業界動向
  • 公開日:2021.09.13

薬剤師なら知っておきたい!薬ができるまでの工程と期間

薬剤師なら知っておきたい!薬ができるまでの工程と期間

薬剤師として毎日のように取り扱う薬。しかし、その薬が世の中に出るまでにどのような工程を経ているか、意外と知らない方が多いかもしれません。

長い期間のなかで、"薬のタネ"を探したり非臨床試験や臨床試験を行ったりといくつもの段階があります。今回は、その工程と期間について詳しく解説していきます。

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国内における新薬開発の動向は?

国内における新薬開発の動向は?

医薬品の開発には9~17年もの期間、そして数百憶~数千億円規模の費用が必要になります。一方で、これだけ多くの時間と費用を投じても成功確率はごくわずかです。さらにその確率は年々低下傾向にあり、2008年は1.6万分の1だった成功確率は、2018年には2.5万分の1に下がっています

このような状況を鑑み、厚生労働省では大きく2つの対策を打ち出しました。1つは「臨床研究の実施体制の整備」です。具体的には、医師主導治験や国際水準の臨床研究の中心的な役割を担う病院を臨床研究中核病院として医療法上に位置付け、革新的医薬品や医療機器の開発などに必要となる臨床研究の推進を狙っています。また、臨床研究法を成立させ、臨床研究の透明性向上や信頼確保を図っています。

2つ目は「CINを活用した臨床研究の推進」。CIN(クリニカル・イノベーション・ネットワーク)は、疾患登録システム(患者レジストリ)に蓄積された情報を活用するため、関係機関でネットワークを構築し、産学連携によって治験コンソーシアムを形成させる構想です。CIN構想によって、治験や臨床研究をはじめとした医薬品・医療機器の研究開発の効率化を目指しています

新薬や新医療機器の開発コストが世界的に高騰するなかで、開発の低コスト化や効率化を図りながら、質の高い臨床研究を推進していくことが国をあげた喫緊の課題となっています。

【薬ができるまで】①基礎研究(2~3年)

【薬ができるまで】①基礎研究(2~3年)

薬を作るための第一歩は薬のもととなる物質を探す「基礎研究」で、2~3年ほどの時間が必要です。天然素材から成分を抽出したり、バイオテクノロジーなどを用いて化合物をつくったりして、出てきた物質の調査を繰り返し行い徐々に候補を絞っていきます。

具体的な工程は以下の通りです。

患者さまの状態について詳しく調べる

薬のもととなる物質を探すため、まずは対象となる病気の患者さまがどのような症状に苦しんでおり、どのようなことを求めているのかを詳細に調べます。患者さまを理解することは、本当に必要な薬を考えるうえで欠かせない工程です

病気のメカニズムを研究する

続いては対象となる病気の調査です。病気のメカニズムを研究し、治療のために狙うべきターゲットはどこかを調べます。そのうえで、ターゲットに反応する物質は何なのかを探していきます

候補をしぼる

長年の研究によって、もととなる物質の候補は各製薬企業に膨大な量が保管されています。そのなかから候補をしぼったうえで、試験と検証を繰り返し行うことが必要です。そして、さらに絞り込まれた物質のうち、安全性や有効性が高いものを選出して非臨床(前臨床)試験に進みます

【薬ができるまで】②非臨床(前臨床)試験

②非臨床(前臨床)試験

物質の候補を見つけたら、薬として効果が発揮されるかどうか動物や細胞を用いて有効性と安全性を確認します。これは「非臨床(前臨床)試験」と呼ばれ、3~5年ほどの期間を費やします。その名の通り臨床試験(=人体への投薬)の前に行う試験です。

具体的には以下のような工程で進んでいきます。

薬効薬理試験

薬効薬理試験は、薬として効果が発揮できるか確認する試験です。薬の使用方法や効果を出すために必要な量などを試験するほか、効果検証に最適な試験の方法についても検討します。環境や条件を変えて繰り返し行うことも欠かせません。

安全性試験

患者さまに使用した際に、副作用などの有害事象が起きないかを確かめる試験です。細胞や生理機能への作用、発がん性の有無、毒性の有無などを調べ、少しでも問題があれば改良を行うといった工程を繰り返し行います。患者さまに安全な薬を届けるために、非常に重要な工程と言えるでしょう。

物性試験

物性試験は、薬が体内で実際に効果を発揮できるか、医療現場で安定して使えるかなどを検証するものです。具体的には、水や脂にしっかりと溶けるかの確認や、温度や湿度など外部環境の変化にある程度耐えられるかなどを見ていきます。

