服薬指導に活かす医薬品情報

アリセプトD錠

Q

何のお薬?処方目的は?

A

適応症は「アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」です。世界で初めて開発されたアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬で、軽度から高度まで幅広く用いられます。コリン作動性神経系の賦活によるアルツハイマー型認知症の症状改善が目的で、病態そのものの進行を抑制する薬剤ではありませんが、患者さまとそれを支えるご家族や介護者の負担を大きく軽減し、QOL を向上させることが期待できます。


Q

投与方法、投与量は?

A

1日1回3mg から開始し、1~2週間後に5mgに増量します。服用初期にコリン作動性神経賦活による嘔気・嘔吐や下痢、食欲不振などの消化器症状が起こることがあり、それを抑える目的で有効用量ではない3mgから開始するため、原則として3mgのまま1~2週間を超えて使用してはいけません。5mgへの増量時は症状悪化によるものではないことを説明して安心していただきましょう。効果発現までは約3 ヶ月が目安ですが、前述のように進行抑制が目的であり「症状に変化がない」ことも薬の効果です。症状が良くならないからと自己判断で治療を中止せずしっかり継続してもらえるよう、服薬指導の際は留意して情報収集してください。勝手な中止により未治療の場合と同じ状態まで症状が進行してしまうこともあります。

高度の場合は1日10mgに増量しますが、この場合も消化器系副作用の発現を抑えるために5mgで4週間以上経過後に増量します。なお多くの場合、消化器症状が発現しても1週間程度で消えていきます。


Q

飲み忘れはないか?

A

食事による吸収への影響は受けないので、1日1回いつ服用しても構いません。飲み忘れに気づいたら、気がついた時にできるだけ早く服用してもらうとよいですが、服用すべき時間から半日以上経過していたら1 回分を飛ばし、次から規則的に服用してもらってください。半減期が長く(約80時間)服用当日に効果を発揮する薬剤ではありませんので、1度飲み忘れただけでは効果に影響はありません。


Q

服用方法における注意点は?

A

認知症では「飲み込みにくい」「飲み込むまでに時間を要する」などの理由から服薬を拒否する患 者さまも多く、口腔内崩壊錠は飲みやすい剤形だといえます。水なしで服用できますが、口腔粘膜から吸収されないため崩壊後は唾液または水で飲み込む必要があります。

本剤は、カラギーナン(お菓子のゼリーなどにも使用されている海草由来のゲル化剤)という添加物によりドネペジル塩酸塩の苦味が軽減されていますが、水分などによりその結合が外れるよう設計されており、長時間口腔内にとどめるとドネペジルによる苦味が現れることがあります。一般的に高齢者では唾液の量が少ないことが多く、崩壊までに時間がかかったり、崩壊後に飲み込めなかったりする場合もありますので、少量の水での服用を勧めるとよいでしょう。なお、寝たままの状態では、食道に付着して炎症を起こすことを避けるため、水なしで服用してはいけません。


Q

他科受診の確認と、重篤な副作用

A

本剤のコリン作動性作用により迷走神経が刺激されることがあります。その結果、徐脈や不整脈を起こす可能性があるため心疾患の患者さまが、胃酸分泌を促進するため消化管潰瘍の既往歴がある患者さまが、気管支平滑筋の収縮を起こすことがあるため気管支喘息や閉塞性肺疾患の患者さまが、それぞれ慎重投与となっています。パーキンソン病など錐体外路障害のある患者さまでは、線条体のコリン系神経の亢進による症状悪化の可能性があり、やはり慎重投与です。重篤な副作用としてQT 延長や徐脈、消化性潰瘍、錐体外路障害といった報告もありますので、他病院受診の有無や既往歴をしっかり確認してください。


Q

併用薬の確認

A

本剤は主にCYP3A4、一部CYP2D6で代謝されますので、イトラコナゾールやエリスロマイシンとの併用で代謝阻害が、カルバマゼピンやリファンピシンとの併用で代謝促進が起こることがあります。作用機序から、コリン作動性のあるベタネコールやジスチグミン、逆に抗コリン作用のあるトリヘキシフェニジル、ブチルスコポラミンなどとも併用注意です。また前述のように、コリン系の賦活により胃酸分泌が促進されることから、NSAIDsとの併用で消化性潰瘍を起こす可能性があります。併用時には注意深く自覚症状を確認してください。


掲載日: 2023/10/12
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