています。

●病院薬剤師

外来患者の処方箋発行についての事前チェックはもちろん、処方箋受付先の薬局からの問い合わせに対応することもあります。その際に得た情報を院内の医療関係者へフィードバックし、共有していくことも重要です。

入院の際は患者さまがこれまで服用していた薬剤やおくすり手帳を持ち込むことがありますので、情報を整理整頓して病棟と共有していきましょう。入院中や退院時の服薬指導は、薬薬連携の一環として重要です。退院後に外来患者として来局した場合、病院薬剤師の指導内容をまとめた資料があれば今後のフォローアップ計画を立てやすくなるからです。

●製薬勤務薬剤師

MRで薬剤師資格を持っている人もいます。医療関係者への医薬品情報提供・新薬発売に際しての勉強会の実施・発売後の副作用情報収集など、メーカーと医療機関を結ぶキーパーソンとして引き続き高い需要があります。

製造販売においては2005年に「総括製造販売責任者」制度が導入され、薬剤師であることがその資格要件となりました。医薬品の品質や安全面を総括的に管理することになるわけですが、中規模以下の企業では有資格者の育成が充分でなく、社内での位置づけが曖昧で理解が周知徹底されてないことが多い点が今後の課題のひとつです。

研究職については必ずしも資格が必要というわけではなく、薬学部以外で学んだ人材も活躍していますが、薬学部を含めた昨今の医療関係の学部は臨床現場をより意識した教育を受けています。6年制課程出身の薬剤師は実習段階で製薬メーカー・薬局・病院での実習を義務付けられており、医薬品の製造から使用まで一連の流れを総合的に見ることができるため、研究部門で活躍していくことが期待されています。

●卸勤務薬剤師

医薬品卸業は、製薬メーカーや医療用品メーカーと医療機関を橋渡しする存在。数多くの医薬品や医療用品を扱うため、薬事法に基づき管理薬剤師を配置しなくてはなりません。

単なる物流管理者ではなく、災害時の緊急用医薬品の備蓄・管理、季節により使用量が変動する医薬品(例:アレルギー関連薬品やインフルエンザワクチンなど)の在庫管理など、卸勤務の薬剤師が担うべき領域は多岐にわたります。

2025年に向けた「患者のための薬局ビジョン」の今

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かかりつけ薬局の増加と課題

かかりつけ薬局であるための必須条件は「保険調剤を行える薬局であること」「かかりつけ薬剤師として契約を結び得る薬剤師が存在すること」。その点では保険薬局数は増加傾向にあり、2011年には54,780施設であったものが2020年には60,951施設を数え、10年弱で約1万件増えています。また、薬局側も勤務する薬剤師にかかりつけ薬剤師としての資格を備えるようサポートをしているところが多いため、こちらも問題なく推移するでしょう。

薬剤師自身がかかりつけ薬剤師の契約について不安に思うのは、24時間対応をしなければならないことでしょう。ある程度の規模でチェーン展開をしている薬局はともかく、小規模で人員不足の薬局の場合は、地域の薬剤師会などと連携を図りつつ解決していく必要があります。

今後の課題は、残る2つの機能である健康サポート薬局が2022年9月末で3,026施設、地域連携薬局の条件を満たしている施設が2021年7月末で2,916施設と、充分な数を満たしていない点。そもそも2021年2月の内閣府によるアンケート「薬局の利用に関する世論調査」によれば、患者・利用者の91.4%は健康サポート薬局を「知らなかった」と回答しており、利用者自身が健康サポートやかかりつけについてのメリットを熟知していない点が問題です。こちらに関しても地道な啓蒙活動が必要でしょう。

「患者のための薬局ビジョン推進事業」のモデル事例

ICTを活用した地域の先進的な健康サポート推進事業として、沖縄県の電子版お薬手帳導入助成事業があります。

現在、お薬手帳には従来の紙製のものとスマホのアプリなどを利用した電子版のものがありますが、電子版にはいくつか種類があり、そもそも対応していない薬局も存在するのが現状。ですが、沖縄県と沖縄県薬剤師会は協力して導入システムを統一し、地道な啓蒙活動を行っています。

多職種連携による薬局の在宅医療サービス等の推進事業としては、福岡県のトレーシングレポート共有化システムがあります。

かかりつけ医をはじめとする多職種がかかりつけ薬剤師・薬局の作成したトレーシングレポートをインターネット経由で共有し、それに対して回答をするなど、双方向のコミュニケーションを可能にしている点がユニークです。

2022年度の調剤報酬改定で変わったこと

主に以下の3点です。

●「かかりつけ薬剤師」という文言が明記された

今後、薬局薬剤師が目指す方向性をはっきり示したという点で画期的です。かかりつけ医が存在するのと同様に、かかりつけ薬剤師が健康相談や服薬管理などの職能を通して患者さまのために活動していくという具体的な道筋が書かれています。

●薬薬連携

薬局薬剤師と病院薬剤師が患者さまの利便性と健康増進を目的として情報共有し、連携して活動していくことが掲げられました。

入院患者は退院後、外来患者となって薬局に通うことになります。薬局薬剤師は必要と判断したら退院後の服薬状況について病院薬剤師や他の医療職へ情報を共有し、患者さまの薬物療法をより手厚くバックアップすることが求められています。

●リフィル処方箋の導入

リフィル処方箋とは、症状が安定している患者さまの通院の手間を省くため医師が妥当と判断した場合に発行される処方箋で、3回を上限に繰り返し使えます。ただし、新薬や麻薬、向精神薬、湿布薬など一部の薬剤は処方できません。

患者の利便性をより向上させ、負担を軽減させるためのシステムです。

執筆者:石川 美和子さん(医療系ライター)

1985年に薬剤師資格取得後、約40年近くキャリアを重ねてきたベテラン薬剤師。

大学病院・調剤薬局・国立病院にそれぞれ約2年ずつ勤務したのち、配偶者の転勤に伴って各地の調剤薬局やドラッグストアで経験を積み、卸の管理薬剤師や在宅医療も経験している。現在はその経験と知識を活かして医療系ライターとしても活躍中。

記事掲載日: 2023/02/24

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