業界動向
2019.11.22

【基礎編】薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは?

【基礎編】薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは?

薬剤師として仕事をするうえで必要となるのは、「コミュニケーション」です。もちろん薬剤に関する知識も必要ですが、それ以上にコミュニケーションスキルが要求されています。しかも、薬剤師はプロフェッショナルとして、高い精度が求められるのです。

そこで今回は、全5回の連載を通じて、薬剤師に求められるコミュニケーションスキルを解き明かしていきます。答えてくださるのは、帝京平成大学・薬学部教授の【井手口直子先生(いでぐち・なおこ)】です。第1回は、コミュニケーションスキルの基礎を伺いました。

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求められるコミュニケーションの前提は「多様性の受容」

まずは、患者さまとのコミュニケーションで前提となることについて教えてください。

それは、「多様性の受容」です。端的に言うと、「みんな違う」ということを受け止めることですね。見た目が違うのは当たり前ですが、思考と感情の枠組みというのは目に見えないので、それを理解するためにはそれなりの働きかけをしないと話してもらえないのです。

患者さまは薬物治療を受けるうえで、「病気になってこれからどうなっていくんだろう」という不安や疑心暗鬼な気持ちをもっています。人というのは、自分の辛さをわかってくれる人に診てもらいたいので、多様性の受容がないと患者さまと良い信頼関係は築けません。

大切なのは、「この人だから話せる」と思ってもらえること

井手口直子先生

多様性の受容が前提となることがわかりました。では、患者さまとコミュニケーションを図るうえで、一番大切なことは何でしょうか?

まず必要なのが、『ファーマシューティカルケア』という概念になります。ファーマシューティカルケアとは、1990年にへプラーとストランドによって提唱されたもので、「患者さまのQOL向上のための薬物治療に関する責任を果たすこと」です。しかし、これは目的であって、具体的には「薬物療法の質を上げる」ことが求められます。

薬物療法の質を上げるために必要なことは何でしょうか?

それは、患者さまと「信頼関係」を築くことです。信頼関係とは少しずつ積み重なっていくもの。たとえば薬局の場合、「店内がきちんと整理整頓されていること」などちょっとしたことの積み重ねが非常に大切です。薬局が汚いというのは、薬剤師が患者さまを大事にしていないという表れ。薬剤師が患者さまに対して、「私たちはあなたに気を配っていませんよ」という目に見えないメッセージとなってしまうのです。

大切なのは、「この人だったら話せそう」と思ってもらうこと。話せそうと思えない人には本音は言いません。患者さまは命に関わることを医師に託していて、「余計なことを言ってしまうと良い治療を受けられなくなるのでは」と思っている。つまり、患者さまはそもそも本音を言わない人たちなのです。聴く耳をもたない薬剤師には話す気にもならないでしょう。そういう意味では、患者さまに「この人話せそう」と信頼してもらうことが大事です。

本音を引き出すコミュニケーションスキルとは

患者さまの本音を引き出すためのコミュニケーションスキルについて教えてください。

まずは、人間の欲求について見ていきましょう。心の本質的欲求には以下が挙げられます。

  • 慈愛願望欲求
  • 自己信頼欲求
  • 慈愛欲求

「慈愛願望欲求」とは、認められたい、わかってもらいたいという欲求です。相手がいないと満たされません。「自己信頼欲求」とは、相手ではなくて自分で自分を信頼したい、自分を好きになりたいという欲求。「慈愛欲求」とは、愛したいとか大事にしたいという相手に対する欲求です。人は皆、これらの欲求を持ち、これらを満たそうとして生きています。

たとえば、『あなたはなぜ薬剤師になりたいの?』と聞かれて、「親が喜ぶから」と答えるのは慈愛願望欲求です。「自立して自信をもって生きたいから」と答えると自己信頼欲求。「本当に困っている人をなんとかしたいから」と答えるのは慈愛欲求です。それぞれ単独のこともあれば混ざっていることもあります。

これら3つの欲求のなかに具体的な本音があるのですね。

そうです。ただ認めて欲しいと思うだけでは誰も認めませんから、上の例で言うと「早く薬剤師になって認められたい」というのが本音となります。実はこの本音のうえに感情があり、感情は「期待」と密接な関係があるのです。

