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  • 公開日:2021.01.26

「分割調剤」とは?メリット・デメリットと実践する際のポイント

「分割調剤」とは?メリット・デメリットと実践する際のポイント

これまでに分割調剤の処方せんを受け取ったことはありますか?めったに見ることがないので、まだ分割調剤を経験したことのない方も多いのではないでしょうか。

しかし、分割調剤の基本的な知識を身につけておかないと、必要なときにそのメリットを活かした服薬指導ができません。そこで、この記事では分割調剤という制度ができた理由、そしてそのメリットやデメリットまで詳しく解説します。

「分割調剤」とは?

「分割調剤」とは?

分割調剤とは「医師の指示により最大3回に分けて調剤を行うこと」で、2016年度の診療報酬改定により実施が可能になりました。おもに「患者さまがお薬を服用するうえで、薬剤師のサポートが必要」だと医師が判断した場合に分割調剤として処方されます

なかには「2016年よりも以前から分割調剤はできたのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、これまでの分割調剤は、以下のようなパターンのときに行っていました。

  • お薬が長期間にわたって処方されているが、患者さまの管理が難しいと判断された場合
  • 初めて使用するジェネリック医薬品に不安があるので、少量だけお試しをしたいと患者さまから要望があった場合
  • 長期処方やジェネリック医薬品のお試しで行う分割調剤は、医師への連絡は必要になるものの「医師の指示」は必要ありません。そのため基本的には薬剤師の判断で行えました。一方で、2016年から導入された分割調剤は、医師の指示が必要となります。

    「医師の指示による分割調剤」を取り入れた目的

    では、ここからは2016年の診療報酬改定で新しくできた「医師の指示による分割調剤」について詳しく解説します。なぜこのような分割調剤の制度ができたのでしょうか。

    分割調剤の制度を導入する目的について、実は明確な理由は発表されていません。しかし、分割調剤を行うメリットを考えると、次のようなことが目的だと考えられます。

    ・残薬を防ぎ、医療費を削減する

    国の医療費が年々増え続けていることは、多くの方がご存知でしょう。令和元年の医療費は43.6兆円を記録しており、約20年前と比べると実に10兆円近くも増えています。この医療費の増大に大きな影響を与えていると考えられているのが、残薬です。実は75歳以上の患者さまだけを見ても処方されたお薬のうち、475億円分のお薬が飲まれることなく眠ったままになっていると言われています。

    分割調剤を行えば、長期間にわたるお薬を一度に患者さまへ渡すことがなくなり、途中で残薬の確認ができるので必要のないお薬を渡す頻度を減らせるのです。

    ・適切な服薬管理でポリファーマシーを予防する

    いくら飲み慣れたお薬であっても、医師や薬剤師の介入なく何か月にもわたって飲み続けるのは、副作用や効果不足などのリスクが考えられます。場合によっては途中で併用薬が増え、飲み合わせに注意が必要になることもあるでしょう。分割調剤では患者さまと対面する機会が増えるため、このようなリスクを減らすことができます

    ・より患者さまの健康状態を観察できるようにする

    患者さまにお薬を渡した後、ほとんどの場合は次の来局まで患者さまに関わることはありません。しかし、「患者さまに薬を渡してそれで終わりでいいのか?」と言われればそうではないもの。分割調剤だと、患者さまが実際に服薬をはじめてからどのような変化があったのかまでしっかりと観察できるため、より踏み込んだ服薬管理が可能になります。

    まだ広く普及しているとは言いがたい分割調剤ですが、うまく活用することで、服薬アドヒアランスを改善したり、副作用を発見できたりといった報告がされています。たとえば、関節リウマチやホルモン剤などで分割調剤を行った例では、服薬による容体の変化や副作用の早期発見につながりました。薬剤師が細かく介入することで、患者さまの変化をいち早くキャッチし、容量や薬剤の変更によって治療を進めやすい状態にできたのです。

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    分割調剤を取り入れる際のメリット・デメリット

    分割調剤を取り入れる際のメリット・デメリット

    分割調剤を行うことで、患者さまに何かしらのメリットがあることは分かりました。では、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。また、分割調剤を行ううえでのデメリットはないのでしょうか。それぞれどのようなものがあるのかを紹介します。