薬物動態試験

薬の候補である物質が体内に入り、体外へ排出されるまでの動きを確かめます。どんなに良い物質でも、吸収が悪かったり代謝が良すぎたりすると薬として良い治療効果を発揮できません。また、ほかの薬との相互作用も検証し、より安全かつ効果が期待できるよう改良を繰り返します。

【薬ができるまで】③臨床試験(治験)

③臨床試験(治験)

次は、人体への有効性・安全性を確認するため臨床試験(治験)を行う工程です。同意を得た患者さまや対象者に投薬を実施してデータを集め、問題なく世に出せるかどうかを確認していきます。臨床試験は3段階のフェーズに分かれ、3~7年をかけて繰り返し試験を行います

各フェーズについて、詳しくは以下の通りです。

フェーズⅠ

フェーズIでは抗がん剤など一部の薬を除き、基本的に少人数の健康な成人に対して投薬が行われます。少量から少しずつ量を増やしていったり、一定量を定期的に投与していったりする方法が一般的です。

血液や尿などに含まれる物質の量から、体内への吸収時間と排泄時間を確認し、薬の安全性や有効性などを調査していきます

フェーズⅡ

前期試験と後期試験に分けられるフェーズⅡ。少人数の比較的症状の軽い患者さまを対象に、適応する疾患の範囲や適切な用法用量について調べていくのが前期試験です。後期試験では、数百人ほどの患者さまを対象に、有効性や副作用などについて調査します。

前期試験から後期試験にかけては、徐々に投薬量を増やしていくのも特徴です。複数の用量で時間をかけて投薬量を変化させることで、どの用法用量がもっとも適切かを確認します。なお、フェーズⅡでは、薬の治療効果を明らかにするためプラセボの使用も一般的です。

フェーズⅢ

数百人から数万人までの規模で行うのがフェーズⅢです。実際の治療を想定した投与を行い、最終的な有効性や安全性、用法用量の確認を行います。すでに使用されている既存薬がある場合は比較し、既存薬がない場合はプラセボとの比較が一般的です。

なお、この段階では対象となる疾患だけでなく合併症を抱える患者さまを対象にしたり、長期的な試験を行ったりすることも。また、バイアスがかかることを避けるため、医師も患者さまも投薬される薬が治験薬かプラセボかわからないようにする二重盲検法が行われる場合も多くあります。

▼参考記事はコチラ
日本SMO協会 くすりができるまで

【薬ができるまで】④承認申請

④承認申請

臨床試験で有効性や安全性などが確認できたら、厚生労働省に販売の承認申請を行います。実際の審査は医薬品医療機器総合機構(PMDA)によって行われ、そのあと薬事・食品衛生審議会で審議される流れです。これらを経て医薬品として問題ないという承認を得られると、ついに製造・販売が可能になります。

安心・安全な薬をつくるためのルール「GMP」とは?

安心・安全な薬をつくるためのルール「GMP」とは?

「GMP(Good Manufacturing Practice)」は、医薬品の製造・販売を担う業者や臨床試験を行う医療機関に対する、製造管理や品質管理の基準に関する省令のことです。患者さまに安定して高い品質の医薬品を提供するために、様々なルールが定められています。

GMPを理解するうえで重要な考え方として「GMPの三原則」があります。日本のGMPをはじめ、諸外国のGMPもこの要件にまとめられていると考えられています。

GMPの三原則

1. 人為的な誤りを最小限にすること
2. 医薬品の汚染及び品質低下を防止すること
3. 高い品質を保証するシステムを設計すること

【参考資料】日本医薬品原薬工業会GMPとは

膨大な時間と費用をかけて、薬はできあがる

今回は、薬が世に出るまでの流れについて詳しく解説しました。日本では9~17年もの年月、そして数百億~数千億という費用をかけて薬の開発が行われています。薬のもととなる物質を探す基礎研究から非臨床および臨床試験、そして厚生労働省への承認申請までの各工程をご理解いただけたでしょうか。

薬剤師には様々な働き方があり、今回ご紹介したように製薬に関わる企業で働くことも一つの選択です。薬局やドラッグストアなどとは業務内容が異なりますが、新しいキャリアへの道が開けるかもしれません。興味のある方は、転職コンサルタントへ相談してみるとよいでしょう。

Webからのご相談も可能。お気軽にお問い合わせください。 個別お仕事相談会

ファルマラボ編集部

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記事掲載日: 2021/09/13

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