人は期待をもって生きています。「喜び」というものは、期待が満たされた時の感情です。一方、「怒り」というのは、満たされると思っていたことが満たされない時の感情。「悲しさ」とは、親しい人が遠くに行ってしまうとか失恋などのように、諦めなくてはならないという感情。「不安」とは、見通しがつかない時の感情です。そして、「苦しさ」とは、これら3つのネガティブな感情が持続している状態になります。

薬剤師は、患者さまの言葉だけではなく、その背後の感情を捉える能力が重要です。それは本音を開くドアノブのようなもの。その人のどんな期待が「満たされていない」のか、「諦めを感じている」のか、「見通しが立っていない」のか判断しなければなりません。

『受容的傾聴(パッシブリスニング)』と『積極的傾聴(アクティブリスニング)』

井手口直子先生

その他、患者さまとのコミュニケーションを築くうえで必要なことは何でしょうか?

相手の話を「聴く」ことでしょうか。最近では、義務教育でもディベートなど「話す」トレーニングが増えてきていますが、意外と多くの人は他者の話を聴けないのです。

聴き方には2種類ありまして、1つは『受容的傾聴(パッシブリスニング)』です。これは「そうなんですね」という聴き方です。うなずいたり、相槌を打ったりして、「聴いていますよ」というサインを出し続ける方法になります。このような聴き方をしていると、話し手は良い気分になります。しかし、この聴き方だと話が広がってしまいまとまりがなくなってしまう。「患者さまが話し続けてしまってさえぎることができない」という話を現場でよく聞きますが、これは受容的傾聴をしていて薬剤師側が話の主導権を握れていないのです。

一方、『積極的傾聴(アクティブリスニング)』とは、質問を多用していく手法になります。これは会話の主導権を聴き手が握るということであり、タイムマネジメントができる手法です。このような聴き方は、習わないとなかなか身に付きません。まずは、コミュニケーション能力が高い上司や同僚の聴き方を注意してみてみましょう。

なお、相手の感情を捉えながら聴く方法を「共感的傾聴」と言います。話にはいくつかの事柄が登場しますが、そこには必ず感情が含まれており、感情の裏側に本音があります。そのため、会話に登場する事柄をしっかりとキャッチしながら聴くことが求められます。

共感とはどのような状態なのか

共感とは結局のところ、どのような状態を言うのでしょうか?

多様性を受容するために、相手の思考と感情の枠組みを捉えようとすることです。『共感的繰り返し』という方法があるのですが、これは事柄(病気が治らないこと)と感情を捉えてそのまま返事をするというものです。それに対して、相手から「そうなんですよ」という答えが返ってきたら、それは共感的な聴き方になります。

一方、こちらから「そうなんですか」という返事を繰り返しているだけでは、共感状態にはなっていません。「私、仕事辞めないといけないので心配です」→「仕事を辞めなければいけないんですね」→「そうなんですよ。この病気はなかなか治りませんからね」という感じで、どんどん話が深くなっていきます。このような聴き方が共感的傾聴の一例であり、薬剤師に求められるコミュニケーションスキルです。

今回は基礎編として、薬剤師に求められる患者さまとのコミュニケーションスキルをご紹介しました。患者さまへ寄り添うために心掛けたいことを学ぶことができたのではないでしょうか?次回以降、<患者さま><医療関係者><職場スタッフ>という3つの立場の方々とのコミュニケーションスキルについてお聞きします。本連載企画を通じ、コミュニケーションスキルを高めていただけますと幸いです。

井手口直子先生の写真
  • 井手口直子(いでぐち・なおこ)先生

薬剤師。帝京平成大学薬学部薬学科 教授。帝京大学薬学部卒業後、新医療総合研究所代表取締役、日本大学薬学部専任講師を経て現職。日本ファーマシュティカルコミュニケーション学会常任理事、日本地域薬局薬学会理事、日本緩和医療薬学会評議員等を務める。

主な著書に、『ファーマシューティカルケアのための医療コミュニケ-ション』『薬学生・薬剤師のためのヒューマニズム』『薬剤師のためのコミュニケーションスキルアップ』などがある。現在、ラジオNIKKEI の医療インタビュー番組『井手口直子のメディカルカフェ』のパーソナリティとしても活躍中。

▼WEBサイト:井手口直子のメディカルカフェ

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記事掲載日: 2019/11/22

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