    メリット

    分割調剤を行うメリットとしては、主に以下のものが挙げられます。

  • 服薬アドヒアランスを向上できる
  • 副作用に早く気づける
  • 長期間にわたる処方でも服薬管理がしやすい
  • 薬剤変更による効果の出方を観察しやすい
  • 服薬管理能力に不安がある患者さまに細やかな指導ができる
  • 薬剤師が患者さまの服薬状況を細かく観察できるようになることで、体調や副作用の変化に早く気づき、結果として服薬アドヒアランスを向上できます。最大3回まで分割できる=服薬指導の回数も最大3倍にまで増やせるので、90日分など長期にわたる処方でも効果や副作用などを観察しながらの管理が可能です。患者さまへの介入回数が増える分、薬剤の変更があった場合も変化に気づきやすくなります。

    また、飲み忘れや飲み間違いが多い方へのケアがしやすいこともメリットのひとつ。「余っている薬はありませんか?」「飲みにくいお薬はありませんか?」とこまめに服薬状況を確認し、残薬の調整や薬剤変更の提案が可能です。

    デメリット

    分割調剤をすることはよいことばかりにも思えますが、次のようなデメリットもあります。

  • 薬剤師の業務負担が増える割には算定があまり取れない
  • 「2回目以降は近隣薬局で受け取りたい」といった要望が患者さまからあがることも
  • 長期間にわたる処方を促すことにつながる
  • 医師の指示による分割調剤を行った場合、2回目以降の調剤からは必ず医師へ患者さまの服薬状況や体調の変化などを報告しなければいけません。次回から薬局を変えたいと患者さまが言えば、持参予定の薬局に現在の服薬状況などを伝える必要もあります。そろそろ薬がなくなる頃なのに来局されない場合には、状況確認のため来局を促すこともあるでしょう。

    このように分割調剤を行うと、様々な業務負担が加わります。しかし、現状では1回の調剤につき、調剤基本料や調剤料、薬学管理料は所定の点数を分割回数で割ったものしか算定できません。服薬情報等提供料に関しては分割回数で割ることなく1回につき30点を算定できますが、それでも労力の割に合わないと考える方は多いでしょう。

    「手間がかかるのにむしろ算定点数が低くなるのはどうなのか」「分割回数で割らずに1回の調剤につき通常通りの点数を算定すべきだ」との声が多くあがっており、現在でも点数については議論が続いています。また、分割調剤を推進することで無闇な長期処方を促し、適切な治療が行われにくくなるのではといった懸念の声も少なくありません。

    分割調剤を行ううえで薬剤師が注意すべきこと

    分割調剤を行ううえで薬剤師が注意すべきこと

    せっかくの分割調剤も、ただ処方せん通りに調剤してお渡しするだけではまったく意味がありません。なぜ医師が分割調剤の指示を出したのかを把握し、うまく患者さまの服薬管理に介入していく必要があります

    そもそも分割調剤になる処方せんは、長期処方が前提です。つまり薬剤師による服薬管理がスムーズにいかないまま分割調剤を推進すると、必然的に長期処方を促すことになってしまうのです

    適切な服薬指導を行い、患者さまをしっかりとサポートしていきましょう。

    分割調剤となる意味を理解し、患者さまのよりよい服薬管理を支えよう

    医師の指示による分割調剤は、医療費の削減や手厚い服薬管理などにつながります。患者さまへの服薬状況や容体を確認する機会が増え、これまではなかなか難しかった細やかなケアが可能になるのです。また、体調の変化や副作用の有無にも気づきやすくなるため、患者さまの治療をスムーズに進めることにもつながります。

    しかし分割調剤は、このようなメリットがある一方で長期処方を促すと危惧されていることも事実です。患者さまの服薬にうまく踏み込めなければ、分割調剤のメリットをまったく活かすことができません。

    算定できる点数が低いなど分割調剤を推進するには環境が整っていない状況ではありますが、なぜ医師があえて分割調剤にしたのかといった、意図をくみ取り積極的に治療へ介入してくことが大切です。

    ファルマラボ編集部

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    記事掲載日: 2021/01/26

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