- 公開日:2021.02.04
第2回「薬局薬剤師×アパレル経営者」横田遼インタビュー
薬剤師として働きながら、薬剤師以外のジャンルに活躍の場を広げる方は近年増え続けています。この企画では、薬剤師の仕事を軸にもちつつも、様々な領域に特化し自らのキャリアを描く先人たちをご紹介していきます。
第2回目は、薬剤師として薬局で働きながら、ご自身のアパレルブランドショップ「Panenka(パネンカ)」を運営している横田遼さん。「Panenka」では白衣やスクラブをモチーフにした洋服を販売。医療従事者が運営するアパレルショップとして、唯一無二の存在感を発揮しています。
多忙ながら、現状を「楽しい」と言い切る横田さん。今回はそんな横田さんに、2つの職業で働くことを選択した経緯や、精力的に活動を続ける原動力などについてお話を聞きました。
- "平日は薬剤師、土日はアパレル経営者"
- 就職間近の薬学生が、アパレル経営者になるまで
- 「楽しい」と思えるかどうかが、一番の原動力
- 薬剤師として、アパレル経営者として。自分にしかできないことを続けていきたい
"平日は薬剤師、土日はアパレル経営者"
薬局薬剤師以外に、ご自身で立ち上げたアパレルブランドのショップを運営する横田さんの、現在の活動について教えてください。
基本的には月曜日から金曜日まで調剤薬局で働き、土日にお店を開いています。アパレルではオンラインでの販売や卸もしているので、平日の夜間や薬局の休憩中に時間をもらってお店に来ることもありますね。
今の職場は忙しく、患者さんが1日200人ほど来局されています。ただほかの薬剤師さんや事務さんがとても優秀な方ばかりなので、平日もアパレル運営のほうに時間を割くことができ、本当にありがたいですね。今の薬局に就職する時点で、社長には薬剤師以外の活動をしていることは話しているので、変則的な動きにも理解のある職場だと感じます。
そもそも横田さんが薬剤師になろうと思ったきっかけを教えてください。
進学校に通っていたので周りも大学に進学する人が多く、大学には行くべきなのかなと思っていました。そんなとき、たまたま薬剤師の求人票を見たのですが「時給が高いな」と思って(笑)。小さい頃から薬剤師を目指していたというわけではなく、それがきっかけですね。
就職間近の薬学生が、アパレル経営者になるまで
もうひとつの職業であるアパレルについて伺います。洋服は昔から好きだったのでしょうか?
洋服は子どものころから好きですね。小学生のときは普段着がジャージだったのですが、そのジャージにこだわっていたのが洋服を好きなるきっかけだと思っています。
中学生になると行動範囲も広がり、地元の茨城から東京まで同級生と買い物に行ったこともありましたね。
小さなころから洋服が好きで、その後も熱量は変わらなかったのですね。薬学部卒業後、ニューヨークに留学されたそうですが、そこに至るまでの経緯を教えてください。
当時は薬学部が4年生だったので、4年になると周りが就職活動を始めましたよね。それを見て自分の将来について考えたとき、このまま薬剤師になるのももちろん良いけど、昔から好きな洋服のことをちゃんと勉強したいと思うようになりました。
両親に相談したら、薬剤師資格の取得を条件に許しをもらって。話しているうちに、せっかくなら洋服について学びながら英語も勉強できるニューヨークがよいのではという方向になりました。まったく知らない場所なので不安な気持ちもありましたが、それよりも楽しみな気持ちのほうが大きかったですね。
好きなことでも実際に行動に移すのは大変だと思いますが、そのパワーはどこから湧き上がるのでしょうか。
もともと新しい環境に飛び込むことにあまり抵抗はない性格なのですが、おじいちゃんになってから後悔したくないという気持ちは強くありましたね。やりたいと思ってもなかなか動けないときは、年を取ってから後悔しないかと考えてみると良いかもしれません。
何かを決断するときに、判断軸をもっておくことは重要ですね。ブランドを立ち上げるビジョンは留学中からお持ちだったのでしょうか?
ニューヨークに住んでいるときから、いつか自分の作った服を売りたいと思っていましたね。そこでまずは資金を貯めなければと思い、帰国後はより時給の高い派遣薬剤師として働こうと考えていました。ただそれには実務経験が必要だったので、はじめの3年間は正社員で調剤薬局に勤務しましたね。そのあと、派遣薬剤師として山梨県で1年、愛知県で1年働きました。それまでほとんど縁のない土地でしたが、どちらもまた住んでもいいなと思えるくらいとても楽しかったです。
目標に向けて着実にステップを踏まれていますが、お店のコンセプトとなる「白衣」の構想はいつ頃生まれたものなのでしょうか?
白衣のモチーフは、働きだして2年程で出てきたアイデアですね。実は白衣ってただのシャツ地のコートではなく、使いやすいようにいろいろと考えられているんです。それで普段は医療現場でしか着られない白衣を、一般向けに展開していったら面白いかなと考えるようになり、今に至っています。
白衣モチーフの洋服のなかでもメインの商品が「WHYTE COAT」です。ユニフォームとして使われることを想定して作っているので、ガンガン着倒してもらえるように値段は抑えています。加えて、コートはコートだけど、ワークコートよりも軽く、シャツに近いような着心地で動きやすくするなど機能性にもこだわりました。お客さまからも軽くて動きやすいという感想をいただくことが多く、嬉しいですね。
「楽しい」と思えるかどうかが、一番の原動力
お店を開業するという目標を達成した現在も平日は薬剤師として働かれていますが、働き方を変えようとは考えませんでしたか?
現在の生活水準を維持するため、という理由もありますが、単純に薬剤師の仕事が結構好きなので、それは考えませんでした。最初の1、2年は正直に言うと楽しいと思えなかったのですが、いろいろな場所で働くなかでできることが少しずつ増えていくのを感じ、だんだんと楽しくなってきましたね。
「楽しい」と思えるかどうかは、2つの職業で精力的に活動を続けられる原動力にもなっていそうですね。
そうですね。どちらの仕事も好きですし、楽しいと思えることを大事にしています。楽しくないと続けられていないと思うので。
また、どちらかの仕事でへこむことや嫌なことがあっても、もうひとつの仕事をしている内に気にならなくなることはよくあります。それぞれの仕事が逃げ道になっているとい言うか。2つの軸をもっていてよかったと思いますね。
2つの軸をもつことがどちらの仕事にも良い影響を及ぼしているのですね。ほかにもアパレルのご経験が薬剤師の仕事に役立っていると感じる場面はありますか?
お店を始めてから、薬局での患者さんとの接し方も少しだけ上手になったような気がします。お客さんが何を求めているか、どのように感じているかなどは、表情や声のトーンなどから読み取れることも多くあるので。
それから店舗を経営するなかで、利益の構造についても以前より考えるようになりました。薬剤師として働いているときも、薬価差益や患者さん1人あたりでどのくらいの点数を算定できているのかなど意識するようにはしています。お金の流れを意識するようになったのは店舗経営を経験したからこそかなと思いますね。
薬剤師として、アパレル経営者として。自分にしかできないことを続けていきたい
今後のご自身のキャリアについて、お考えを教えてください。
薬剤師としては、何か新しいことを学べる場所で働きたいです。今後また別の職場となったら、薬学的な部分以外も含めてそこでしか学べない何かがある場所に行きたいですね。
Panenkaでは、自分だからこそできるモノづくりを続けていきたいです。世の中に洋服はたくさんありますが、医療従事者がやっているアパレルブランドは僕が知る限り日本にはありません。たとえば今は白衣だけでなくスクラブをモチーフにした服も販売しているのですが、お客さまに「オペのときなどに着るものです」と説明することで一つのひっかかりになるのかなと思っていて。僕の視点だからこそ出てくる発想は常に意識しています。
ありがとうございます。それでは最後に、薬剤師としてキャリアをどう歩んでいくか悩んでいる若手薬剤師の方にメッセージをお願いします。
「楽しい」と思いながら働けるのが一番いいと思います。仮に今は楽しいと思えることが少ないとしても、自分がそうだったように続けるうちに楽しくなっていくこともあると思います。できる業務も増えてきますし。ポジティブな気持ちになれる場所や働き方を自分で選んでいけるとベストではないでしょうか。
横田遼(よこた・りょう)さん
薬剤師、アパレル経営者。平日は薬局薬剤師として働きながら、アパレルショップ「Panenka」を運営。「白くない白衣のお店」をコンセプトに、自身でデザインした白衣やスクラブモチーフの洋服を中心に販売している。